アネット・ビゼーの1人旅
――イオ達がクリンバを出て3日後。
大陸最強のクランであるウルスラグナ。その一員であるアネット・ビゼーはウルリカ・リーズメイデンとイオという冒険者コンビを追って町を転々としていた。
知らぬ間に彼女らはレネネトを発っており、アネットは完全に置いて行かれた形だ。クランリーダーであるカイゼル直々の命令というのもあったが、どこかあの2人が気にかかっているというのも追っている理由の1つであった。
「ようやくたどり着いた……」
アネットの勧誘はまだ終了していない。だが、ウルリカらがクランを作るか他のクランに入団した時点でアウトだ。なんとしてもその前に足取りを掴んでとっつかまえなければならない。
「とりあえずクリンバに着いたし、冒険者ギルドに行ってみよう」
そう決め、アネットはクリンバのギルドへ向かった。
この街は交易都市なだけあって人通りが多い。アネットは迷わずに気を付けながら進んだ。
「とーちゃく!」
早速ギルド内に入るアネット。
受付嬢に話を聞くと、確かにウルリカとイオはこのギルドに来たという話だったが、アルバンという男と共に依頼に出ていざこざに巻き込まれたとのことだ。
「まあ、あの子たちなら厄介ごとに巻き込まれても自分達で何とかしてそうだねぇ。それよか、私が知りたいのは居場所ですよ、居場所」
その後の消息が判らない今、そのアルバンという男を捜すのも手かとは思ったが、どっちみち居場所が判らない。
受付嬢から一通り情報を受け、アネットはギルドを後にした。次なる目的地はウルリカとイオが泊まっていたという宿だ。そこで情報収集し、次の行動を決めることにした。
「名前はレスピナだったよね。場所は――」
結構有名な宿らしく、大通りにある大きな看板に場所が書いてあった。
おかげで、すぐにレスピナを発見することに成功したアネットは、早速従業員を捕まえて情報を聞き出す。
「すみません、ここに泊まった客のことを聞きたいんですけど!」
受付の男に声をかけるアネット。
「申し訳ございません。お客様の個人情報は基本的に素性の判らない人間には教えないことになっておりまして」
「あ、そうなんだ。なら――」
言って、アネットは冒険者カードを受付に見せた。
「う、ウルスラグナの一員の方でしたかっ。これは失礼いたしました。それで、どなたの情報をご所望でしょうか」
「うん。ウルリカ・リーズメイデンとその一行の情報を教えてもらえるかな?」
「かしこまりました」
受付は背後の棚から冊子を取り出し、アネットに見せてきた。
「こちらが情報になります」
「ふむふむ」
確かに、ウルリカとイオはこの宿に泊まっていたらしい。
チェックアウトしたのが3日前。ということはまだ遠くには行っていないはずだ。
しかし、それよりも気になる名前がウルリカ一行の中に含まれていた。その名はディーン・ハワード。彼はアネットと同じく獣の因子を身体に刻まれた異端者。まさか、こんなところでこの名を見ることになろうとは思いもよらなかった。
「情報ありがとう! ちなみに行先とかはきいてないよね?」
「そうですねぇ。ただ、仲間を探しているようでしたから、ここから向かうのであれば王都かパークスかだとは思いますが」
「なるほど。そういうことならどっちかに向かってみるとしますか」
「お気をつけて」
最後に受付に手を振り、アネットはレスピナを出た。
ある程度の情報は集めることが出来た。後は、一行がどこに向かったかということだけだ。
「ま、近いからパークスに行ってみよう。どっちにしてもこの街にはもういないみたいだし。それに、あれだ。ディーンくんも一緒にいるんなら、なおさら面白くなってきた!」
るんるん気分でアネットはクリンバを発つ。
行き当たりばったりのアネット・ビゼーの旅は続く。
ここで第二章は終わりです。