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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第二章
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囚われの身②




 とりあえず足の縄だけ解いてもらい、俺とミカエラは馬車から降りた。

 足は自由になったが、連中が俺達剣や槍などの武器を向けているため、下手なマネは出来そうにない。ちょっとでも変な動きしたら容赦なく刃が襲ってきそうだ。


「――また会えたねェ」

「あ!?」


 他の馬車から降りてきた中の1人に、見覚えのある人物がいた。

 確か名前はチックだったか。ヨハンさんと何やら繋がりのありそうな人だったはずだ。

 この狐顔、忘れるはずがない。一目見て嫌なやつだと感じた男だ。まさかこんなトコで再開するなんて。

 あの時、地下で囁きかけてきたのはコイツだ。間違いない。


「俺はチック。奴隷商だ。ヨハンのダンナには世話になってるが……さすがにこんな上物を放置するわけにはいかねェよなァ」

「奴隷商……ッ」


 やっぱり、こいつ等奴隷商の連中だったのか。

 でも何故、商人なのに武器を扱えるんだ。まさか、彼らは雇われているだけなのか。動きも統率がとれていたし、普通の商人連中とは思えない。


「まあそう肩肘張んねェで、仲良くしようや」

「誰が……ッ」

「反抗的なお譲ちゃんだ。ま、すぐに従順にしてやるよ」


 今にも俺を取って喰おうかって顔でチックは言った。


「じゃぁな。また後で、だ」


 言って、チックは先に目の前の施設に入っていった。

 それを確認すると、俺の周りにいる武装した連中が行け、と命令する。

 ミカエラは露骨に連中を睨みつけ、いいなりにはならないという意思を示している。

 誰が歩いてやるもんか、という頑なな意思。せめて、これくらいは対抗心を見せなければ、腹の虫がおさまらないのだろう。

 まだ少しの間しか接していないが、ミカエラは負けず嫌いな気がある。気も強いし、味方にいたら心強い、そんな女の子だ。


「歩け」

「嫌よ」

「ほう、命令に逆らうか」

「逆らうもなにも、あんたらに従う道理がないから」

「ふ、ふふ……確かにそうだな」


 剣を持った男はクックックと笑いながら、ミカエラの言葉に同意した。

 男の様子を見たミカエラは、眉根を寄せている。まさか同意を得られるとは思わなかったのだろう。


「だがな」


 急に声のトーンが低くなり、男は剣をミカエラにつきつけた。


「お前は俺達に逆らえる立場じゃねぇんだよ。奴隷として売られるのなら深く傷つけられることはないとお前は思っているのかもしれねぇが、手足のないダルマなガキを御所望な変態野郎はこの世界に腐るほどいるんだぜ? それがお前であっても俺らは構わねえんだがな」

「……っ」


 男の言葉に、ミカエラは恐怖の色を覗かせた。

 連中はこう言ってるんだ。五体不満足でも奴隷としての商品価値は無くならない、と。反抗的な態度をとれば容赦なく四肢を切り落とすと。それを理解したから、ミカエラは黙ったのだろう。

 やるといったらやる。そんな雰囲気を俺も連中から感じ取った。

 こいつらはマズイ。頭がおかしい。奴隷商ってのはどいつもこいつもこんなやつらばかりなのか。


「五体満足でいたいならさっさと歩け」


 次は抵抗せずにミカエラは歩きだした。

 俺も彼女に続いて歩く。悔しいが、どうにもならないこともある。

 目の前には見覚えのない建物があった。白を基調にした飾り気のないデザインの建物だ。まるで、何かの研究施設かのようだった。

 扉を男が開け、俺とミカエラは中に入った。

 面白みのないエントランスを抜けると、地下への階段を歩かされた。

 階段を下りると、そこは牢屋のような場所だった。

 床は岩肌だし、灯りはろうそくの灯だけで中は薄暗い。

 人の住むような場所では決して有り得なかった。


「今日からここがお前らの家だ」


 男はドンっとミカエラの背中を押し、牢屋の1つに押し倒した。

 すぐさま他の男が牢屋の鍵を閉め、ミカエラは柵の向こう側の存在になってしまう。


「純潔のダークエルフもこうなってはただのガキだな。ここでモンスターのエサにしてやってもいいが、それじゃ俺らが楽しいだけで金は入ってこねぇからな」

「……ッ あなた達、ろくな死に方しないわ……!」

「死に方なんて関係ないだろ。どうやって死のうが死は平等だ」

「……ッ」


 歯ぎしりの音がここまで聞こえてきそうな程、ミカエラは顎に力が入っていた。

 悔しいが、何も出来ない。

 このままこいつらのいいなりになるしかない自分が不甲斐ない。

 俺にもっと力があったら、ミカエラだって助け出せたかもしれないのに。


「次はお前だ」

「ぁうっ!?」


 急に背をどつかれ、酸素が一気に肺に入ってきた。

 咳き込むが、お構いなしに牢屋の中に押し込まれ、勢いでずっこけてしまう。


「ここでお前らが従順になるまで調教する。そうしてようやく一人前の奴隷だ」


 俺ら2人の牢の前で男は言った。


「せいぜい諦めるんだな。あの人は調教のプロだ。お前らがどれだけ足掻いても、最後は全て無駄になる」

「あの人って、さっきの……」

「そうだ。チックさんはそこらの調教師じゃねぇから、諦めちまった方が楽になれるぜ」


 男たちは笑い、最後に牢の鍵を閉めて地下から出ていった。

 その後ろ姿を眺めながら、俺は自分の無力さを痛感した

 男達が出ていったのを見計らい、ミカエラが話しかけてくる。


「イオ、諦めちゃダメよ。絶対にあいつらの言いなりなんてなっちゃダメ」

「それはもちろん判ってるけど……」


 調教というものがどのような効果を発揮するのか未知数だから、これからどうなっちゃうのか考えると怖い。

 もし本当に従順になってしまったら、俺はどうなるんだろう。


「一緒に頑張りましょ。耐えていれば、きっと……」


 調教に耐えていれば助かるのか。それすら不確かな状況だからか、ミカエラはその先を言葉には表さなかった。


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