救出②
施設に残っていたのは、どうやら雇われた人間だけのようだった。皆、冒険者風の恰好をしており、とてもじゃないが商人の集団には見えない。
「旅団の連中は逃げたか」
「ということは、時間稼ぎの可能性が高いね。どうする、ヨハンさん?」
「そうだな……。っていうかディーン、さんづけはよせって言っただろ。男同志だし、なんか気味悪ィ」
「はは、そうだったね。じゃあヨハン、この状況、どうしようか」
「ああ。狭い通路に、大勢の敵。魔術でもぶっ放せれば話は早いんだが、あいにく俺達に使えるやつはいねえ。なら――」
ヨハンさんはナイフを構え、敵を見据えた。
「男らしく強行突破といこうか」
「了解!」
俺を置いてけぼりにして、男共2人はやけに楽しそうに敵に向かっていった。
どうも彼ら敵には熱い展開らしい。俺にはよくわからないが、話す様子を見ると、そのように感じた。
「イオちゃんは下がってて!」
「そこで待ってろ、すぐに片付ける」
「わ、私も戦えますっ」
守られる対象じゃないんだ。
というわけで、俺も短剣を手に前線へ駆けだした。
敵は大勢といっても十数人。どうにもならない相手ではない。
まずは近くにいた太っちょの男に向かって短剣を突きだした。
「ぐへへへ。本当に可愛いなぁ。依頼を受けたかいがあったよ」
「ひぃ……!?」
冒険者風の、太っちょの、気持ち悪い男であった。
俺は急ブレーキをかけ、突撃するのをやめた。
近づいたら、何か変なことをされそうで怖い。
「オラァ!!」
俺が怯えていると、ヨハンさんの回し蹴りが炸裂した。
太っちょの冒険者が壁に吹っ飛んでいく。
太っちょの冒険者は起き上がる様子がない。どうやら気絶したようだ。
「言ったろ、下がってろって」
「で、でも……」
「こいつらの狙いは全員お前だ。どうやらお前をとっ捕まえたら好きにしていいってことになってるらしい」
「ええ……!?」
そんなおぞましい展開になろうとは……。
もうあんな思いは嫌だってのに。
「そうだよイオちゃん! ここは僕らに任せて!」
「ディーンさんまで……」
そこまで言われては、俺も手を出すまい。
俺は頷き、大人しく下がることにした。
ディーンさんもヨハンさんも、たぶん敵に遅れを取ることはないはずだ。戦力的に見て、2人を超える冒険者はいなさそうだし、さっきヨハンさんが言った通り旅団的には時間稼ぎのつもりなんだろう。
やはりというべきか、敵の数はどんどん消えていった。
しかも、雇われた相手ということなのか全員みねうちだ。誰も殺したりしていない。
「あと2人だね!」
「ああ。一気にいくぞ!」
「言われなくとも!」
残りの2人目掛けて、ディーンさんとヨハンさんは突撃した。
お互いに違う獲物に向かって、武器を振るう。
ディーンさんは剣を、ヨハンさんは投擲ナイフを。それぞれ的確に牽制に使い、最後は拳で幕を閉じた。
「ひでぶ!?」
「ごはぁ!?」
最後の2人が、同じタイミングで声を上げ倒れた。
まるで、長年一緒に戦ってきたかのような息の合い方に、俺は少なからずとも驚いていた。なんだか兄弟のようだ。まあ、全然似てないけど。
「どうしてそんなに息ぴったりなんですか?」
俺がそう尋ねると、ディーンさんはうーんと唸り、ヨハンさんは手を顎にあて考え始めた。
直後、ディーンさんが閃いたかのようにぽんと手を打ち、
「守るべき者が同じだからじゃないかな」
「守るべき者?」
「そうだよ。僕もヨハンも、イオちゃんを守るために戦ってるからね。そりゃ息も合うってもんだよ」
「そ、そういう問題なんですか?」
「そういう問題さ。ね、ヨハン?」
「知らねえよ。まあ、イオを守るためってのは間違っちゃいねえが」
ヨハンさんは何故か帽子で表情を隠し、そっぽを向いた。
「その、ありがとうございます。私を守ってくれて」
「当然だよ。ね、ヨハン?」
「その振り方やめろや。わかってんだろうがよ」
「ごめんごめん。でも、一応さ」
「なーにが一応だよ、ったく」
「ははは。照れてる照れてる」
「照れてねえよ! はぁー! お前と喋るとなんか疲れるな!」
「それは光栄だ」
「褒めてねえよ!」
だーだーと言い合い、しかしどこかディーンさんとヨハンさんは楽しそうに見えた。男同志何か気が合うのかもしれない。俺も中身は男だから、もっと気兼ねなく喋りたいところだけど、元がお喋りな性格じゃないし、到底2人の輪には入れそうにない。
ガラにもなくいいなぁと思ってしまった。
俺も男でこの世界に生まれていたら、2人の輪に入れたのかな。
男としてディーンさんと、ヨハンさんと付き合えたのかな。
考えたところで虚しくなるばっかりだけどさ。そう思わずにはいられない。
「敵も倒したことだし、さっさとウルリカとアニエスに合流するぞ。もう1人囚われてんのがいるってことだしな。そっちも助ければ万々歳だ」
「そうだね。急ごう!」
「はい!」
かくして、俺達は再び走りだした。