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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第二章
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囚われの身




 不規則な揺れと衝撃で、俺は目を覚ました。

 手足は縄で拘束され、動けない。もがいてみても、しっかりと結んであって解ける見込みがない。

 狭い鳥籠のような場所だ。窮屈、というわけではないが、狭い事に変わりはない。

 揺れているところを見るに、ここは馬車の中だろう。

 あの地下輸送ルートでアルバンさんの仲間に眠らされたところまでは覚えている。それからここに運ばれたのだろうか。

 その後ウルリカさんとディーンさんがどうなったのかは判らない。2人のことだから、俺みたいにドジ踏む事はないと思うけど心配だ。

 ふと手首の縄を見た。

 ダメだ。これはどうしようもない。

 魔術でも使えればどうにか出来そうなもんだが、あいにく俺にそんな高等テクニックはない。


「……目、覚めた?」

「え?」


 いつの間にか隣にもう1人いた。

 というか、最初からいたんだろうけど。


「あなたも捕まっちゃったのね」

「……みたい、ですね」


 黒い少女だった。

 髪は漆黒色。身体の色も特徴的で、いわゆる褐色肌ってやつだ。

 体型は俺とあまり変わらなそうだ。歳もきっと近いんだろう。

 しかし、ということは彼女も俺と同様に捕まってしまったのだろうか。

 なんて考えていると、彼女もまた縛られている事に気づいた。間違いなく俺と同じように捕らえられている。


「あ……」


 そしてもう1つ彼女には決定的に普通の人間とは違う点があった。

 耳だ。耳が長い。

 エルフのそれと同じようだ。

 コビンの管理人のフィオさんもこれくらい長かった。

 まさか、この子純エルフなのか?

 だからあいつらに捕まったのか。そういうことなら合点がいく。


「私、エルフなんだ。だから捕まったんだろうね。あなたは……」


 エルフの子がまじまじと俺の顔を覗き見てくる。

 なんだろう。エルフだから異様に顔が整っていて綺麗だ。そんな子に見つめられるとドキドキしてくるんだけど。


「あなた、不思議な魔力の波長をしてる。何者?」

「わ、私は……」


 アルカナドールです、とはすぐに応えられなかった。

 それもそうだ。自分から化け物まがいの存在だと告白出来る程俺は図太くない。


「ま、言いたくないよね普通。私の場合この耳とか隠せないからしょうがないけど、あなたは判る人にしか判らないだろうし」

「ごめんなさい……」

「謝らなくていい。気にはなるけど、必ずしも知らなければいけないこともないから」


 少しだけ冷たい言い方だったが、彼女なりに気を使ってくれたのだろう。

 そして、しばらく沈黙が訪れた。

 馬車の揺れる感覚がお尻を通じて身体全体に行き渡る。

 これが切羽詰まった状態じゃなければ、心地良く感じるのだろうが、今はそんな状況じゃない。

 何か喋って気を紛らわせたいが、お互いに初対面。話すことなんてそれほどない。これからどうなるんだろう、とか、ウルリカさんとディーンさんは無事なのかとか、知りたい事は山ほどあるが、それをこの子にきいても仕方ない。彼女も自分と同じく捕まった身だ。情報の量は俺と同じくらいしか持ちえてないだろう。


「そういえば、名前は?」


 思い出したかのようにエルフの少女は言った。

 言われて自分も相手の名前を知らない事に気づいた。

 話すことあるじゃないか。こんなコミュニケーションの初歩も出来ないから前世では引きこもりだったのかな。なんて、落ち込んでる場合でもないんだけど。


「イオです」

「あたしはミカエラ。あまりいい状況での出会いじゃないけど、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「見た感じあまり年変わらなそうだし、丁寧に喋らなくていいよ」

「そうですか? ……じゃなくて、そう? なら、そうするよ」

「うん。そっちの方があたしも接しやすいし」


 捕らえられた者同士、変な気分で挨拶を交わす。

 これからどうなるのかという心配はあれど、同じ境遇の仲間がいるというのは心強いものだ。

 

「この馬車、どこに向かってるんだろうね。クリンバの土地を走っているのは判るけど……」


 ミカエラは馬車についている小さな窓から外を見ながら言った。

 その横顔には、少なからず不安の色が伺える。


「私達、これからどうなっちゃうのかな」


 ついつい弱音を吐いてしまう。

 アルバンさん達が何者なのかは判らないけど、こうして無理やり捕まえられているのだからいいようにはされないはずだ。

 ふとあの馬車を思い出した。

 奴隷商売。そんな外道な商売がこの都市では行われているらしい。

 もしかしたら俺も奴隷として売られるのか。アルカナドールだから、価値があると思われたのか。

 でも、何故俺がアルカナドールだと判ったんだ。普通の人間には見分けがつかないはずなのに。

 アルカナドールかどうかを見ただけで判るのは、相当腕のある魔法使いだとウルリカさんは言っていた。だからシーグルのような力のある魔法使いには一発で俺が普通の人間ではないと見抜かれた。

 だが、アルバンさんはどう見ても魔法使いじゃない。それに、魔法に長けた人種にも見えない。そんな人がどうして俺をアルカナドールだと見抜けたんだ。


「あたしが魔法を使えれば……」

「あ……魔法……」


 そういえばそうだ。どうしてミカエラは魔法が使えないんだ。エルフなら魔法はお手の物のはずなのに。


「これ、見て」

「――! それは……」


 手首や足首、首など、至る所に何かが巻かれている。

 丸いビー玉のようなものが中心に埋め込まれた、一見装飾品に見えるそれは、一体何なのだろうか。


「これは魔力を抑える魔具でね。1個ならどうとでもなるんだけど、これだけ身体に巻かれたらさすがに魔法は使えない」

「魔力を抑える魔具……。そんなものがあるんだ……」


 なんて恐ろしい代物だ。これでは魔法が使えてもどうしようもないじゃないか。


「素手では外せないようになってるから、この魔具の解除に必要な鍵がないとあたしは一生このままだね」

「このままだね、ってそんな悠長な……」

「悠長ってつもりはないけど。でも、どのみちあたしらだけじゃこの状況は打開できそうにない。誰かが助けに来てくれるのを祈るか、それとも誘拐犯が全員突然死でもしてくれないとね。ま、どっちも望み薄だけど」


 淡々と言っているようだけど、ミカエラも不安なんだろう。声が所々震えている。

 かくいう俺も、不安で不安で仕方がない。

 これから自分がどうなるのか想像も出来なくて、それがより恐ろしい。

 殺されるってことはないだろうけど、それでも痛い目に合うことは覚悟しなければならないだろう。よくて誰かに売り飛ばされる。悪かったら……どうなるだろうか。あまり考えたくはない。

 もしかしたらウルリカさんとディーンさんが助けに来てくれるかもしれない。その希望にすがってあがくしか今の俺に道は残されていないようだ。

 

 

 

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