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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
58/110

新しい仲間と共に




 ――翌朝。

 ヴァールの町に滞在する理由もなく、当然の流れでここから発つ事になった。

 宿屋で朝食をとった後、俺達は町の北口にやってきた。

 見渡す限りの快晴だ。今日はもうずっといい天気な気がする。ミィなんか俺の足元で日向ぼっこしている。天気がいいし、気持ちいいんだろう。

 天気はいいけど、俺の心は若干曇っていた。

 ここで、筋肉さんとはお別れだ。出会ってから間もないけど、やっぱり寂しい。しょうがない事だとは分かっているから、筋肉さんに無理を言ったりはしない。ちゃんと別れを言おう。

 

「では、拙僧は西へ行くとしよう。まだまだやらなければならぬ事があるのでな」

「やること、ねぇ。そういえば髭は何のために旅してるんだっけ」

「聖職者の使命を全うする。その為の旅である」

「そういやアンタ僧侶だったわね。ま、色々大変だろうけど頑張って」

「うむ。そなたらにも古神の御加護があらんことを」


 筋肉さんはわざとらしく合掌をした。


「お気をつけて」

「うむ。ディーン殿もな」


 言って、筋肉さんは最後に俺の方を向いた。


「――イオ殿」

「はい」

「達者でな」

「はい。筋肉さんも、お身体には気をつけて」

「うむ。また会おう」

「はい……っ」


 最後に全員と目を合わせ、筋肉さんは歩きだした。

 その彼を、俺達は黙って見送った。

 たった2日間くらいの付き合いだったけど、やっぱりお別れは胸にくるものがある。

 出会いがあれば別れもある。旅をしているのだから、これからそういった事も多々あるのだろう。そういうのに慣れたいとは思うけど、まだまだ時間がかかりそうだった。


「筋肉さん、行っちゃいましたね」

「ええ。そうね」


 ウルリカさんも感じる所があるのか、顔には少しだけ哀愁が漂っていた。


「また、会えるでしょうか」

「会えるわ。アタシ達も旅しているんだからね。いつかは巡り合うこともあるでしょ」

「そうですよね……。すいません、少しだけ弱気になっちゃいました」

「気にしなくていいわ。それでこそ人間じゃない」

「あ――」


 ウルリカさんの人間という言葉に、必要以上の意味が込められている事に俺は気付いた。

 俺はアルカナドールだ。だけど、人間でいたいと俺自身は思っている。

 器に魂を入れただけの人形かもしれないけど、俺にはちゃんと意思がある。主の命令をきいてそれに従うだけのお人形じゃないんだ。

 そんな俺の想いを、ウルリカさんは汲んでくれたのだろう。

 ウルリカさんの何気ない気遣いが、俺にとってすごく嬉しかった。


「えと、それで、ディーンさんはどうされるんですか?」


 意識したつもりはないが、恐る恐るといった調子で俺はそう口にしていた。

 ディーンさんともお別れなのだと思っているから、こんな口調になってしまったんだろう。我ながら女々しいと思わずにいられない。


「僕は……そうだな。君達次第、かな」

「……え?」

「ん? どうかしたかい?」


 2人してよくわかっていないのか、しばし見つめ合ってしまった。

 数秒後、じーっとディーンさんの顔を見つめていた事に気付き、赤面しつつ咄嗟に視線を逸らした。


「どうしたの?」


 ウルリカさんも疑問符を浮かべきいてくる。

 いや、俺がどうしたのって訊きたいんだが。

 ディーンさんの君達次第って、一体全体どういう意味なんだろう。

 まさかあれか。俺が懇願すれば一緒についてきてくれるって事なのか。

 だが待て。ディーンさんに限ってそんな上から目線な考え方はしないはずだ。

 ならば、どういう事だ? 

 ……って、分からないのなら訊けばいいじゃないか。

 幸い、ご本人様が目の前にいるのだから。


「あの、私達次第、というのはどういうことなんでしょう?」

「言葉通りの意味だけど……」

「??」


 尚更分からない。

 ディーンさんのこれからは俺達に委ねられているとでもいうのだろうか。


「あ――」

「ウルリカさん?」


 何かに気づいた、というような顔でウルリカさんは声を上げた。

 そして徐々にウルリカさんの顔が意地悪そうものになっていく。


「はっはーん……。なるほどなるほど。そういうことか」

「どういうことなんですか!?」

「すれ違っている、ということね」

「すれ違い……?」


 どういうことなんだ?


「そういえば昨日、イオにアタシからは伝えなかったっけ。てっきりディーンが直接言ったのかと思ってたけど……。そうじゃないみたいね」


 ウルリカさんがそう言うと、ディーンさんも何故か納得したかのように頷いた。


「あ――。なんだそういうことか。僕もてっきりウルリカがイオちゃんに言ったのだと思ってたよ」

「――??」


 2人は何の話をしているんだ?

 俺の知らない所で何かあったのだろうか。

 というか、2人だけで秘密を共有してたのか!


「わ、私に何か隠してたんですねっ!? ひどいです!」

「ええっと、隠してたわけじゃないんだけど……」

「そうね。イオを驚かそうと企んでたわけでもなかったし。結果的にこうなっちゃったけど、隠すつもりはなかったのよ」

「うん。ごめんね」

「う……」


 素直に謝られると、居心地が悪くなるな……。

 隠すつもりはなかったけど、結果的にそういう風になっただけみたいだし、ここは大人しく引き下がろう。


「えと、それで2人の間で何があったんですか? 思えば昨夜からやけに仲良くなってる感じですし……」

「ふふふ、気になってる気になってる」

「き、気になるに決まってるじゃないですか! ウルリカさん! 教えてくださいよぅ!」

「ええ~どうしよっかなー」

「ぐぬぬ……」


 アカン。

 ウルリカさんが意地悪モードに入っている。

 これは一筋縄ではいきそうにないな。

 かくなる上はディーンさんに訊くしか……!


「ディーンさんっ」

「あはは……。ウルリカも意地悪しないで教えてあげればいいのに」

「でも、困ってるイオって可愛いんだもの。ディーンもそう思わない?」

「ま、まあ……確かに。でも、さすがにかわいそう、かな。それに、ちゃんと教えないと先に進めないだろ?」

「それもそうね。これからいくらでもイオを困らせる時間はあるわけだし、今回はこのくらいにしときましょうか。じゃないと、本気でイオが泣いちゃいそうだしね」

「う、うぅ……」


 なんだこの仲間外れ感。

 人と人は秘密を共有して仲良くなるというが、まさしくそれじゃないか。

 ウルリカさんとディーンさんが仲良くなるのは嬉しいはずなのに、素直に喜べないのはなんでだ。やっぱりハブられてるからか。


「ふふ、ごめんねイオ? でも、あなたにとっても良い知らせだと思うから、あまり恨まないでね」

「恨みはしませんけど……。へこみます。仲間外れにされたみたいで」

「大丈夫。イオもアタシも、そしてディーンもみんな仲間よ。仲間外れなんかじゃないわ」

「それは……って、え?」


 ディーンさんも?

 それは今まで一緒にやってきたからという意味だろうか?


「うん。ウルリカの言う通り、僕らは仲間だよ。だから、イオちゃんだけのけものになんかしないよ」

「えっと、それはもしかして……」

「ええ。ディーンは正式にアタシ達の仲間になったわ。もちろん、新しく造るクランのメンバーにも加えるつもりよ」

「え、ええぇ!?」


 ディーンさんが俺達の仲間に!?

 一体いつどこでそんなことが決まったんだ!?

 俺の預かり知らぬ間にそんな大切な事が……。

 俺達次第というのは、ディーンさんが正式に仲間に加わるからだったのか。


「アタシが誘ったのよ。今の目的はクランのメンバー集めだし、ディーンは暇そうだったからね」

「暇って……。確かにそう見えてもおかしくはないけどさ」

「事実じゃないの?」

「ま、まあ……フラフラしているのは間違いないから、誘ってくれたのは素直に嬉しかったよ」


 苦笑いしながらディーンさんは言った。

 やっぱり、前よりも2人の仲が良くなったように見える。これが、一緒に買い物に行ったパワーなのか。あの短い間で2人に何があったんだろう。

 ディーンさんはイケメンだし、ウルリカさんは綺麗で可愛いから2人が仲良くしてると凄く絵になる。俺がその中に入っていいのか不安になる程だ。

 でも、ディーンさんが仲間になってくれた、っていうのは凄く嬉しい。これからお別れだと思ってたから尚の事だ。これからはずっとディーンさんが一緒にいてくれると思うと、心が弾む。やっぱり、旅する仲間が増えるというのは良いものだ。


「それじゃ改めて。よろしくね、イオちゃん」

「は……はい!」


 若干照れつつも、俺はディーンさんと握手をした。

 これからは3人で旅する事になると思うと、ワクワクしてくる。

 ミィも嬉しいのか、ディーンさんの足元でジャレついているようだ。


「よいしょっと」


 ディーンさんはミィを抱き上げ、頭を撫でた。


「ミィもよろしく」

「にゃぁ~」

「ふふ、ミィも嬉しいのね」

「そうみたいですね」


 なんだかんだ、ミィはディーンさんに懐いていたからなぁ。

 館の時も、ミィがディーンさんを連れてきたみたいだし。


「さて、と。天気もいいことだし、そろそろクリンバに向けて出発しましょうか」

「はい!」

「あと、改めて確認するけど、今のアタシ達の目的は仲間を5人集める事。現在は3人だから、あと2人確保しなければならないわ」

「2人……」


 正直、仲間を集めるのは簡単にはいかないだろう。

 ディーンさんは色々と縁があったからこういった形で仲間になったけど、他はそうもいかないと思う。


「ええ。あと2人よ。クリンバに行けば仲間が増えるとも限らない。レネネトのギルドではソロの冒険者が結構いるって言ってたけど、彼らが全員仲間を求めているとは限らない。好きでソロ冒険者をやっているやつが大半だと思うわ」

「好きでソロを……。でも大半ってことは、仲間を探している人もいるってことですよね」

「ええ。少なくともクリンバで1人は確保したいけど……。ま、そういうのは行ってからのお楽しみだわ。時間はたくさんあるんだし、焦らずに行きましょ」

「はいっ」

「そうだね。急いては事を仕損じるっていうし。それで、当面の目的はクラン結成のための仲間集め、でいいんだよね?」

「ええ。クリンバも仲間集めの通過点に過ぎないから、長く滞在するってわけじゃないわ。無理そうならちゃっちゃと次の町へ行く予定よ」

「なるほど。まあでも、クリンバは相当な広さだから、数日は見ておいた方がいいだろうね」

「そんなに広いんですね……。今から楽しみですっ」


 きっとクリンバは都会ってやつなんだろうなぁ。

 俺自身生前は田舎者だったのもあって、都会ってやつには憧れてしまう。

 ヴァールやレネネトとは比べ物にならないくらい広いだろうし、ワクワクが止まらないぜ。


「じゃ、行きましょうか」

「はいっ」

「ああ」

「にゃぁ~」


 晴天の空の下、俺達は次なる目的地へと歩き出した。


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