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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第三章
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敵の影




 夜の闘技都市パークス。とある倉庫街の一角にて。

 俺達は、例の店主の跡をつけ、ここまでやってきた。

 どうしてこんな人気のない場所に店主がやってきたのかは知らないが、脅す気でいるこちらからすれば好都合だ。


「ウルリカの魔法のおかげでうまくここまでは尾行できたけど、どのタイミングで突入する気だい?」


「なんだか、誰かを待っているみたいですね。少し様子を見てみませんか?」


「そうね。なんだか臭うわ」


「エルーも、待つのに、賛成……っ」


 というわけで、俺達は人気のない倉庫に身を置く店主の様子を伺うことにした。中の様子はガラス窓から覗き見て、逐一確認している。


 そうこうしているうちに数分が経った。すると、1人の男が倉庫の中に入っていった。男は武芸者風で、手には袋を持っている。


「よう。首尾はどうだい?」


 武芸者風の男が店主に声をかけた。

 ウルリカさんの空間魔法と聴取魔術の複合技のおかげで、倉庫内にいる会話の声も鮮明に聞こえてくる。


「上々でさ。参加者の大勢が宿泊している宿と会場の係員は買収済みです。彼らに裏から手を回してもらうよう言ってあります。例のタイミングで仕掛けが起動するはずです」


「なるほど。そっちは大丈夫みてぇだな。あと、こいつも追加だ」


 言って、武芸者風の男は袋を店主に投げ渡した。

 中身は判らない。お金か、それとも他の何かか。ただ、まともなモノではないことはなんとなく判った。


「ロメオ様は容赦がないですな。ま、私の知ったことではありませんが」


「幻獣化計画には犠牲が必要だ。組織もだが、なによりシーグル様もそのように考えている」


「あの方は、ご自身の探求のためならば何でもしますからねぇ。怖い怖い」


「とにかく頼んだぞ。成功した暁には、報酬は弾ませてもらう」


「ほほう! それはありがたい。商人としての腕の見せ所ですな!」


「そういうこった。こちらもそろそろ動く。後は打ち合わせ通りに」


「ええ。では」


 話が終わり、武芸者風の男が倉庫から出ようとしたその時。

 気づいたらウルリカさんが中に飛び込んでいた。


「なかなか面白そうな話しているじゃない。私にも色々と教えてくれないかしら」


 堂々と2人の前に飛び出すウルリカさんに、俺とディーンさん、そして慌ててエルーさんも突入した。


「何者だ? 辺り一帯には感知魔術を張り巡らせていたはずだが……。どうして引っかかっていない?」


 武芸者風の男が言う。


「ステルス魔術よ。そこの店主をつけさせてもらったわ」


「そこらの魔術師では弾けない程度には感度を上げていたんだがな。なるほど、ザコではないということか」


「確かめてみる? そこの店主には聞きたいこともあるし、それ以上に、シーグルの名を見過ごすわけにはいかないわ」


 ウルリカさんは手に魔力を集中させ始めた。

 すかさず俺は短剣を構え、ディーンさんと共にウルリカさんの前に出る。


「ロメオ様、ここは……」


「ああ。わかっている」


 店主と武芸者風の男が何やら小声で話をしている。

 一触即発の状態。のように見えたが――。


「ここは退かせてもらう!」


 冒険者風の男が言うと、辺りに煙幕のようなものが溢れ出した。

 倉庫内が煙だらけで何も見えない。加え、煙が肺の中に入り込み咳が出てしまう。


「ちっ、まさか逃げるとはね……!」


 徐々に薄まる煙幕。だが、あの2人の姿はとっくに消え失せてしまっていた。


「冷静な相手だね。それにどうも、アルカナカードだけの問題でもなさそうだ」


「そうですね。彼らが言っていた明後日行われる本戦というのは闘技大会のことでしょうし、それに幻獣化という言葉も気になります。ディーンさんの言う通り、アルカナカードだけの問題ではなさそうです」


「どうやら予想通りきな臭いことが起こりそうな感じね。シーグルの名前が出た時点であの2人は黒だわ。どうせロクなことじゃないわよ」


「……?」


 よくわかっていないエルーさんは首を傾げている。

 だけど、俺達にはわかる。シーグル、そして幻獣化。

 気になる点は多々あれど、今はまだ何が起ころうとしているのか判らない状況だ。


「とにかく、あの店主は黒ってことはわかったわ。はいこれ。もうなくしたらだめよ」


 ウルリカさんは女帝のアルカナカードをエルーさんに返した。

 呆気なくカードを返すウルリカさんに、エルーさんは困惑している様子だ。


「い、いいん、ですか? まだ、なにもきいて、ない、し……」


「いいのよ。お金はまあ、ツケってことで」


「う、ウルリカ、さん……! あ、あり、ありが……っ」


 泣きながらアルカナカードを大事そうに抱きしめるエルーさん。

 なんとなくだけど、ウルリカさんは元から返す気でいたような気がする。ただ、性格的にはいそうですかと素直になれなかっただけだろうな。


「私達も引き揚げますか。この街でやることも増えたことだしね。早速明日から動くわよ」


「ですね。宿に戻りましょう」


 何かよくないことが起きる。

 闘技大会の本戦にはエルーさんのアルカナドールも参加しているし、彼らの計画は止めなくてはならない。ウルリカさんもそう思っているみたいだし、明日からまた忙しくなりそうだ。





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