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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第二章
82/110

ミカエラ救出劇②




 階段は1階ではなく地下にまで続いていた。

 しかし、族というのはやたらと地下を好むな。前回も地下だったし、ゼルマの時も地下だった。まあ、目立たないっていう利点があるからかもしれないけどさ。

 地下に出ると、広い部屋が俺達を待っていた。

 奥には囚われのミカエラがいる。

 その前にチックとアルバンが陣取っていた。

 俺達がこの場に来ることを端からわかっていたかのような布陣だ。


「――ビンゴね」


 ウルリカさんは魔法使いだというのに、俺達パーティの最前線へと出る。

 続いて俺とディーンさんがウルリカさんの両端に立ち、武器を構えた。


「やれるかい、イオちゃん」

「もちろんです」

「よし。ここが踏ん張りどころだ」


 もう、両者話し合いで解決しようなどとは考えていない。

 ガチンコでぶつかって、ミカエラを取り戻す。

 俺も、もう躊躇わない。ミカエラを助けるために、剣を振るうんだ。


「どうするんだ、チック」


 正面んで佇むアルバンがゆっくりと口を開いた。


「正直、俺一人ではあの3人相手は荷が重いぞ」

「わかっているよ。こうなってしまってはもうどうしようもないねェ。力を借りるしかないだろう」


 不敵に笑い、チックは懐から何かを取り出した。

 禍々しく光るペンダントだ。

 楕円形をしたそれを、チックは自分の胸にあてた。


「チック。本当に信用できるんだろうな。その魔具とやらは」

「クク、問題ないさ。あのお方から頂いたモノだ。それに感じるだろう? この強烈な魔力の波長を」


 ずずずっとペンダントがチックの胸の中に吸い込まれていく。

 ややあってから、チックの様子が急変し始めた。

 苦しそうに胸を掴み、暴れまわっている。


「ググググ……ガァァァァァァァッ!!」


 徐々に人の原型から外れていくチック。

 呆気にとられてその様子を見ていると、チックは人外の化け物へと変貌していた。

 全長3メートルはあろう体躯。

 まるでオオカミとカマキリを足して2で割ったかのような外見に、怖気が走った。


「クカカカ。コレガチカラカ……」


 両腕両足は異様に伸び、身体はどす黒く歪になっている。

 鎌のように伸びた爪が、異様に長い。少しでも近付けば、切り裂かれてしまいそうだ。


「アルバン、オマエハソノコムスメヲツレテレイノバショヘムカエ」

「それは構わないが、大丈夫なのか」

「モンダイナイ。オレハゼッタイテキナチカラヲテニイレタ。レンチュウヲヒトヒネリシテカラアトヲオウ」

「わかった。この場は任せたぞ」


 拘束されたミカエラを抱え、アルバンが奥の扉から逃げ始めた。


「そうはさせないわよ!」


 一瞬で魔力を練り上げ、ウルリカさんはアルバン目がけて雷撃を放つ。

 だが、その一撃は変貌したチックの腕に阻まれてしまった。

 素早い動きに、ウルリカさんの魔術を弾く耐久力。

 これは想像以上に厄介そうだ。


「ちっ、逃がしたか」

「オマエタチハココデシヌノサ。コノオレノテニヨッテネェ」

「ナマ言ってんじゃないわよ。アンタはここでアタシが殺すわ」

「カカカ。ワラワセテクレル。マホウツカイフゼイガ、チカラヲテニイレタオレニカテルモノカ」


 化け物と化したチックの両腕がウルリカさんに迫る。

 だが、ウルリカさんは避けることもせずに、そこに立っているだけだ。


「シネエエエエエ!!」

「甘い! シールド展開!」


 直後、ウルリカさんの前方に魔障壁が現れた。術者の力量で、防げる威力が変わってくる魔力によって創られたシールドだ。


「ナニ!? フセイダダト!?」

「驚き方がいちいち小物臭いのよ。ちょっとくらい身体が頑丈だからって調子に乗りすぎね」


 ウルリカさんは一度チックから距離をとって、再度雷撃を放った。

 右腕の付け根に直撃した雷撃は、止むことなくその個所を焼き尽くしている。


「イオ、ディーン! 追撃して!」

「はい!」

「了解!」


 ウルリカさんの魔術で弱ったチックの右腕の付け根に向かって、俺とディーンさんは跳躍した。

 身軽な俺は、チックの身体を利用して狙いの場所まで駆け上る。

 目的の個所目がけて短剣を突き刺し、すぐさまその場から離脱した。


「ディーンさん!」

「わかってる!!」


 続けざまにディーンさんが同じ部位を剣で切り裂いた。

 ウルリカさんの魔術に俺の攻撃。そしてディーンさんの攻撃を連続して同じ個所に受け、さすがのチックもうめき声をあげた。


「グアアアアアア!! クソ、コシャクナレンチュウメ! ヤツザキニシテクレル!!」


 次にチックの標的になったのは俺だった。

 ダメージは与えたはずだが、致命傷にはならなかったのか。


「イオちゃん!」

「大丈夫です! なんとかしてみせます!」


 素早いのが俺の取り柄だ。

 こんなデカブツの攻撃を俺がそう易々と喰らうはずがない。


「チョコマカト! エエイ、マドロッコシイ!」


 チックはその長い腕を地面すれすれで横薙ぎしてきた。

 だが、俺もバカじゃない。そんな見え見えの攻撃に引っかかるはずない。


「これで……どうだ!」


 もう一度敵の身体を駆け上り、さっきと同じ部位に短剣を突き刺した。

 手応えはあった。怯まないにしても、ダメージは与えたはずだ。

 すぐさまフリーだったウルリカさんから追撃が入る。

 ゲートを展開し、縦横無尽に雷撃を奔らせた。

 その隙に俺とディーンさんも敵に斬りかかった。

 息の合った連続攻撃。伊達に今まで旅してきた仲間じゃない。


「そろそろ終わらせるわ。最大出力のアタシの術、その身でとくと味わいなさい!」


 言うやいなや、ウルリカさんは魔力を充填し始めた。

 どでかい魔術を放つには、それなりに準備の時間が必要だ。

 その間は警戒が疎かになるから、俺とディーンさんの出番というわけだ。


「コムスメフゼイガァァァァ!!」

「させるか!」


 ディーンさんがチックの剛腕を剣で受け止めた。

 俺ではあの大きさは受け止めきれない。武器の差もあるが、体格の差もあるのだ。ここはディーンさんに任せるのが吉だろう。

 だが、だからといって何もしないわけじゃない。

 ディーンさんが敵の攻撃を受け止めている間、相手は無防備になる。その隙を見逃すわけにはいかない。

 

「少しでもダメージを与えられれば!」


 高く跳躍し、俺はチックの身体を肩から縦一閃に切り裂いた。

 着地すると同時に、ウルリカさんの準備が完了。

 俺はすぐさまその場から離脱し、ウルリカさんの高出力の魔術の一撃に備える。


「ばっちりじゃないの。さあ、行くわよ!」


 ウルリカさんは手のひらを広げた両手を上下に構え、円を描くように動かした。そこに小さな魔方陣が浮かび上がり、どす黒い稲妻がバチバチと火花を散らしている。


「この黒い雷撃ブリッツからは逃れられないわ……!」


 直後、黒い雷撃が魔方陣から勢いよく射出された。まるでレーザーだ。

 直後、圧倒的な熱量を持ったそれは、化け物と化したチックのどてっぱらに大穴を開けていた。


「グアアアアアアアアッ!? ナンダコノイリョクハ!?」


 うめき声をあげるチック。

 だが、ウルリカさんは容赦しない。


「外道に堕ちたアンタに、加減なんかしないわよ」

「ク……、ナニモノダキサマァ!」

「アタシはウルリカ・リーズメイデン。賢者ファウスト・エスピネルの弟子よ」

「賢者ファウストダト!? マサカ、キサマモ――ッ」


 そこまでチックが言った後、ウルリカさんの黒い雷撃が再び彼を襲った。容赦なく、脳天から一直線に両断した。


「だから絶対に負けられないのよ。アタシはね」


 断末魔を上げることも出来ずに、化け物と化したチックは倒れ伏した。まるこげになり、もはや原型を留めていない。

 やはり、ウルリカさんは強い。尋常じゃないくらいの強さだ。

 時々、ウルリカさんが強すぎて、怖い時もある。仲間だから心強いはずなのに、どうしてそう思うのだろうか。


「イオ? 大丈夫?」


 ウルリカさんが心配そうな顔で、俺を覗きこむようにして見てくる。そんな彼女に、俺は頷きながら小さく微笑んで返した。


「怪我はないみたいだね。ホント、ウルリカがいてくれて助かるよ。ボクだけじゃここまでの火力はだせないから」


 ディーンさんだ。剣を鞘に戻し、こちらにやってきた。


「アンタにもあの手があるじゃない」

「あれは魔術みたいに瞬間火力は出せないよ。まあ、制圧力はあるかもしれないけどね」 

「あら、手のひらからビーム砲とか出せないんだ」

「そこまで万能じゃないさ」


 言いつつ苦笑いするディーンさん。

 あの獣の手は、そこまで高性能ではないらしい。当然か。


「さて、ここでお喋りしている場合じゃないわね。逃げたアルバンを追うわよ」


 ウルリカさんの言う通りだ。チックは倒したが、まだ目的は達せられていない。


「先を急ぎましょう」


 ミカエラの元へ、急がなければ。


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