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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
52/110

真実は闇に




 身体の消耗具合はもう限界を超えていた。

 だがしかし、俺の身体は動き続けていた。短剣を用い、標的となっているディーンさんを攻めまくる。アルカナカードの力で操られているため、キツイのに戦闘行動を止める事が出来ない。

 理不尽だ、と思った。俺の心は行動の正反対を向いている。なのに、どうして俺の身体はディーンさんを殺そうとするんだ。

 分かるんだ。剣の一振り、踏み込みの勢い、その一つ一つがディーンさんを殺そうとしている。一撃一撃に手加減を感じない。


「どうすれば……! 僕はどうすればいいんだ!」


 悲痛な面持ちで叫ぶディーンさん。

 未だにディーンさんは俺に攻撃という攻撃をしていない。お人好しのディーンさんの事だから、俺を傷つけたくないとか思っているんだろう。今はそんな事言ってる場合じゃないってディーンさん自身理解しているはずだが、それでも手を出せないのは彼が優し過ぎるからだ。

 大切に思われている事は、素直に嬉しい。嬉しいけど、自分を犠牲にしてまで貫いて欲しくない。もう、無理しないでくれ。


「ふふ、可愛らしいですわ。イオさんは今、どのような事を考えて戦っているのでしょう。ああ、考えただけで震えますわ。高鳴りますわ。昂ぶりますわ……!」


 ゼルマが身体を震わせた。

 依然として、俺の肉体はゼルマの支配下にある。これは彼女の力が強い事を意味している。ウルリカさんも言っていたが、普通の人間がカードの力でドールを服従させても完全に支配は出来ないらしい。ここまで身体の主導権を握られているという事は、ゼルマが相当腕の立つ人物だという証拠に他ならない。

 ウルリカさんも、こいつに負けた。にわかには信じ難いが、アルカナカードを奪われているという事は認めざるを得ない。こんな状況になったのも、ゼルマが俺達よりも強いからだ。

 俺が弱いから、ダメだったんだ。どうして俺は弱いんだろう。アルカナドールっていうチートみたいな存在なのに、誰も守れない。むしろ守られてる。そんなんでいいわけがない。

 でも、簡単に人は強くなれない。誰だって、相応の努力をして一流になる。プロ野球選手だってそうだ。小さい頃から必死に頑張って、練習に打ち込んで、ようやくなれる。身体が大きくて、運動神経があるからといっていきなりプロにはなれない。野球で例えれば今の俺は、運動神経のあるただの初心者だ。熟練が足りない、修練が足りない。想いだけでは、人は変われない……!


「そう、力ある者が弱者を支配するのですわ。アルカナドールというのは実にシンプルに出来ていて、わたくしは嫌いじゃありません。過去、この館で行われていた事も、強者が弱者を貶める陰険なものでしたわ」


 ゼルマの言葉に呼応して俺の動きが止まる。戦闘行動は止まったが、未だに俺の身体はゼルマに支配されている。


「少しだけ興に乗じて、昔の真似事でもしてみましょう」


 言って、ゼルマは指を鳴らした。

 すると、奥の扉がおもむろに開きだした。その中には、さっき俺を苦しめていたあの巨大なスケルトンがいる。

 ゼルマの何かの魔術で、壁が破壊される。入り口が広がり、中から巨大なスケルトンが現れた。


「そんな……!」


 ディーンさんは背後を振り向き、声を震わせた。

 せっかく乗り越えた危機が再び襲ってくる。ゼルマという存在のおかげで、状況はさっきよりも悪化していた。


「昔々、まだあなた達が産まれてもいない頃。この館の地下で行われていた虫唾の走る行為。ディーンさん、あなたならどうするのか……。ふふ、楽しみですわ」

「君は……何を言ってるんだ! 僕に何をさせようとしている!?」

「そう先走らないでください。あの化け物も、わたくしの支配下にありますの。わたくしが指示しない限り、あなたを襲う事はありませんわ」

「……っ!」


 ディーンさんは動けない。

 ゼルマを叩こうにも、俺が立ち塞がっていて行動を起こせないんだろう。

 アルカナドールという存在が、逆に足を引っ張っている。守るどころか足手まといにしかならないだなんて、俺は……。


「南の国コウェンティ、ここがまだ貴族制だった頃の話ですわ。元々この館はとある貴族の所有物でしたの。そして、貴族達によって地下では胸糞悪い遊びが行われていましたわ」


 ゼルマは唇で舌を舐め取り、淫靡な雰囲気を醸し出した。

 遊びとは一体何なのか、ここが闘技場的な場所だから、野試合でもやっていたのだろうか。勝敗に金を賭け、それを貴族たちは娯楽として行っていたのだろうか。そうだとしたら、最低な連中だ。胸糞悪くなるのも頷ける。


「イオさんがいたあの場所、そこには昔、凶悪なモンスターが飼われていました。通称、死の間。そこに入れられた者は、生きては出られない」


 思い出す。あの部屋に転がっていた無数の遺体。あれがその時のモノなら、白骨化している事にも合点がいく。


「なるほど。ここで戦わせて、負けた者がその死の間に入れられる、といったところか」

「ふふ、察しがいいのですね。ですが、その回答では百点満点じゃありませんわ。このコロシアムで戦わせ、負けたのもは死の間へ……というのは正解です。しかし、それだけでは趣味の悪い闘技的試合なだけ。本当に胸糞悪いのは、今のあなた達のような状況だからですわ」

「どういうことだ……?」

「仲間同士、家族同士、恋人同士……。様々な絆を引き裂くように試合は行われましたわ。勝った方は財と生きる権利を。負けた者には惨たらしい死を。生きるためには、親しい者を傷つけなければならない。ディーンさん、あなたにそれが出来ますか?」

「僕がイオちゃんを……。そうしないと後ろのスケルトンが僕に襲いかかってくる、ということか」


 ディーンさんの表情に陰りが見えた。

 あのスケルトンは正直言ってかなり強い。ディーンさんでも歯が立つかどうか分からない。比べ今の俺は動けない。故に俺を倒す方がどう考えても利口だ。生きるためには、スケルトンを無視し、俺をぶっ飛ばせばいい。


「ディーンさん、あなたに与えられた選択肢は二つですわ。動けないイオさんをその剣で斬り裂くか、スケルトンを倒すか。さあ、どうなさいます?」


 不敵に笑い、ゼルマは両手を広げた。

 この人は、他人の絶望がそんなに愉快なのか。苦しんでいる姿が、そんなに面白いのか。

 悔しい。悔しいのに、俺は何も出来ない。

 ならせめて、ディーンさんだけでも助かって欲しい。俺を斬るだけでディーンさんが助かるのなら、それが一番いい。


「仕方ない、か。でも、相手がイオちゃんじゃないなら……」


 小声でディーンさんは呟いた。


「イオちゃんを傷つけるくらいなら、僕は」


 ディーンさん……?

 何をしようとしているんだ……?


「……ごめんね」


 俺に向かってそう言うと、ディーンさんは剣を投げ捨てた。

 何をするつもりなのか。ディーンさんは右腕を左手で掴み、目を閉じた。

 そして、大きく深呼吸する。瞑想でもするかのような態勢で、数秒が経過した。


「ああああああああああぁぁぁッ!!」


 雄叫びと共に、ディーンさんは変貌・・した。


「な……!?」


 ディーンさんの右腕が見る見るうちに獣のようになっていく。いや、右腕だけじゃない。身体の半分程が獰猛な獣のような身体に変化していた。

 もはや原型を留めていない右腕は、三倍以上に膨れ上がり、爪は1m程に伸びている。纏っていた服は半分破れ、毛深い獣のような身体が露わになっている。


「ディーンさん、あなた一体何者ですの……?」

「僕は……ただの化け物だよ」


 そういうディーンさんの言葉は、どこか哀しいものに聞こえた。

 化け物。確かにあの姿を見れば誰だって最初にそう思うだろう。身体の半分が獣のように変化する人間など、もはや人間とは言いようがない。


「さあ、化け物同士戦おうじゃないか!」


 言って、ディーンさんはその獣の手でスケルトンに襲いかかった。

 長く伸びた爪が特徴的なその腕は、ディーンさんの身体には不釣り合いではあったが、だからといってバランスを崩したりはしなかった。

 巧みに腕を利用し、ディーンさんはスケルトンに猛攻をかけた。爪も合わせれば全長4m以上はあるその腕の長いリーチを活かし、距離を取ったまま戦っている。


「化け物、ですか……」


 俺の近くで、ゼルマがぽつりと声を漏らした。

 その言葉にどんな意味が込められているのか分からないが、ゼルマの顔は少しだけ寂しそうにしていた。


「お前も苦しいだろう! 化け物にされて、いいように扱われて、それで幸せなはずない!」

「グォォォォォォ!!」

「だから僕が終わらせる! 同じ化け物である僕が!」


 身体能力も獣並に上がっているのか、ディーンさんの動きは異常に素早い。その速さにスケルトンも翻弄されている。エウィンさんのような獣人とは違う、独特な動きだ。右腕に獣のパワーが集中しているからか、軸が右腕になっている。

 最早一方的な戦いだった。パワーもスピードもディーンさんの方が圧倒的だ。見ただけですぐ分かる。決着も、そう長くはかからないだろう。


「これで、終わりだ!」


 ディーンさんの爪が、スケルトンの腹部のコアに突き刺さった。

 一瞬時が止まったかのように制止する両者。だがしかし、すぐに時間は動き出した。


「さよなら……」


 ディーンさんが爪を引き抜くと、スケルトンは徐々に崩れ落ちていった。

 元々骨の塊であったソレは、まとまりを失い、ただの断片へと姿を変えていく。

 ディーンさんはすぐに飛び退き、スケルトンが倒れていくのを傍観している。何か思うところでもあるのか、ディーンさんは黙ってその様を見つめていた。


「――……うッ!」


 しばらくすると、ディーンさんがその場に倒れた。

 力の副作用なのか、かなり消耗しているようだ。

 ディーンさんに駆け寄りたい。でも、それすらも出来ない。


「スケルトンを倒されたのは驚きましたが、どうやらそこまでのようですわね」

「イオちゃんには……手を出すな……」

「そんな姿になってまでイオさんの心配をするのですね。ある意味強情ですわ。ですけど、イオさんはもうわたくしのモノ。殺しはしませんが、少々苦しい目にはあってもらいますわ」

「やめろ……! やめてくれ……!」


 ズキっと胸にナイフが刺さったかのような痛みが走った。

 どうして俺の事ばかり気にかけるんだ。そこまでして俺の事ばかり……!


「――そこまでよ」


 凛とした声が、この場を制圧した。

 ゼルマが、何事かと振り向いたその瞬間にはもう、彼女は魔術を放っていた。

 声の主はウルリカさんだった。何故だか筋肉さんも一緒にいる。


「ぐ……!?」


 ゼルマの手の甲に、何かが刺さっていた。

 あれは多分、電光属性の魔術だろう。雷の矢。電光はウルリカさんのお気に入りの属性でもある。


「あ……!」


 ゼルマがアルカナカードを手放したおかげで、俺の身体に自由が戻ってきた。

 すぐさま俺はディーンさんの元へと駆け寄った。動けないでいるディーンさんを放っておけない。


「カードよりも先にそちらへ行くのですか……。イオさん、甘すぎましてよ!」


 ゼルマが再び地に落ちたアルカナカードを手に取ろうとした。

 だが、それは叶わなかった。なぜなら、アルカナカードが一瞬で消えてしまったのだ。


「そんな……!」

「甘いのはアンタよ、ゼルマ。アタシが動かなかったからって油断しすぎじゃない? おかげで座標特定が終了したわ」

「く……っ」


 混沌空間カオスゾーンだ。ウルリカさんの空間魔法。カードの下にゲートを開き、あたかも消えてしまったかのように見せかけたんだ。


「返してもらうわよ」


 まるでマジシャンがトランプのカードを束から引き抜くかのように、ウルリカさんはゲートからアルカナカードを出現させた。


「空間魔法……。 まさか本当にシーグルさん以外にも扱える方がいただなんて驚きですわ」

「シーグルですって? アンタ、まさかアイツの知り合い?」

「ふふ……。ええ、そうですわ。知り合い、というよりかは同胞、といった方が正しいのかもしれませんけど。あなたこそ、シーグルさんの知り合いでして?」

「はん! あんなの知り合いでもなんでもないわ! あの鬼畜変態野郎なんかと知り合いだなんて虫唾が走る!」

「あらあらうふふ……。シーグルさんったら、だいぶ嫌われていますの、ね!」


 瞬間、ウルリカさんの足元に謎の魔法陣が出現した。

 なんだ、あれは。通常の魔法陣よりも禍々しい。なんというか、気味が悪い。


「髭!」

「承知!」


 筋肉さんがその魔法陣に向かって拳を突きだした。すると、一瞬でその魔法陣が掻き消えた。


「な、まさか……抗術アンチ・スペル!? そんな、ゴルゴンの呪いを掻き消す抗術アンチ・スペルだなんて、そんなの聞いた事がありませんわ……!」

「拙僧の筋肉を舐めてはいかん。どんな呪術であっても、拙僧が打ち砕いてみせようぞ!」

「その格好……まさか、教団の者がいるとは……。とんだ食わせ者がいたものですわね」

「その割には余裕そうね。アタシ達に勝つ算段でもあるのかしら」

「勝つ必要などありませんわ。こちらも負傷してしまいましたし、なにより腕の立つ神職者と魔法使い相手に真っ向勝負を仕掛ける程わたくしもおろかではありません」

「逃げられるとでも?」


 威嚇するかのように、ウルリカさんは言った。

 緊張が場を支配する。俺も、どうすればいいのか考えなければ。

 今度こそウルリカさんを守る。それが俺に与えられた使命。

 だけど、ボロボロのディーンさんも放ってはおけない。

 ウルリカさんは強い。それに筋肉さんもついている。だけどディーンさんは傷付いている上に1人だ。なら、俺はこちらにいて問題ないはず。

 物事には優先順位というものがある。今この場で一番守らなければならないのは、スケルトンとの戦いで傷付いたディーンさんだ。

 

「もう館に用はありませんし、ここでの研究も一応は完了しました。それに、収穫も少しはありましたから、もうこの館にいる必要もありません」

「アタシにあれだけの事しといてタダで返すと思う? キッチリ礼はさせてもらうわよ!」


 混沌空間カオスゾーンのゲートが大量に展開される。ゼルマの四方をゲートが埋め尽くすまで、数秒とかからなかった。


「逃げ場なしね。さあ、この状況をどう突破するのかしら?」

「ふふ、ウルリカさんは本当にSな方ですのね。わたくしはMではありませんけど、あなたの前ではそれでもいい気がしてしまいますわ」

「戯言を言ってんじゃないわよ。アンタがMって言うなら、この攻撃全て受けても構わないとみなすわよ。ま、そうすると確実に死んじゃうけどね」

「あらあら、わたくしが死ねるだなんてそんなに幸せなことはありませんわ。試しに一度やってみてくれませんこと?」

「はっ! お望みとあらば遠慮なくいくわよ!」


 ウルリカさんが手を振ると、電光属性の魔術が一斉にゲートから放たれた。矢のようになっている電撃が、縦横無尽にゼルマの身体を突き刺す。お腹や腕、足、首、顔と所構わず一切の容赦なく雷撃はゼルマを襲った。

 数秒の静寂が訪れる。ゼルマは地に倒れ伏し、息絶えた……かに思えた。


「ふ、ふふふふふ……」

「な!?」


 明らかに即死級の攻撃だったにも関わらず、ゼルマは生きていた。

 その手で電光属性で出来た矢を身体から抜いていく。その度に血が溢れ出ていたがお構いなしでゼルマは全ての矢を身体から抜いていった。

 傷口も、すぐさま再生しているようだ。血もすぐに止まっている。


「久々の激痛で少しばかり気絶してしまいましたわ。それにしても的確に急所ばかり狙うだなんて、やっぱりウルリカさんは生粋のドSですのね。あまりに良すぎて、イッてしまうところでしたわ」


 ニヤニヤと不気味に微笑むゼルマ。

 あれだけの攻撃を受けて、気絶で済むだなんて普通ではない。まさか、不死身だとでもいうのだろうか。そんなバカげたことがあるのか。


「アンタ何者よ……」


 ウルリカさんも困惑を隠せないでいるようだ。

 不死身の女。一体、ゼルマは何者なのか。こんな館で1人研究とやらをしている時点で普通ではないが、不死身の体はそれとは比べ物にならない程異常だ。


「わたくしはゼルマ・リュトガース。それ以上でも以下でもありませんわ」

「教える気はない、というわけね。まあいいわ。そういった謎もいつかアタシが解き明かすから。賢者になるということは、常に探求心旺盛じゃなきゃダメだからね。答えを聞くだけじゃ物足りない。自分で見つけ出してナンボでしょ」


 ウルリカさんがそう言うと、ゼルマはキョトンとした表情になった。


「本当に可笑しな方。ディーンさんといいイオさんといいそこのゴルゴンの呪いを打ち破った僧侶さんといい……。わたくしの興味を惹く方ばかりでしたわ」


 言って、ゼルマは何やら唱え始めた。


「ちょっと待って。さっきの攻撃で礼はしたしアンタに恨みもない……ってわけでもないけど、最後に訊かせて」

「ふふ、いいですわよウルリカさん」

「あの村に呪いをばらまいていたのはアンタなの?」

「村にわたくしが呪いを? さあ、わたくしには何の事だか……」


 本当に分からないといった顔でゼルマは返した。


「アンタじゃないってことは一体誰があの村に呪いを振りまいたってのよ」

「さあ。ふふ、もしかしたら、この館にはまだまだ隠された秘密があるのかもしれませんわね。わたくしも文献を読んで過去の事を把握しただけですので、詳しくは知りませんの」

「この館の過去ですって?」


 ウルリカさんは、ゼルマがこの場所の話をした時この場にいなかった。あの胸糞悪い話をまだ知らないのだ。


「この館に眠る怨念が、その村を襲ったのかもしれませんわね。ふふ、どちらにせよそちらの言う事柄に対してわたくしは無関係ですわ」


 徐々にゼルマの姿が薄れていく。まるで闇に溶けていくかのようだ。


「本当の魔女がいるとしたら、それもまた一興ですわ。ウルリカ・リーズメイデンさん。この世界にはまだまだ謎が多く隠されています。賢者になるというのなら、そういった不思議もまた探求の一欠片になり得る事でしょう」

「言われなくとも分かってるわよ」

「ふふ、イオさんを手に入れられなかったのは残念ですけど、それは次の期会にいたしますわ。――それでは、ごきげんよう。またあなた方とお会いできるのを楽しみにしていますわ――」


 ゼルマの声、最後の方はやや途切れて聞こえてきた。

 次の瞬間には、完全にゼルマの姿は消え去っていた。


「……一体、この館には何があるっていうのよ……」


 不気味な感触だけが、この館の地下に渦巻いていた。

 

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