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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第二章
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偽りの気持ち




 そしてその日はやってきた。

 アルバン・ボルローと共に依頼をこなす日だ。

 朝からなんだか落ち着かない。

 なんというかあれだ。試験の前、試合の前、面接の前、に感じる緊張感だ。

 朝食は喉の通りが悪く、ミルクをいつも以上に飲んだ。

 寝起きも悪く、顔色がすぐれない。

 こういう時はどうすればいいのだろう。

 ウルリカさんは外出、ディーンさんは散歩中で、部屋には俺とミィしかいない。

 とりあえず気分転換にミィと戯れるか。

 そう決めて、宿の俺のベッドで丸くなるミィを抱き上げた。


「今日ね、新しい人が仲間になるかもしれないんだ」

「にゃぁ?」

「でも、私はちょっと怖いよ。理由は判らないけど、あの人を見ていると不安になる」

「にゃあ~」

「でも、ウルリカさんが言った通りなんだよね。私、アルバンさんが巨体で人相悪かったから怖かった。でも、それは相手を外見で判断してるってことだ」

「にゃ!」


 ミィにも伝わったのか、前足を俺の額にポンっと乗せてきた。

 だが実際、外見だけで俺はアルバンさんを恐れているのだろうか。

 彼を初めて見た時の嫌悪感は一体何だったのだろうか。

 それが判らないから、余計に不安なのかもしれない。


「外見で相手を判断するって事は、私達をバカにした他の冒険者と何も変わらない。そのことは頭では理解できてるつもりなんだよ?」

「なぁ~?」

「だけど、やっぱり私は臆病者だね。きっとどこかで怯えてる。平気なフリしても、心では拒否反応が起こってる。筋肉さんみたいな優しい顔のひとなら、身体が大きくても平気なんだけどなぁ」


 言って、ミィの頭を撫でる。

 頭だけじゃなく、色んなところを撫でてやると、ミィは嬉しそうに鳴いた。

 

「ごめんねミィ。私の愚痴につき合わせちゃって」


 本当はわかってる。

 クランを作るのなら、メンバー全員俺の好きな人で構成するなんて不可能だ。

 馬が合わない人とも付き合っていかなくちゃならない。これは、どの組織に属していても言えることだと思う。俺ばっかりが逃げてちゃダメなんだ。


「――イオちゃん?」


 朝の散歩から帰ってきたディーンさんが、不思議そうに俺の事を見てきた。

 もしかして、1人猫に話しかけていたのが気味悪がられたのかな。

 確かに、猫に話しかける人間ってどうなんだと今更になって恥ずかしくなってきた。しかも愚痴だし。そういうのを話せる相手が猫しかいないとディーンさんに思われたらどうしよう。


「え、えっとこれはですね……」


 俺が何か言い訳をしようと考えていると、ディーンさんは俺と同じベッドに腰掛けた。


「ミィが羨ましいな」


 ディーンさんの口から、俺が予想だにしていなかった言葉が出てきた。

 ミィが羨ましいって、このタイミングでどうしてだろう。


「僕も猫だったら、イオちゃんの愚痴をきけるのかな」

「それは……」


 ディーンさんは哀しげな視線で俺の目を射抜く。

 そんな風に言われると、どうしていいか判らなくなってしまう。

 ディーンさんが猫になるだなんてまずあり得ない話だし、仮定としては破綻している。そういう事じゃないんだろうけど、俺はどう返していいのか判らずに思考の奥底に逃げたくなった。

 考えているフリをすればいずれ相手が何か口を開くだろう。

 そんな安直な考え。

 コミュニケーション能力の低い俺は、こういう時上手い切り返しが出来ない。相手が俺に何を言わんとしているのか。それさえ把握できれば何とかなるのだが。


「ディーンさんは、意地悪です……」


 咄嗟に出た言葉はこれだった。

 絞り出すように喉から出てきた。

 俺の言葉に、ディーンさんは一瞬目を見開いたが、すぐに戻った。


「はは、ごめんごめん。確かに意地悪な言い方だったよね。でも、猫と真剣にお喋りしてるイオちゃんの姿はなんだかすごく癒されたよ。良い絵になるっていうかさ」


 冗談なのか本気なのかイマイチ判りずらい声音でディーンさんは言った。

 ディーンさんはミィを抱き上げると、徐に話しかけ始める。


「イオちゃんの不安をもっとたくさんきいてあげるんだよ。この子、なんでもかんでも背負おうとするから、不安なんだ。いつか心の闇に飲み込まれてしまうんじゃないかって。まだ子供だから、そういうの貯め込んじゃダメだと僕は思う。僕がはけ口になれたらいいんだけど、イオちゃんはあまり僕にぶちまけてくれないしね」

「にゃ!」

「はは、ミィがイオちゃんの不安をきいてくれるんだね。僕にもウルリカにもそれは難しいから、ありがたいよ」


 ミィを置き、ディーンさんはふぅと息を吐いた。

 それから俺の方に向き直り、ディーンさんは少しだけ真剣な顔になる。


「あのアルバンという男が不安なのかい?」


 ディーンさんの指摘は的を射ていて、俺はギクリとする。

 もしかしてミィとの会話をずっときかれていたのだろうか。


「不安……でしたけど、わがままも言ってられません。今の私達の目的は仲間を集める事。だから……私1人の駄々で迷惑をかけたらいけないんだ」


 最後の方は自分に言い聞かせるようにして発していた。

 そうだ。俺1人のわがままで和を乱すようなことをしてはいけない。

 アルバンさんは何だか怖い。だけど、我慢できる。


「そっか。でもイオちゃん、無理はしちゃダメだよ」


 そう言うディーンさんの顔はどこか不安げだった。

  

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