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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第三章
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早朝のひと時




 談話室でエリスさんとのお喋りを終え、俺は自室に戻ってきた。

 ウルリカさんはまだ寝ている。だが、ミィは起きていた。


「おはよう、ミィ」


「にゃぁああぁ……」


「まだ眠そうだね」


 言いつつ、ベッドの上のミィを撫でる。

 とても心地がいい。どうしてこうも猫は可愛いのだろうか。

 もしかしたらウルリカさんから見た俺もこんな感じなのだろうか。

 って、それじゃ愛玩動物だな。


「ディーンさんもさすがにまだ寝てるよな……」


 エリスさんと喋っていたとはいえ、まだ日も昇っていない。

 窓の外に広がるパークスの街並みは、まだ寝静まっている。

 と、思っていたら遠くから鍛冶屋の音が聞こえてきた。

 やはり職人の朝は早いのだろう。


「ん、んん……――リズ……」


 ウルリカさんの寝言だ。

 なんだかうなされているようにも見えるけど、大丈夫だろうか。


「……だ……げて……」


 夢を見ているようだ。

 何事か呟いている。

 しばらく様子を伺っていると、元の規則正しい寝息に戻った。

 よかった。どうやら一時的なものだったようだ。


「にしても、リズ? って、人の名前かな? まあ、夢の中のことだから俺がとやかく言うことでもないか」


 俺は特に気にせずに、もう一度ベッドに潜り込んだ。

 案の定というか、さっぱり眠くならない。

 ウルリカさんがいつも読んでいる本でも借りて読もうかな。

 その前にシャワーでも浴びるか。


「そうしよう」


 俺はそう決めて、室内に備え付けられたシャワー室へと向かった。

 脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入る。

 浴室正面には、でかい鏡がある。

 相変わらずの幼女ボディだ。さすがにもう慣れたけど。


「……はぁ。気持ちいい……」


 俺はシャワーにかかりながら、吐息を漏らす。

 男だった生前では、シャワーなんて面倒くさいと思っていたけど、女の子になってからはなんか好きになってしまった。やっぱり汚れているのは嫌だし、汗も流してスッキリしたい欲も強くなった。いつも奇麗でいたいっていうのかな。そんな感情が湧いてくる。


「シャンプーとかも、前は気にしてなかったんだけどな」


 この世界に来てからは、女性用の香りが良いものを使っている。

 といっても、ウルリカさんのセンスで選んでいるのだけども。

 宿に泊まれるときは、毎日どころか半日に一回くらいシャワーを浴びたい。においが気になるわけじゃないけど、なんでか浴びたくなる。


「野宿とかで入れないときがあるから、こうして贅沢したくなるのかもしれないな~」


 いつもいつもシャワーがある場所で寝泊まりできるわけじゃないのだ。

 町や都市などで宿を取る時以外は、野宿になることもある。その時はキャンプ張って過ごすわけだけど、荷物はウルリカさんが混沌空間カオスゾーンにしまってくれているから楽ちんだ。


「ふふふ~んふんふ~ん」


 頭を洗い流し、身体を洗う。

 鼻歌歌いながら上機嫌である。

 今日から例の件で警戒をしていくというのに我ながらお気楽だ。

 まあ、気を抜くときは気を抜かないと疲れるからな。しょうがない。


「よし、と」


 シャワーを浴び終えて、俺は身体を拭く。

 小さいので身体を拭き終わるのが早くて助かる。

 ドライヤーなるものがあればよかったが、ここにはない。いつもはウルリカさんの魔法で乾かしているので今回は仕方がないか。少し濡れているけどまあいいや。召喚された時みたくロングヘアじゃないし、放っておけばすぐに乾くだろう。


 服を着替え、寝室に戻り、ベッドに腰かけた。

 するとその直後――


「……あれ、もう起きてたの……?」


 ウルリカさんが目を開けた。

 まだ寝ぼけているのか、目は虚ろだ。


「はい。ごめんなさい、起こしましたか?」


「ん――、別に構わないわ。早起きは三文の徳っていうしね。ふわぁ~……。とはいえ、まだ外真っ暗じゃない」


 時刻は午前5時半程。俺が目を覚ましてからは1時間半程経ったわけだ。

 しかしまだ外は暗い。日が昇るのが大体6時半くらいからだからしょうがないのだ。


「シャワー浴びてたのね。おいで、髪乾かしてあげる」


「は、はいっ。ありがとうございます……っ」


 俺は言われるがままにウルリカさんの傍へ。

 いつものように優しい手つきで魔法の熱風を送ってくれる。

 加えて、ウルリカさんが髪も整えてくれた。

 あまりの心地よさに、さっきまで感じなかった眠気が襲ってくる程だ。

 

「――焦らなくていいからね」


「えっ?」


 唐突なウルリカさんの言葉に、俺はドキっとする。


「能力の発現のこと。愚者のドールは特別だから、アタシだって何が起こるのか判らないの。だからイオが焦ることはないわ」


「そ、それは――」


 見透かされていたのだろうか。

 エリスさんとの一戦で、より能力のことを気にし始めたことを。

 やっぱり、俺のご主人さまは何でもお見通しのようだ。


「もちろん、イオに守ってもらえるのはとても素敵な事だと思う。アタシだって本心はそう思っているのよ? だけどね、だからってあなたに無理強いさせたくもないの。能力なんかなくたって、イオは強いんだから」


「ウルリカさん……」


「現にあのエリスに勝ったわけだしね。だからというのもなんだけど、焦らなくていいの。少しずつ、着実に成長していけばいいんだから。そしたらアタシなんか気づいたら追い越してるわ」


 言って、ウルリカさんは頭を撫でてくれた。

 今は、ウルリカさんのその言葉がありがたい。

 焦らなくていい。俺はきっと、どこか焦っていたと思う。

 早く強くならなきゃ。早くウルリカさんを守れるようにならなきゃと、心のどこかでずっと思っていた。


「イオは強くなってる。これからの旅で、もっとあなたは強くなる。もちろん、アタシだって研鑽を積むことは忘れないつもりよ? だから、一緒に成長していきましょう」


「はい……!」


 そうだ。何も焦る必要はない。

 これからだって旅は続くのだ。少しずつ、強くなればいい。

 ドールの能力だって、気づけば発現しているさ。

 そう、心の中で言い聞かせるのだった。


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