真夜中の高速道路にて
地元で過ごした楽しい日々も終わり、私は家に向けて車を走らせていた。
時刻はそろそろ午前1時すぎ、この時間にもなると高速道路を走る車は少ない。
早く帰ってベットの上で休みたい…。
私の頭はそんな考えでいっぱいだった。
緩やかな坂道を車は進む。
この先にはサービスエリアがある。
私はそこでコーヒーでも買って少し休憩する気でいた。
辺りは真っ暗だが、なんとなく山の中を走っている。その事だけは鮮明にわかった。
ガチャ…。
無事にサービスエリアについた私は車のドアを開ける。
真夜中ということもありサービスエリア内の人気は疎らだ。
お店も全て閉まっており、自動販売機の灯りが煌々と光り輝いていた。
よし、冷たいコーヒーでも飲んでリラックスしよう。この先はまだ長い…。
そう思いながら自動販売機のとこまでいこうとした時だった。
「あ…の…」
後ろから声が聞こえる。
私は恐る恐る振り返る。
そこには、スーツを着た男が立っていた。
年齢は40代後半くらだろうか。
私に話しかけながら男はずっと下を見ている。
「あなた…。忘れてますよ?」
男は一言私にそう言った。
「忘れてる…?いえ、私は何も忘れてはいませんよ」
一応、ズボンのポケットを確認したが、何も落ちてはいない。
「そうですか」
男はそう言うと暗闇の中へと消えて行った。
次に「その存在」に気がついたのは私がコーヒーを買い終えて車のエンジンをかけた時だった。
バックミラーに誰かが映ってる。
「えっ!?」
私は外に出て後ろを確認してみた。
そこにはさっきの男が立っていた。
「どうしたんですか?」
「あなた…。忘れてますよ?」
男は下を見ながら私にそう言う。
「いや、だから私は何も忘れてはいませんよ」
「あなた…。忘れてますよ?」
男は同じことを繰り返し言う。
「だから!私は何も忘れてはいませんから!もう行きますからね!」
私は男を無視して車を走らせた。
漆黒の暗闇の中を車のライトが照らし出す。
運転をしながら私はあの男が言ってた言葉が気になっていた。
いったい私は何を忘れているというのだろうか?
車は急なカーブを曲がる。
その時だった。
「あなた…。忘れてますよ」
「えっ!?」
私は後部座席を見る。
さっきの男が下を見ながら座っている。
「い、いつの間に乗ったんだよ!あんた」
私はつい大きい声をだしてしまった。
「あなた…。忘れてますよ」
「だから!何を!」
「あなた…。忘れてますよ。前を向いて運転することを」
「えっ!?」