囚われの身⑤
牢の中で1人。
ミカエラが連れていかれてから、どれだけ時間が経過したのだろう。
心細くて、今にも泣き出してしまいそうだ。
肌寒いし、薄暗いし、居心地は最悪だ。
次は自分の番だと、そう思うと余計に不安になってくる。
それに、ミカエラは無事だろうか。
変に抵抗して、大変なことになってないだろうか。
無事な姿で、戻ってきてほしい。彼女に何かあったら、俺はどうすれば……。
「……っ」
足音だ。
上の階から誰かがやってきた。
足音は2つ。きっとミカエラが戻ってきたに違いない。
「ミカエラ……」
戻ってきた。
ちゃんと無事だ。外観はに過ぎないが、目立つ傷なんかも見られない。
でもなんだか様子が変だ。俺の方を見ようとしない。わざと視線を避けているかのようにも見える。
「お前は今からずっとコイツに怯えて過ごす事になる」
「ッ!?」
男が鞭を取り出すと、ミカエラは過剰に反応した。
明らかに変だ。鞭を見たくらいであそこまで怯えるはずがない。
「クク、良い表情だ。調教はまだまだ始まったばかりだからな。楽しみにしておけ」
ミカエラを牢に入れ、男はこちらにやってきた。
薄ら笑いを浮かべ、男は牢の鍵を開ける。
ついに自分の番がやってきた。
これからどんな目にあうのだろうか。ミカエラのあの様子を見ると、だた事じゃない何かが待ち受けている気がしてならない。
プロの調教師がどれほど凄いのか、俺には予想像もつかない。この短時間で、あれだけ恐怖心を煽れるのか。何をしたらミカエラがあんなになるというのだ。
「一週間もあればお前たちは完全な奴隷になり下がる。お前もこれから何かに怯えて過ごす事になる」
「何かに……?」
「そうだ。そっちのエルフのガキは鞭。お前は何になるかはチックさん次第だ」
「……」
そういうことか。
ミカエラは鞭を恐れるように調教されたのか。
でも、こんな短期間でどうやってここまで鞭を恐れるようにしたんだ。そう簡単に刷り込む事は出来ないはずなのに。
プロの調教師というのは、そこまで凄いのか。
俺も、ミカエラと同じようになってしまうのだろうか。
嫌だ。そんなの、絶対嫌だ……!
「次はお前だ。来い」
「……っ」
「……どうした。怖気づいたか」
怖気づいたどころじゃないんだよ!
叫びたいが、怖くて声も出ない。
身体が小刻みに震える。
未知の体験に、脳が拒否反応を起こしているみたいだ。
「……なるほどな。チックさんがエルフでもないお前を何故奴隷にしたがったか判った。そそられるんだ。お前を見ていると。もっと虐めてやりたくなる」
「……わ、私は……」
虐められたくなんて、ないのに。
そんなつもりでいるわけじゃないのに。
どうしてそんなこというんだよ……!
「動かないというのなら、その腕を断つ」
「……っ」
牢の中に入ってきて、男は剣の刃を俺の右腕に突き付けた。
鉄の冷たい感触が直に伝わってくる。少しでも腕を動かせばスパッと斬れてしまいそうな錯覚に陥る。
この男、本気だ。俺がここでぐずぐずしていたら、間違いなく腕を斬り落とす。
「し、従います……」
絞る出すように、それだけ俺は口にした。
腕が無くなったら。そう思うと、眩暈がする。
まともな生活は出来なくなるだろう。ウルリカさんと旅するのも難しくなるに違いない。それに、ディーンさんには迷惑をかけてしまうだろう。2人に余計な心配もさせてしまう。そんなの嫌だ。
「ついて来い」
「……はい」
俺は地面を見つめながら、牢から出た。