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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第二章
81/110

ミカエラ救出劇



 マルティーニファミリーのアジトを後にした俺達は、アニエスさんを宿に迎えに行った後、馬車で東方の旅団が潜伏しているという森の前にやってきた。

 山脈が近くにあり、割と穏やかな風が吹いている。こんな時じゃなければピクニックでもしたいところだ。


「先に俺の部下を先行させてる。今頃周囲を囲んでるはずだぜ。これでやつらは袋の鼠ってわけだ」


 ヨハンさんは自身の得物であるナイフを確認しながら、森の奥深くを見据えた。

 この森の奥に、敵のアジトがある。そこにきっとミカエラもいるはずだ。俺と一緒に囚われた少女。少しの間しか会話もしてないけど、それでも放っておくなんてできない。


「ミカエラは私が必ず助け出します。相手が誰であろうと引くわけにはいきません」


 アニエスさんは腰の剣に手をあて、覚悟を新たにした。

 俺も、ウルリカさん特製の短剣を5本装備している。まだ手に入れて日は浅いが、これまで幾度となく一緒に戦ってきた相棒だ。


「じゃ、行きましょうか。ここからは徒歩だし、慎重に進むわよ」

「おうよ。ディーン、ちゃんとイオを守れよ」

「言われなくともわかってるよ、ヨハン」

「ならいい。それとイオ。絶対に1人になるなよ。連中はまだお前を狙ってるかもしれねえ。気を抜くな」

「はい……っ」


 かくして、俺達一行は森の中に進入した。

 鬱蒼としげる木々の間を縫うように進み、目的地を目指す。

 幸い、強敵モンスターには出くわさずに行くことが出来た。森の中だから、小さな虫とかはたくさんいたが、ただ煩わしいだけで時間を取られるような相手じゃない。

 数十分歩くと、廃墟が見えてきた。悪者が好きそうな場所だ。十中八九あそこが東方の旅団の潜伏現場だろう。

 俺達が廃墟に近づくと、ヨハンさんの部下と思しき男がやってきた。


「指示通り敵を囲んで待機していました。どうします?」

「おう。そうだな、また抜け道を使われたらたまらねえ。お前らは逃走ルートがないか探して、あればそこを抑えておいてくれ。俺達は表玄関から突入する」

「了解しました」


 それだけ言うと、ヨハンさんの部下は森の奥へと消えた。


「てことだ。異存はないな?」

「ええ。正面突破、望むところじゃない」


 ウルリカさんもやる気満々だ。

 俺も、ミカエラを助けるために頑張らなければ。

 あれからひどいことされてなければいいけど……。

 心配だな。


「私が道を切り開きます。時間が惜しい。行きましょう」


 アニエスさんが剣を抜き、颯爽と駆け出した。


「アローブレイズ!!」


 玄関は閉じていたから、どうやって開けるのかと思っていたら、アニエスさんは火炎属性の魔術アローブレイズを放ち、扉ごと粉砕した。

 冷静なアニエスさんにしては、いささか強引な手段だ。きっと、アニエスさんも焦っているのだろう。

 それにしても、アニエスさんが昨夜1人で敵を捜しに行かなくてよかった。闇雲に探しても見つかりっこなかっただろうし。焦ってはいるけど、助けるための最善の手はちゃんと理解しているんだろう。


「やるわね、アニエス」

「いえ、ウルリカさんほどではありませんよ」

「あら、大陸最強の剣術士に言われるなんて光栄だわ」


 廃墟の中に入ると、エントランスの先に扉が2つあった。

 一同立ち止り、どうしようかと顔を見合わせる。


「入り口は2つか。戦力を分散させるか、それとも一か所ずつ確実に潰すか。どうする」

「そうね。敵は正直大したことないわ。別れましょう」

「わかった。それじゃあどう分けるんだい?」

「そうだな。ここは俺がアニエスと行こう。ウルリカとディーンと一緒の方がイオもやりやすいだろ」

「ヨハンさん……。わかりました。私はウルリカさんとディーンさんと一緒に行きます」


 ヨハンさんの配慮に感謝しつつ、俺はウルリカさんとディーンさんに目配せした。すると、2人とも首を縦に振って返してくれた。


「それなら、私はヨハンさんとですね。よろしくお願いします」

「ああ。よろしく頼むぜ、アニエス。――それとウルリカ。最優先事項はミカエラ嬢の救出だ。それだけは忘れるなよ。もう1つ、チックの野郎がいやがったらのしといてくれ。なるべくなら俺自身でケリつけたいからな」

「わかったわ。チックというと例の変態外道調教師よね。もし見つけたら気絶させておくわ」

「わりいな。助かる」


 素直に礼を言うヨハンさんを意外に思ったのか、ウルリカさんは一瞬面食らったような顔になった。


「それじゃあ行きましょうか」

「はい!」


 いつもの3人で先を急ぐ。

 ヨハンさんとアニエスさんと別れ、廃墟の中を進む。

 廃墟だからか、いたるところにひび割れた箇所があった。こんな場所で大型の魔術でもぶっ放そうなら、最悪崩壊の恐れもある。注意しよう。


「な、なんだお前たちは!」

「侵入者か! くそ、撃退しろ!」


 どこからか敵の警備の連中が現れた。

 皆武装していて、一筋縄ではいかなそうだ。


「相手は3人ね。イオ、ディーン、任せてもいいかしら?」

「はい!」

「もちろん!」


 俺は短剣を抜き、一気に肉薄した。

 敵は3人。相手の勢いを削ぐためにまずは1人沈めておきたい。 


「はぁっ!!」


 先頭に立っていた男の得物を短剣で吹き飛ばした。

 男のナイフが地面に転がる。

 一瞬の隙に、ディーンさんがもう1人の相手に飛び掛かった。


「悪いけど……眠っててもらうよ!!」


 ディーンさんが剣で敵の1人が持っていた斧を攻撃した。

 敵がよろけたのを見計らって、俺は飛び膝蹴りをかました。

 俺の攻撃は敵の顎下に直撃した。そのせいか、男はその一撃でノックダウンだ。


「イオちゃん!」

「はい!」


 ナイフを拾おうとしていた男に向かって、俺は短剣を投擲した。

 狙い通り相手が拾おうとしていた床に短剣は突き刺さり、好機をもたらす。


「せぃ……や!!」


 空中で一回転して勢いをつけた俺の踵落としが見事に敵の首裏に直撃した。これまた一撃で敵は気絶。狙いは間違ってなかったようだ。


「くそ……! こいつら強い……!」


 怯えた様子で後退する残りの1人。

 だが、ウルリカさんの魔術がそれを許さない。

 いつの間にか氷結属性の魔術で敵の背後に壁を創っていた。さすがはウルリカさん、用意がいい。


「交渉しましょうか。あんた達がさらったエルフの子、その居場所を吐けば逃がしてあげるわ。もし、吐かなかったら……」


 ウルリカさんの声のトーンが下がる。

 さらに、氷の槍を召喚した。狙いはもちろん、相手だ。


「この氷槍が寝てる仲間共々アンタを貫くことになるけど」

「ひぃ……! わ、わかった、ガキの居場所は教える! 確かここの2階奥にある部屋だったはずだ!」

「ふ~ん、なるほどね。ありがと」

「じゃ、じゃあ俺はお暇するぜ」


 仲間を置き去りに、逃げようとする男。

 だが、ウルリカさんはそれを許さなかった。


「しばらく寝てから逃げなさい。ま、その前にマルティーニファミリーに制圧されてるでしょうけどね」


 ウルリカさんが操る氷の礫が敵の腹にぶち当たった。

 その一撃で、ミカエラの居場所を教えてくれた敵も気絶する。


「……相変わらずえげつないねウルリカは。ある意味騙し討ち……」

「策士といいなさい。闇雲に捜し回るよりかは特定の場所へ急いだ方が何倍も効率的よ」

「それはそうだけどさ。ま、結果オーライか」


 2人の会話中に、俺は先程投げた短剣を腰のホルダーに戻し、再出発の準備を整えた。


「先を急ぎましょう!」

「そうね。もたもたしてる時間は無いわ」


 そして、俺達3人は再び走り出した。

 廃墟は思いのほか広い。ウルリカさんの言う通り、闇雲に捜し回るよりかは居場所を突き止めた方が断然早い。 

 何度か東方の旅団の構成員とぶつかり、その度に相手を気絶させながら俺達は進んだ。ここまでは順調だ。この調子ならミカエラもすぐに助け出せそうだ。


「あいつが言ってた部屋、ここら辺りかしらね」


 2階の最奥までやってきた俺達は、それらしき部屋を探す。

 前回と同じであれば、恐らくミカエラは手足を拘束されているはずだ。加え、魔力を抑えつける特殊な魔具も付けられているだろう。きっと、息苦しいに違いない。俺もあの辛さは味わった。早く見つけ出してあげたい。


「ミカエラ!」


 近くの扉を開け、中を確認する。

 だが、何もない。室内にあるのはボロボロの木箱くらいだ。

 諦めずに、他の扉も開ける。が、やはり何もない。誰もいない。


「まさか、あの状況でアタシ達を騙した……? そんな風には見えなかったけどな」

「僕もそう思う。あれは本気で言ってたよ。だから、どこかにいるはずだ」


 最後の扉を開けるが、やはりそこにも誰もいない。

 あてが外れたのだろうか。でも、こっちじゃないとすればもうヨハンさんとアニエスさんが向かった方の道しかない。


「……ん? まさか……」


 ウルリカさんが室内の一点を見ながら、その場に歩いた。

 何か見つけたようだ。俺とディーンさんもウルリカさんについていく。

    

「壁の色が若干違う。これ、隠し扉ね」


 言って、ウルリカさんは壁を手で押した。

 すると、見事に壁が開いた。

 さすがはウルリカさん。こうも簡単に隠し扉を見抜くとは。


「階段ね。しかも下に伸びてる」

「1階に隠し部屋でもあるんでしょうか。だとしたら……」

「ええ。あいつは下っ端っぽかったし、ちゃんとした場所までは知らなかった可能性があるわ。とにかく、行ってみましょう」

「はい!」


 警戒を厳にして、俺達は階段を下りた。

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