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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第二章
80/110

マフィアのボス




 ヨハンさんの部下のお手柄により、東方の旅団の居場所が掴めたらしいというのが、彼の言う本題だった。潜伏場所はクリンバ近くにある森の奥地。どうやら敷地外に逃げていたようだ。

 部屋で仕度を整えた俺達は、マルティーニファミリーのボスに会うべくアジトの地下を移動していた。ヤクザ屋さんのボスなんて、そうそうお目にかかれるものじゃない。おかげで、俺の心臓は早鐘を打っている。


「そう緊張しなくていいぜ。ボスは気楽な人だ。他のファミリーのお堅い連中とは違うからな」


 俺の様子を見て、ヨハンさんは的確に言葉をかけてきた。


「だとしてもですね……。マフィアのボスって言ったら、怖いイメージしかないですよ」

「まあ、一般的にはそうなんだろうけどよ。ウチのボスはちょっと特殊だからなぁ。まあ、それでこそついて行くに相応しいというか……。とにかく、あまり気負うなよ?」

「努力はしますけど……」


 するだけで、結果が出るわけでもない。

 ぞれから、俺はずっとドキドキしたまま、マルティーニファミリーのボス、イヴァン・マルティーニがいる部屋へとやってきた。木製の大きな扉。その先には、どんな人物が待ち受けているのだろうか。


「マフィアのボスかぁ。会うのが楽しみだわ」

「あはは、ウルリカは相変わらずだね」


 いつも通りなウルリカさんとディーンさん。これから敵地へ乗り込むのだ。これくらい自然体の方がいいのかもしれない。マネ出来れば、それが一番なんだろうけどさすがに無理です。


「じゃ、入るぜ」


 ヨハンさんが扉を開け、続けて俺達が部屋へ入る。

 中は瀟洒な雰囲気のある部屋だった。応接用のソファとテーブル。本棚に執務机。なんというか、書斎のような感じだ。


「きたか」


 渋い声がしたかと思うと、奥の椅子に座っていた男が立ちあがった。


「噂はヨハンからきいている。俺がマルティーニファミリーのボス、イヴァン・マルティーニだ」


 声を発するだけで、すごい威圧感だ。

 オールバックの頭に、綺麗に整えられた顎髭。歳は初老くらいに見えるがそれを感じさせない引き締まった身体。筋肉質な身体を無理やりスーツで覆っているかのような強引さが、イヴァン・マルティーニという人物の人柄を表しているように思えた。


「あんたがボスなのね。へえ、やっぱり他の連中とはどこか違うわ」

「ちょ、ちょっとウルリカ。その物言いはちょっと失礼なんじゃ……」


 すぐさまウルリカさんにディーンさんがフォローを入れるが、目の前のボスは特に気にしてはいない様子だった。


「はっはっは! 威勢のいい嬢ちゃんだな。ヨハンの言ってた通りだぜ」


 急に笑い出したボスに、ウルリカさんとディーンさんは呆気にとられたかのように固まった。かくいう俺も、まさかこの場面で笑いだすとは思わなかったので、少々びっくりしている。


「まあ、なんだ。とりあえず座ってくれや。といってもお茶なんかはだせないけどな」

「そういうことなら、お言葉に甘えることにするわ」


 言って、ウルリカさんは遠慮なくソファに腰掛けた。

 続いてヨハンさんが、そしてディーンさんもソファに座る。


「ほら、そっちのお嬢ちゃんも座りな」

「あ、はいっ」


 ボスのイヴァンさんに言われて、俺もソファに腰掛けた。

 少しだけ、ウルリカさんの度胸が羨ましい。というか、俺ももう少し図々しくなっていいのかもしれない。


「で? 俺に会いたいっていうのはなんでだ?」


 ボスの視線がウルリカさんに注がれる。

 俺達がボスと面会した理由はウルリカさんの知的好奇心のため。特に用事があったとかではない。


「ちょっとマフィアのボスとお話してみたかったのよ。こんな機会、そうそうないはずでしょうしね」

「そういうことかい。まあ、ヨハンが信用しているモン達だしな。俺と喋りたいってんなら構わないぜ」

「それじゃあお構いなく」


 それから、ウルリカさんとボスとのトークタイムが始まった。

 知識面というよりかはボスの考え方や思考を興味深々にきいている感じだった。マフィアという一組織のリーダー。その人物の理念や思想を、ウルリカさんは知りたかったのだろう。

 そして、数分が経った。

 俺とディーンさんとヨハンさんは完全に蚊帳の外だ。2人が熱く語り合うものだから、横やりも入れれない状態である。


「なら、いつかはこの街の闇組織を統一したいって考えているわけなのね?」

「ま、有体に言えばそういうこったな。クリンバは裏の顔を持っている街だ。それを支配出来れば楽しいじゃねえか」

「でも、時間がかかるんじゃないの? あなた一代でどうにかできるものでもないと思うんだけど」

「そのためにヨハンがいるんだよ。俺だって1人で統一できると思っちゃいねえさ。仲間がいて初めてやれる目標だと思ってる」

「仲間……。その仲間は、あなたにとってどういうモノ?」

「家族だ」


 ウルリカさんの質問に、ボスは即答した。


「なるほどね。信頼と人望を集めれるわけだわ」

「わかったような口きくじゃねえか」

「それはわかっているからよ」

「だっはっは! おもしれえ嬢ちゃんだ。名前は?」

「ウルリカ。ウルリカ・リーズメイデンよ。そしてこっちがイオとディーン。私の仲間よ」

「俺はイヴァン・マルティーニ。ウルリカ、お前気に入ったぜ。ヨハンが信用するのも頷けるってもんだ」

「それはどうも。私もあなたと話せてよかったわ」

「そりゃよかった。それと、こっちからも1つ頼みがあるんだが」

「? なにかしら」

「東方の旅団の件はきいた。ビジネスにおいて信用は最も疎かにしちゃいけねえもんだ。それを連中が蔑にしたってんだから、こっちもそれ相応の対応をしなくちゃならねえ」


 ボスはさっきまでの陽気な表情とは打って変わって真剣そのものだ。


「ウチのヨハンと連中に落とし前をつけるのに協力しちゃくんねーか」

「ボス……」


 ヨハンさんが申し訳なさそうにボスを見る。

 ヨハンさん1人だと東方の旅団相手に力不足だということを、ボスもわかっているのだろう。状況を把握して、最適な指示をだす。いくらマフィアのボスだからといって、無茶なことは頼めないはずだ。だから、ウルリカさんにお願いしているのだと思う。一番いいやり方を部下に提示するために。


「元からそのつもりよ。というか、アタシ達が巻き込んだようなもんだしね。ミカエラも取り戻さないといけないし、むしろこっちからお願いしたいくらいだわ」


 ウルリカさんの言葉に便乗して俺とディーンさんは同時に首を縦に振った。


「なら、頼む。ヨハンと他の部下達も一緒に連れていって構わない。やつらを野放しにはできんからな」

「了解よ。一匹残らず叩きつぶしてあげるわ。イオを怖い目に合わせた外道、この手で葬らないと気が済まないもの」

「は、ははは……」


 ウルリカさんの言葉には熱がこもり過ぎていて、とても頼もしい半面なにをしでかすかわからないのでちょっぴり恐ろしかったりする。キレたウルリカさん程怖いものはない。

 そして、ボスとの時間も終わった。

 俺達はこれからミカエラ救出のために東方の旅団を追わなければならない。アニエスさんにも連絡して、共にミカエラを助け出すんだ。


「ヨハン。後は任せたぜ」

「ええ。お任せ下さい」


 席を立ち、俺達はボスの部屋から退出する。

 今から敵地に乗り込むのだ。そう思うと、ボスと面会する以上に緊張する。

 それに、敵にはあのアルバンとチックがいる。俺達を騙した男と、俺を調教しようとしてきた男。できればもう顔も見たくないというのが本音だが、ミカエラを放っておくわけにもいかない。


「――あれ、ウルリカさんは?」


 廊下にはディーンさんとヨハンさんしかいなかった。

 ウルリカさん、まだ何かボスと話しているのだろうか。


「ちょっと訊き損ねたことがあるってさ。ここで待っていようか」

「わかりました」


 それからウルリカさんはすぐにやってきた。

 そして、俺達は敵地へと向かう準備を開始するのだった。





 イオとディーンとヨハンが部屋から出たのを確認してから、ウルリカはボスに問いかけた。


「最後に1つ訊きたいことがあるわ」

「なんだ? 応えられる範囲でなら答えるが」

「……"天族"と呼ばれる者達のことをご存知?」

「天族……? いや、知らないな。亜人なのか?」

「似て非なるものよ。私も詳しくは知らないんだけど、個人的に情報を集めていてね。裏の顔があるこの街なら何か情報がないかと思ったんだけど、そうでもないみたいね」

「悪いな。しかし天族か。魔族とはまた違う存在ってことか?」

「そうね。私も詳しくは知らないから説明は出来ないけれど」


 言って、ウルリカはボスに背を向けた。


「あなたとの会話は色々と得るものがあったわ。ありがとう」

「礼を言われるほどじゃないさ。また何かあったら来るといい。歓迎するぜ」

「ええ。そうさせてもらうわ」


 頭を切り替え、ウルリカは部屋を後にした。



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