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第一話 『浄化っ!』

連続投稿です。

2話以降はスローペースでのんびり投稿します。


第一話 『浄化っ!』




 辺境の一角にあるドーソンの村。

 住人の多くは農民で、その半数以上の家はなんらかの家畜を飼っているというよくある普通の村である。

 人口も二百人程度、酒場は宿屋を兼業したものが1つだけ、店は鍛冶屋が副業でしている雑貨屋が一軒のみという長閑で牧歌的雰囲気ある地方農村であった。


 ただ、ドーソン村は普通とちょっとだけ違った。


 どこが違うのか?


 住んでいる住人達の体格が何故か無駄に逞しいのである。

 男衆の大半は身長が2メテラ(約2メートル)近くもあり、女性も身体が大きい者が多かった。

 強面の者も多く、さらに武器を所持した者は男女問わず多い。

 流石に子供はまともだろうと思ったら、幼児以上の年齢は漏れなく木の棍棒所持がデフォルトである。

 棍棒を振り回しながら、山羊や豚といった家畜を追い立てるように誘導して家のお手伝いをしている姿が見受けられた。

 老人達等は歴戦の勇者を感じさせる佇まいで、ただでさえ恐い顔にいくつも傷痕がある者ばかりいて近寄りがたい雰囲気だ。

 普通っぽい住人は棍棒を持てない幼児や赤子ぐらいかもしれない。

 山賊の隠れ里と言われたら信じてしまいそうになる住人達の見た目に、初見の行商人や旅人等は回れ右して引くレベルである。

 服装はどこにでもいそうな質素な村人っぽく、遠目からだと普通に見えるので性質が悪い。


 ついでに飼われている家畜が他所の村々のそれより一回り大きい。

 いや、デカイ。

 餌が良いのか環境が良いのか、住人のサイズに合わせてか無駄に大きい。

 例えを出すならば、子豚を親豚か猪に間違うぐらい。

 成長良過ぎだろうと呆れるレベルであった。


 そして、どうしてここの家畜は立派なのだと訊ねると、大体皆同じ事を言う。


『サリア様と坊主の所為』と。





 村の中央付近にある石造りの粗末な神殿。

 そこに『坊主』がいた。

 坊主と言っても別に頭を丸めている訳でも墨染めの衣を着ている訳でもなく、村の男衆と変わらない普通の髪形をした少年である。

 具体的に言うと、伸ばし放題の肩まで届くロン毛。

 同年代の村の男衆との違いを服装以外で探すとするなら、細身の体躯と整った顔立ちといった所だ。

 細身といってもガリガリではなく、無駄のない引き締まった身体つきと補足しておこう。

 あと癖の強い天然パーマ。

 緑色の法衣に赤い帯を腰に巻いているのだが、強面マッチョな連中が近所に多く住む所為で、聖職者ではなく武道家に勘違いしてしまいそうになるが、これでも一応神官見習いである。

 その証拠に、聖印を首にぶら下げてるから間違いない。


 さて、『坊主』と呼ばれる少年が何をしているかというと、神殿の裏手でせっせと何かしていた。


グチャリッ……グチュグチュ……


 そんな素適な物音を発てながら、少年は鏝を片手にお仕事中である。

 漆喰を捏ね、それをひび割れた石壁に塗りこむを繰り返す。

 そう、少年は古びた神殿の補修作業を行っていた。

 顔や法衣に漆喰が飛び散って汚れていたが、それを特に気にする事なく手を動かしている。


 この少年の名はバロールという。

 六柱の神々を信仰する六星神殿に信奉する神官見習いである。


 そして、『前世の記憶』を持つ『転生者』でもあった。


 この少年が、家畜の巨大化をもたらしたらしい。

 どうやったのか?

 それはすぐに判るだろう。


 バロールという少年。

 山賊チックな容姿が多いこの村ではかなり目立つ。

 それもその筈、少年の両親がこの村の出ではないからだ。

 では、どこの血筋かというと、母親が大陸西部の生まれだという事しか判らないらしい。

 少年は孤児である。

 大陸西部から新たな販路を求めてやって来た行商人が連れていた奴隷の一人が、バロールの母だった。

 行商が終わり村から旅立とうとした時に産気付き、神殿に担ぎ込まれた後、バロールを産んですぐに息を引き取った。

 雇い主である行商人はというと、急いでいたのか赤子を抱えるのが面倒だったかは判らないが、バロールの母の身分を奴隷から解放すると発言し、赤子は解放民であると一筆書き残して、馬車に乗ってさっさと村から出ていってしまったのである。

 解放奴隷とはいえバロールの母の葬儀を準備していた村人達は、行商人の無責任さに呆れ、怒り、追いかけようとしたのだが、逃げられてしまった。

 さて、残された赤子は誰が引き取るのかと問題となった。

 あまり裕福な村ではない。

 どの家も自分達の家族を養うのでいっぱいいっぱいなのだ。

 引き取り手がいないので、産婆役をした助祭のサリアが引き取る結果となった。


 治癒術の使い手であるサリアを母に、師匠にバロールはスクスクと成長した。

 バロールは孤児であるにも関わらず惜しみない愛情を注ぐサリアに深く感謝し、義母の仕事を手伝いたいと幼少時より治癒術の修行を始めた。

 歯抜け状態ではあったが『前世の記憶』を持つバロールは幼少時から『大人』に近い意識を持っていたため、習得はかなり早かった。

 治癒術の練習台は怪我をした家畜が最初であった。

 治癒術者を目指すバロールの成長が嬉しいサリアは、ここでやらかしてしまう。


「村中の家畜を元気にできるようになったらみんな喜ぶさね。きっと誰もお前さんを孤児だと馬鹿にしなくなるさね」


 この言葉を聞いてバロールは頑張った。

 雨の日も風の日も雪の日も頑張った。

 山羊に体当たりを喰らっても頑張った。

 鶏に突かれても頑張った。

 牛に追いかけられても頑張った。

 兎に角頑張った。


 結果、村中の家畜が一回り大きな種へと変貌してしまった。

 大型種だらけになった事に住人から苦情はほとんど出なかったのは幸いである。

 健康になった家畜から採れる乳や肉、卵や毛等の質が若干高上したからであった。

 バロールを孤児だと馬鹿にする者はいなくなり、代わりに生暖かい目で優しくされるようになる……。


 以後も、色々とやらかしてバロールはドーソン村の住人として受け入れられたようだ。


 


「♪~っ」


 少年は鼻歌を歌いながら古い石積みの補修をしていた。

 村の開拓時に建立された素人造りの神殿がゆえ、小まめな手入れが必要なのだろう。

 季節の変わり目や大雨が降った後等に、神殿の住人や村の誰かが補修作業を行うのは、ドーソン村ではよくある風景の1つであった。

 きっと信心深い者が多いのであろう。

 バロールが作業している反対側では老人達数名が塀の補修をしていたり、若い男が一人屋根に上がって風雨で痛んだ神殿のシンボルにペンキを塗り直していた。

 神殿の中では、おばさん連中が雑談しながら掃除をしたり、小さな子供達が偶に母親にどやされながら掃除の手伝いをしていた。


 徐々に綺麗になってゆく神殿に、黄金色の法衣姿の小柄な中年女性が歩いて来る。

 しかめっ面をした助祭のサリアだ。

 体格は小柄で小太り、丸顔で顔の中央にある大きな鷲鼻に2つイボがある特徴的な容姿をした聖職者である。

 近寄りがたい瘴気のような気配を周囲に発しながら歩いているが、魔女ではない。

 たぶん。

 サリア助祭は短い手足をのそのそ動かして、神殿の裏手へと向って行く。

 彼女が動く度に、何故か泥のようなものがポトポト落ちていった。


 バロールの背後に彼女が近付いた時、少年は飛び上がって叫んだ。


「臭っ!! っ!? って、サリア助祭様、一体どうしたんですかっ!?」


 ゴゴゴッと威圧感を放ってそうなサリア助祭の姿を振り返り様に見たバロールは驚いた。

 しかめっ面で涙目の彼女はボソリ呟く。


「……豚が肥溜めにあたいを突き落とした」

「そっ、それはまた……」


 コメントに困る呟きである。

 彼女をよく見ると、黄金色の法衣を着ているのではなく、嫌な方の黄金色に全身染まっただけのようであった。


「うぅっ、臭くて吐きそ……うぇ。悪いんだけど、アレかけてくんないかねぇ?」

「はいはい、すぐにっ」


 バロールは鏝を漆喰桶に放って、彼女の元へと駆けた。


「光あれっ! 迷い子導く六柱の神々よ、彼の者を苦しめる不浄を消し去り賜えっ! “浄化”っ!」


 腕を頭上でクロスさせ、バロールは気合を籠めて“浄化”の法術を発動させる。

 バロールの腕に太陽の如き眩い輝きの光の玉が生まれ、少年がサリア助祭へと腕を振り下ろすと光の玉は彼女の頭部へと直撃した。

 知らない人がこれを見たら、光の玉でサリア助祭を攻撃したかのように映るだろう。

 それぐらい勢いよく光の玉をバロールは彼女の頭部へと振り下ろしたのだ。


「相変わらず無駄に眩いさねぇ」


 そうぼやくサリア助祭の身体に変化が洗われ……じゃなく表れる。

 いや、結果は同じだが。


 光の玉が彼女の身体を覆うと、パラパラと不浄が零れ落ちて行き、光が消え去ると真っ白な法衣姿のサリア助祭が現れた。

 ついでに彼女の足元にこんもりと泥のような物体もサークル状に現れております。

 それを踏まないよう、綺麗になったサリア助祭はそっと跨いで脱出する。


「それの掃除、サリア助祭様がして下さいね」

「うへぇ。ヤダねぇ……」


 排泄物で出来たサークルを指差してから、バロールはイイ仕事したわと額の汗を拭った。

 袖に付いた生乾き漆喰がバロールのおでこを白く染める。

 不平を零しながらも、スコップを持ってきて後片付けを始めるサリア助祭であった。


「くそが、くそくそっ、あの右目まわりが黒縁模様の豚め、冬篭り前に絶対あたいが加工したるけんのぉ。そうじゃそうじゃ、それがええ、イヒヒヒ……血抜きをする時はどこから切り裂いてやろうか……キヒヒッ」


 ブツブツと黒い発言をしながら排泄物を片付ける彼女の姿は、どう見ても魔女にしか見えなかった。


 六星神殿ドーソン村支部管理者サリア助祭。

 孤児であるバロールを引き取り育てた『立派な聖職者』である。

 王都の神殿でやらかして地方に飛ばされた過去を持つらしいですよ。




「またなんかやらかしとるんか?」

「あらあらまあまあ」


 神殿の裏手で眩い光が現れたので、補修作業や掃除の手伝いをしていた住人達が様子を見に来たようだ。


「かーちゃーん、サリアさまこわーいっ」

「しっ、指差しちゃいけませんっ」


「あに見てんだいっ! クソがっ!」


 肥さんを乗せたスコップを構えてサリアが裏手に集まって来た人達を一喝する。


「「「ギャーッ! 逃げろーっ!!」」」


 スコップに盛られたものを見て、まず子供達が逃げた。


「ちょっ!? サリア様、なんで肥料持って来てるんですかっ!?」


「っるさいよっ! さっさと作業に戻んな。今のあたしゃ、虫の居所がすっごく悪い所さねっ! ダラダラさぼってると、あたいのゴールデン・スコップが火ぃ吹いちまうよっ!」


 スコップを構えたサリアが、ドスドス歩いて大人達に近付く。


「「「うひゃあっ、なんでこっちに向けてるんですかっ!?」」」


「イーヒヒヒッ!!」


「「「ギャーッ! 逃げろーっ!!」」」


 関わってはいけないと、持ち場へと散って行く住人。

 それをゆっくり追いかけるサリア。


「何やってるだか……」


 虫の居所が悪い義母の暴走を止めもせずバロールは壁塗りに戻っていた。


 しばらくして、ぎゃあっと遠くでサリアの悲鳴が聞こえたが、バロールは無視して作業を続ける。

 どうせ、躓いて自爆したのだろう。

 無視無視。


 ドーソン村は今日も平和のようだ。

 晴天の空を見上げ、バロールは明日も良い日でありますようにと祈る。




 後、裏手に盛られた肥さんは、スタッフの手により神殿側に植えてある木の肥料になったそうです。


転生物での幼少期をショートカット。

ある程度自由に動き回れる年代の方が書き易いのでw


誤字・脱字等御座いましたら御報告戴けると幸いです。

それではまたお会いしましょう。

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