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NOBUNAGA  作者: ノブとナガ
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理由

 生まれて初めて、男性の勃起というものを体験した。奇妙な夢だったが、リアルに男性の勃起を体験した確信があった。

 光成様は、内戦で性犯罪が急増しないように、自ら去勢をされたと言う者もいれば、あのお方にタイマーをセットされて去勢の罰を受けたと言う者もおり、さまざまな噂が飛び交っていた。とにかくそのような噂が広まったことによって、日本は内戦状態になっても、性犯罪には厳しい目が向けられ、多くの女性が守られていた。光成様とあのお方のお陰である。


 私は、いつの間にか職場で眠っていた。客は帰っていた。内戦が始まって以来、私は売婦になった。内戦の賛成派だった私なりに、性犯罪が増えないように何ができるか考えた結果の行動だった。

 しかし、客のほとんどは、銃声が聞こえるとすっかり萎えてしまい、途中で諦めて帰ってしまうふぬけばかりだった。そりゃ、居眠りもしてしまう。


 きれいな朝日にぼんやりと見とれながら、電車に乗って家路を辿る。内戦が始まって一年が経ち、電車は人身事故で遅れることがなくなった。稀に銃撃戦の影響で遅れることがあったが、以前のように毎日のように人身事故で電車が止まってしまうようなことはなくなった。


 内戦になったとはいえ、日本人は戦い方を知らない。とっくの昔に忘れている。公共の交通手段を襲うような連中はほんの一部であったし、そういった輩はすぐに排除された。

 そして、『山梨の教訓』というものができた。内戦が始まってたった8日間で、山梨県は統一された。戦闘は一切行わず、話し合いによって平定されたのだ。しかし、その3日後には、再び山梨は分裂をした。不満を隠していた連中が、いたるところで決起し、今も内戦が続いている状態である。

 この『山梨の教訓』を各国が重く受け止め、今この国で起こっている内戦が、言葉だけで解決できるものではないと理解したのだった。


 一方、光成様は名古屋を治めると、愛知北東県警連合軍との激戦を制し、見事愛知を平定された。愛知北東県警は治安維持の大義名分のもと、和平の申し出をすべて拒否し、敵対する集団を一掃して愛知県の平定を目論んだが、多くの群衆を味方につけた光成様の前に敗北を喫していた。

 愛知だけではなく、多くの国で県警がかなり乱暴なやり方で、国を手中にしようとしている。実際に、静岡ではそうなってしまった。これも噂ではないが、そのことが光成様の逆鱗に触れ、近々愛知国と静岡国で戦になるのではないかと言われていた。


 私が暮らしている東京国はやっかいだった。もともと23区それぞれの主張があり、警視庁も権力を握ることを狙っており、他の国より、いたるところで争いが生じていた。そもそも、東京国生まれの人間は少なく、あらゆる国の人間が集まっているだけの場所だったのだから、まとまりっこない。このままでは、神奈川国や千葉国が平定されたら、あっという間に攻め込まれて負けてしまうことだろう。

 まあ、私には何の問題もないけれど……。


 アパートに帰る。銃痕が5ヶ所ほど増えていた。窓ガラスは割れていなかった。良かった。1LDKの冷たい部屋に入ると、私はシャワーを浴びるために服を脱ぐ。我ながら、魅力的なボディだと思う。それなのに、あの男共ときたらなんとだらしない。

「あっ」

 久しぶりに声を発した。私は、大事なことを思い出し、カレンダーの昨日の日付にチェックマークをつける。

 明日だ……。私にもタイマーがセットされていた。私は明日の17時までに、『銃を発砲しないと黒服の男に撃たれる』というタイマーがセットされていた。傍観は許さないという、あのお方らしいお考えだと思う。


 シャワーを浴びながらあらためて考えてみる。簡単なことだ。壁に向かって、撃ってしまえばいい。それだけでいい。何も考えないで、引き金を引いてしまえばいい。別に、誰か人を撃てとは黒服の男から言われていない。ただ、銃を発砲しろと言われただけだ。

 とはいえ、意味もなく撃てるほど、銃というものは軽くはなかった。この武器によって、幾万もの人たちが命を落とし、時代がつくられてきたのだ。

 私には、撃つ理由が必要だった。そして、それを見つけることができないでいた。だから、私は今では数千円で自販機で買える銃を所持さえしていなかった。


 シャワーを浴びると、なんだがお腹が空いたので、1週間に1日だけ営業しているラーメン屋に行くことにする。今から並べば間に合うだろう。


 みんなきちんと並んでいる。割り込んできたりする者などいない。会話も少ない。誰もが銃を持っているのだ、言い争いにならないようにみんな怯えていた。醤油ベースのラーメンのスープの香りが、沈黙の中、雄弁に漂っていた。

 こんな日常を過ごしていると、アメリカ人はよく銃と意見を堂々と持てるものだと感心させられる。


 前よりも麺の量が減っていた。材料が手に入らないからではない。並んでまで食べたい味なのに、残してしまう客が多いからだ。いつ、誰に撃たれるかもしれないという緊張感から、完食できないで帰ってしまう客が大勢いた。情けない男たちばかりだ。内戦になって、はっきりとした。


『ゲポッ』

 大盛りのラーメンを食べて、久しぶりに心を満たされた私は、アパートに帰るとさっさと歯を磨いて、ベッドに横たわった。

 夢の続きを見る方法を知っている人がいたら、銃で脅してでも聞きに行くのにな。そういう、理由は薬きょうのように、道に転がってはいなかった。


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