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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第二章
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別れと旅立ち



 一夜明け、再び俺達とアニエスさんとミカエラはマルティーニファミリーの事務所にやってきた。

 出迎えてくれたのはヨハンさんだ。なんだかんだ、初日に出会ってからお世話になりっぱなしだ。


「んで、今日発つんだな」


 若干寂しそうな表情でヨハンさんは言った。


「はい。クリンバにきてから色々とありがとうございました」


 俺は頭を下げ、礼をした。

 相手から見たら、畏まり過ぎてるように見られそうだけど、それくらいヨハンさんには感謝しているんだ。


「アタシからも礼を言うわ。手助けしてもらったし、見聞も広げられたしね」


「そうか。それならよかった。ま、戦闘じゃウルリカ、あんたらの方が上手だったけどな」


「そうかしら? ヨハンもかなりのモノだったように思うけど」


「世辞はいいさ。冒険者とマフィアじゃ戦う相手も場数も違うだろうしな。それに、俺は魔法なんかからっきしだぜ?」


「魔法がなくてもあそこまで戦えるっていうのが凄いのよね。鍛えたらもっと上いけるんじゃない?」


 ウルリカさんは冗談半分にそう言った。

 ヨハンさんは小さく笑い、肩をすくめてみせた。


「目的が違うからな。もっと他のトコ磨くさ」


「それもそうね。それがいいわ」


 ウルリカさんも口元に笑みを携えている。

 短い時間だったけど、それでも俺達とヨハンさんは仲間のようなものだったのだろう。前回の筋肉さんもそうだが、こうやって出会う人とも別れなければならない。それが旅をするということだとは判っているんだけど、やっぱりさびしい思いはある。


「私達からもお礼を。今回の件、本当にありがとうございました。あなた方がいなければ、きっとミカエラは取り戻せていなかった」


「ありがとう」


 アニエスさんとミカエラが頭を下げた。


「なに、困った時は何とやらだ。それに、旅団とはこっちでもケリつけなきゃなんねぇ事だった。それがたまたま協力って形になっただけさ」


「ふふ、そういうことにしておきます。ですが、あまり無茶はしないでくださいよ? 今回の一件、何か裏があるように思えます」


 あえてゼルマの事を言わないのは、アニエスさんが思ってのことだろう。確かに、一マフィアには重すぎる問題だ。何も知らない方が良い。


「ご忠告どうも。ま、こっちはこっちで好きにさせてもらうさ。これまで通りな。それと、ディーン。後でちょっといいか?」


「僕かい? 別に構わないけど……」


「大したことじゃない。最後に一言言っておきたくてな」


「わかったよ」


 ディーンさんも何かを察したのか、頷いた。

 そんな中、俺はミィを抱き上げ、その頭を撫でた。

 ミィも別れが寂しいのか、小さく鳴いている。

 旅をしているのだから、出会いと別れを繰り返すのは当然だ。むしろそれが醍醐味だと胸を張って言えるくらいにならなければ、一人前とは言い難いだろう。だから、感謝しよう。出会いに。そして糧にするんだ。きっと、例えここで別れても俺の力になるって。


「イオ。また遊びに来いよ。待ってるぜ」


「はい……っ」


 別れを悲しんでいる場合ではない。

 ウルリカさんを守れる立派なアルカナドールになるんだ。

 ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 次の目的地は闘技都市パークスだ。

 新しい仲間捜しもだが、強くなるための何かを見つけたい。

 だから行こう、次の場所へ。











「悪いな、最後に呼びだしちまって」


 ヨハンに言われた通り、ディーンは1人事務所に残っていた。


「気にしなくていいさ。イオちゃんのことだろう?」


「ああ。大事にしてやれよ。それだけ言いたかった」


 と、真面目な顔で言うヨハンを見て、ディーンは何故だか可笑しくなってしまった。


「ああん? 笑いやがって何が可笑しい?」


「いや、そんなにイオちゃんが大事なら一緒に行ってあげればいいのに」


「はッ、無理に決まってるだろ。俺はここが居場所なんだ。例えイオのためでも、それは出来ねえ」


「なら、どうしてそこまで気にかけるんだい? ずっと、気にはなっていたんだけど、聞きそびれていたよ」


 初めて会った時から、どことなくヨハンはイオを気にかけていた。まさか、あんな小さな娘に惚れたわけではないだろうし、何か理由があるはずだ。


「初恋だよ」


「へ?」


 と、まさかの回答に、ディーンは素で目を丸くした。

 それはないだろうと考えていたことをズバっと言われ、正直度肝を抜かれた心地だ。


「っと、そういう意味じゃねえ。俺の初恋の相手に似てたんだ。、まだガキの頃にな、世話焼きの女がいたのさ。はみ出し者の俺を気にかけるバカ野郎がな」


「と、そういうことか。でも、それだけでここまで気にかけるかな? 似てたって思うだけで済みそうなものだけど」


「まあ、普通はそうだろうな。ただ、俺はアイツに囚われちまってたんだろう。もうずっと昔のことだが、俺の中に巣くって止まねえ」


「何かあったのかい?」


「……殺されたんだよ。金品や身体目的……。まあ、スラムじゃ珍しいことじゃなかったがな」


「それは……」


 妹を亡くしたディーンにも、似た経験がある。だからか、ヨハンの気持ちは痛いほどに理解できた。


「弱肉強食の世界だ。だから俺は己の弱さを恨んだ。俺が強ければ、アイツは死ななくて済んだんだ。だから恨んで恨んで恨み抜いた。だが、いくら己の弱さを嘆いたところでアイツは帰ってこない。だから強くなろうと思ったのさ。今度は絶対に守れるようにってな」


「ヨハン……。そうか。僕らは似た者同士だったのかもしれないね」


「どういうことだ?」


「まあ、僕にも同じような経験があっただけのことだよ。だから、君の気持はよくわかる。今度は守れるように強くなろうっていう想いがさ。だから大丈夫。イオちゃんは僕が絶対に守るよ」


「ふ……。敵わねえはずだぜ」


 ヨハンは小さく微笑み、帽子を目深に被った。


「色々と世話かけたな。お前たちと出会えたおかげで俺もどこか踏ん切りがついた。ありがとな」


「僕も、君と出会えてよかったよ。ありがとう」


 最後に2人は握手をした。

 男同士、判り合えたのだと、ディーンは感じていた。


「じゃあな色男。また遊びに来いよ」


「うん。必ず!」


 そう言って、ディーンは事務所を後にした。

 本当に久しぶりに、心からの男の友人が出来たこと。そのことが、嬉しかった。


(……やっぱりこういうのって、いいな)


 出会って別れて。これも旅の醍醐味だ。

 それでもやはり、寂しい気持ちはある。

 ディーンは気づいたら、涙を流していた。


「ディーンさん? どうしたんですか?」


 外で待っていてくれたのであろう。扉の近くにいたイオが心配そうな表情でディーンを見上げてきた。


「ううん。なんでもないよ。大丈夫」


「それなら、いいんですけど……。でも、本当に何かあったら言ってくださいね。私達、仲間なんですから」


「イオちゃん……。ありがとう……っ」


 友人が出来て、仲間も出来て。今までのことを考えると、恵まれすぎていて、少し怖いくらいだ。


 だが、ディーンはこうも思った。この関係を守っていきたいと。これからもイオとウルリカと一緒に旅をしていきたいと。そうして、色々な経験を積んで、様々な出会いを大事にしたいと。


「僕は幸せ者だ……」


 涙を拭き、ディーンは顔を上げた。

 別れを惜しんで泣いてなどいられない。これからも、旅は続くのだ。


「よし。行こうか、イオちゃん」


「はい!」


 こうして、ディーン達はクリンバを発つこととなった。

 まだ見ぬ地を目指して、彼らはの旅は続く。

 

 

   




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