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服従。ふくじゅう。フクジュウ。



 スライムとの戦闘訓練を終え、俺とウルリカさんは魔道書の部屋に戻ってきていた。

 ちなみにさっき着てた服はスライムとの戦いでベトベトになってしまったので洗濯中だ。今は前着てたワンピースを着ている。

 地下での訓練はあれからも続いた。多分一時間半くらい。キングスライム以降はもうあんな事にはならないように必死に戦ったおかげで貞操の危機に陥る事はなかった。

 実際にモンスターと戦ってみて、少しは剣の扱いにも慣れてきた気がする。といっても、この世界の人と比べたらまだまだなんだろうけど。

 剣だけじゃなくて槍や斧も扱ってみたが、やはり剣が一番扱いやすかった。だからこれからも剣で戦闘訓練していこうと思ってる。


「ふう……」


 ウルリカさんが淹れてくれたコーヒーで一服。

 身体を動かした後のコーヒーは美味いねぇ。てか、コーヒーとかもこの世界にあるんだねぇ。


「そういえばイオ」

「はい」

「言い忘れてたけど、アルカナカードにはドールを服従させる力があるの」

「……はい?」


 本日一番の呆け声を漏らす俺。

 至福のひと時に何か嫌な話題を振られたような。


「服従よ、服従」

「いや、復唱しなくても聞こえてますけど……」


 服従。ふくじゅう。フクジュウ。

 服従って、相手のいいなりになるってやつだよな?

 いいなり、いいなり……――。


「い……いいなりぃ!?」


 ええええぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

「お、落ち着きなさいって! 誰からにでもないわ。アルカナカードを持つ人間だけだから」

「でででですけど……」

「カードはアタシが肌身離さず持ってるから心配ないわ」

「ほ、ほんとですか……?」

「ほんとほんと。だからそんなうるうるした目で見ないでって。ついついいたずらしたくなっちゃう。――あ、そうだ」


 きゅぴーん、とウルリカさんは何かを閃いたようだ。

 しかし、その顔は怪しく笑っている。

 何かよくないことを考え付いた。そんな顔だ。


「ちょっと試してみましょうか」

「な、何をですか……?」

「アルカナカードの力よ。どうなるのか、イオも知っておいた方がいいんじゃないかしら」

「そう、ですか……?」


 知る必要があるのだろうか。いや、ない。反語。

 まあでも、自分の身体のことだ。知っておいて損はないか。

 ……ない、よな?


「ではさっそく」


 懐からアルカナカードを取り出し、ウルリカさんは何やらし始めた。

 どうやらカードに魔力を送っているようだ。正確には分からないが、似たような事をしているのは間違いない。

 どんな命令を下されるのか。ドキドキしながら待っていると、両手が勝手に動き出した。

 両手の人差し指が頬に押し付けられる。痛くはないが、恐らく今俺の顔は大分変だろう。


「にゃ、にゃにしゅるんえしゅか」

「ふ……ふふ……変な顔……っ」


 笑いを堪えながらウルリカさんは言った。


「わりゃわにゃいでくだひゃいよぉ……」

「だって……っ、あなた、その顔……っ」

「う、うりゅりかしゃん~」

「はいはいごめんね……ふふっ」


 若干笑いながらも、ウルリカさんは命令を解いてくれた。

 それにしてもだ。想像以上にカードの力に抗えなかった。これでは死ねと言われて自殺してしまいかねない。

 でも、アルカナカードの所持者はドールマスターのウルリカさんだし、そんな命令するはずがない。あの時エウィンさんが言っていた『カードはマスター以外に持たせるな』とは、このことを言っていたんだろう。そういう忠告だったと今更ながらに納得した。

 でも、誰かに俺のアルカナカードを盗まれでもしたら……。

 いや、今はそんな不吉なことを考えるのはやめよう。どんどんネガティブな方へ思考が向かっていきそうだ。


「ちなみにカードの効力はその所持者の近くでないと発揮しないわ。例えばアタシが地下からカードに命令しても多分効果はないわね」

「な、なるほど、です」


 取り合えず逃げれば何とかなるのか。

 まあ、逃げれる場合だけだろうけど。

 そもそもウルリカさんがカードを守ってくれるだろうし、そんなに心配することじゃないかも。うん。そうだよ。ウルリカさんは大賢者の弟子らしいしきっと強いに違いない。モンスターとか召喚できるし、絶対強いはず。強い、よね……?


「――ウルリカさん、大好き」


 ――は?

 いきなり俺のお口は何を口走ってんだ!?


「――ぎゅーってして欲しいです」


 だから何言うてんの俺の口ィ!

 まさかこれ、ウルリカさんがカードの力で言わせて……!?


「もー、しょうがないなぁ。そこまで言うならぎゅーってしちゃおうかしら。あ、でももっとおねだりして欲しいなぁ」

「――む、むうううぅぅぅ」


 嫌な予感がして口を手で塞いだ。

 だが、その手も俺の意思に反して口から離れていく。


「イオのこと、ぎゅーってしてください」


 なんで上目づかいなのおおおおおおおぉぉぉぉ!?

 アカン。下手に動けない。どうやっても俺の力じゃカードに抗えない。

 ここまでの拘束力があるのか……。恐るべしアルカナカード。


「――……なんてね」

「あっ」


 急に拘束が解かれた。身体の自由が完全に戻ってくる。


「アタシ程の魔法使いならここまで操れるようにもなるけど、他のやつはそうはいかないわ。それでも気をつけるに越したことはないけどね」

「こ、これは予想以上でした……」


 多少は抵抗も出来るんじゃないかと思ったが、全く出来なかった。もしかしたらウルリカさんが凄いだけなのかもしれないけど、それでもカードの力は俺のようなアルカナドールに対して絶大のようだ。

 ウルリカさんはカードを懐に入れ、ごめんねと謝ってきた。


「ちょっと遊びが過ぎたわ。でも、カードがどれくらい力を持っているのか身をもって体感できたと思う。当然、アタシは誰かにアルカナカードを渡すなんて事する気はないけど、万が一ということもあるわ。イオも気をつけて欲しいの」

「は、はい。気をつけます」


 本当に気をつけないとな。この世界を旅する中で、危険なこともあるだろうし。


「――さて、少し休憩したらまた特訓するわよ」

「ま、またスライムとですか!?」

「そうよ! これからは毎日イオの特訓をするわ。旅立つ前にやれることはやっておきたいからね。戦闘だけじゃなくて知識の方もやれるだけやっておきたいし」

「そ、そういうことなら……」


 正直なところ不安はある。

 未知の世界を旅するにあたって、今の俺では分からない事が多すぎる。

 モンスターもそうだが、世界の仕組みや成り立ち、常識など生前の世界と違うところも出てくるはずだ。

 戦う術だってそうだ。生前の世界には必要なかった事がこの世界では必要なものになっている。一般人でさえも、軍人のようにとまではいかないが戦う術を持っているのがこの世界の常識みたいだしな。学院とやらでそういった力をつけるという話だし、戦闘訓練はこちらで言う算数とか国語と同等な学問なのかもしれない。魔法においても然りだ。


「が、がんばりますっ」

「ええ。一緒に頑張りましょ」


 どのくらいの時間がかかるか分からないが、旅立つ前にやれることはやっておきたい。

 うん。頑張ろう。


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