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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
50/110

服従の力




 逃げるが勝ちという言葉がある。

 だがしかし、逃げれない場合は勝てない、という意味がこの言葉には込められているのではないだろうかと、そんなどうでもいい事を俺は考えていた。


「ああああもう!」


 大きなスケルトン。その巨体が俺を踏みつぶそうと迫って来る。

 先程から地下の端から端まで何度も往復している。敵は巨大で、動きが鈍い。さらに地下は横幅が狭く、敵の大きな身体は満足に動けていなかった。それに助けられ、ずっと逃げ続けているのだ。もちろん、逃げているだけじゃ勝てない。完全に逃げ切れるのなら話は別だが、ここはある意味檻の中のような場所だ。

 こうなったら、一か八か突撃するか……?

 いやまて。もし突っ込んで失敗したら、俺は粉々に踏みつぶされてしまうんじゃないか? そう思うとやっぱり一歩が踏み出せない。


「ここから逃げれれば……っ」


 仮に倒しても、また復活する恐れがある。この地下から脱出しなければ、解決には程遠い。


「ええい! でもこのまま逃げ回ってても埒が明かないじゃないか!」


 振り向き、スケルトンに対峙する。

 得物は短剣2本。敵の懐に潜り込まなければダメージを与える事は出来ないだろう。なら、反撃覚悟で潜り込むしかない。


「でりゃあああぁぁ!!」


 一気に距離を詰め、お腹のトコにある固まり目掛けて短剣を突き刺した。

 ぶにゅりと嫌な感触が短剣を通じて伝わってくる。肉の塊だけあって、柔らかくはあるようだ。ただ、柔らかいだけで特にそこが弱点というわけではなさそうだ。現にスケルトンは微動だにしていない。


「離脱!」


 反撃を貰う前に俺はスケルトンから距離を取った。

 にしても、これでは攻撃が一向に通らない。どうやってダメージを与えればいいのか。この敵をどう攻略していいのか。それを考える余裕すら俺にはない。

 とにかく逃げるしかないのだ。正直かなりキツイが、走るのを諦めたら確実に潰される。諦めれば、そこで俺人生は終わってしまう。


「はっ……はっ……はっ……!」


 もうこの地下を何往復しただろうか。口の中は渇き、足も棒のようになっていた。限界なんてものはとっくに超えている。それでも走って走って走り続けなければ、命がない。逃げなければ、殺される。

 この世界に来てから、こんなことばかりだ。死線死線死線の繰り返し。もっと穏やかな旅をイメージしていたけど、モンスターという存在がこの世界にいる限り安寧は訪れないのだろう。分かってはいるけれど、どうしても俺ばっかりという気持ちになってしまう。

 でも、俺がもっと強ければこんなことにもならなかった。それだけは真実だ。強ければこんなモンスター、一発で倒せる。ウルリカさんやカイゼルさんとかなら、きっと余裕で切り抜けれる。命からがら逃げ回るような事になるのは、俺が弱いからだ。弱いから、ウルリカさんにもおいていかれるんだ。


「あっ!」


 疲れからか、足がもつれてしまった。

 崩れた態勢を整えられず、俺は地面にずっこけてしまう。

 痛い。痛い。痛い。どうして俺がこんな目に合わないといけないんだ。

 急に悲しくなってきた。逃げたいのに、それすら許されない。

 俺が何をしたっていうんだ。もう嫌だ。ウルリカさんの元に帰りたい。


「……ッ」


 振り返れば、スケルトンがその巨体で俺を踏みつぶそうとしていた。きっと、コイツには俺を殺す事に迷いなんてないんだろう。そこにいるから問答無用で踏みつぶす。というより、脳がないから何も考えていないに違いない。

 そんなやつに俺は負けるのか。何も考えれないようなモンスターにさえ勝てないのか。俺が弱いのがいけないのか。俺が……俺が弱いから……!


「う……ッ」


 もはやここまで。そう俺が諦めかけた時、異変が起こった。


「え……?」


 背後から人影が前方に躍り出た。

 唐突の事過ぎて、一瞬何が起きたのか理解できなかったが、すぐに何者かが助けに来てくれたのだと悟った。

 前方の人影は、スケルトンの踏みつけを剣で受け止めている。しかし一体誰なんだろう。後ろ姿だけしか見えないのと薄暗いおかげで、その人が何者なのかが分からない。


「にゃぁ~」

「って、ミィ!?」


 倒れていた俺の元に、ミィがやってきた。

 ミィは宿屋で寝ていたはずだ。ということは、この人はミィが連れてきてくれたのだろうか。でも、どうして……?


「後ろに抜け穴がある! イオちゃんはそこに!」


 言われて、俺は急ぎ立ちあがった。

 この声。そして俺の名の呼び方。間違いない、ディーンさんだ。ディーンさんが助けに来てくれた。


「ミィ!」

「にゃ!」


 走り出す前に、ミィを肩に乗せる。

 すぐさま反転、猛ダッシュで俺は駆け出した。

 後ろを気にしながら、薄暗い地下を走る。今度はずっこけないように足元も確認しながら、俺は駆け続けた。

 端まで辿り着くと、そこには大きな穴が開けられていた。さっきまではこんなもの存在しなかったから、きっとディーンさんが外から開けてくれたのだろう。


「ディーンさん!」


 どうにかこうにかスケルトンを捌きながら、ディーンさんがこちらへやって来る。何か援護出来ればいいのだが、生憎俺にはその術がない。魔術も使えなければ投擲するものもないのだ。出口でディーンさんが無事こちらまで辿り着くのを見守るしかない。

 俺は歯ぎしりした。何も力を持たない自分を呪った。

 でも、今は自己嫌悪している場合じゃない。ディーンさんが無事に戻って来るまで気を抜くわけにはいかないのだ。


「あと少し!」


 プロ野球選手ばりのヘッドスライディングをしながら、ディーンさんはスケルトンのいる場所から俺のいる安全な所に飛び込んできた。狭い出口だからか、巨体のスケルトンはこちら側に入ってこれず壁に突っかかっている。今まで散々俺を苦しめてきたのに、壁から出ようともがくスケルトンの姿を見るとちょっと可哀想になってくる。

 すぐさま重い扉を閉め、スケルトンが無理に入ってこないようした。奥でゴトゴト嫌な音がしていたが、直に大人しくなった。


「は、はぁ~~……」


 盛大に息を吐き出すディーンさん。

 俺はというと、恥ずかしながらおしっこを漏らしそうだった。お漏らしなんて女の子にあるまじき行為だ。我慢できてよかった。


「ホント、助かりました……」

「うん。よかったよ、イオちゃんが無事で」

「間一髪でした。――それにしても、ディーンさんはヒーロー気質だったんですね」

「……へ? どういうことだい?」


 ディーンさんは何の事だか分からないといった調子で返してくる。あれだけナイスタイミングで助けに来たのだ。ヒーローは遅れてやって来るを地で行く人がいようとは、と思わずにはいられない。


「私があのデカブツにやられる一瞬前に駆けつけたじゃないですか」

「そ、それはたまたまだよ。それに、居場所だってミィがいてくれたから分かったんだ。そうそう上手くいかないって」

「う……。で、ですよね……」


 ちょっとだけ期待した俺がバカだった。ディーンさんが俺を守ってくれるヒーローなんじゃないかとか、そんな甘い事を考えていた。そんなわけないのに少しカッコよく登場したからって思考が飛躍しすぎたみたいだ。うん。そうに違いない。別にディーンさんが特別ってわけじゃない。天に誓って。


「そういえばウルリカさんがいないみたいだけど……」

「う……」


 痛いところを突かれてしまった。

 素直に置いていかれましたと言うか。それとも誤魔化すか。

 でも、誤魔化したところですぐばれそうだな。正直に話すか。


「ええっと、かくかくしかじかでですね……」


 かいつまんで経緯をディーンさんに説明した。あの村の事や筋肉さんの事、ウルリカさんに置いていかれた事も全て話した。ウルリカさんの目的とか詳しいところまでは分からないので、そこら辺は省いた。知らない事は教えられないからな。


「なるほど。なら、ウルリカさんもこの館にいるんだね」

「はい」

「その筋肉さんというのも気になるけど……。とにかく上の階に戻ろう」

「分かりました」


 ミィを肩に乗せ、俺はディーンさんと歩きだした。

 ここも場所的には地下なんだろうけど、さっきの死体だらけの部屋よりもかなり広々としている。奥に見える階段からディーンさんは下りてきたのだろう。他に扉のようなものもないし、間違いない。


「この空間、なんだか不思議な作りをしてますね」

「イオちゃんもそう思うかい? 僕もここに来た時、変だなって思ったんだ。ほら、部屋の真ん中に円形のステージみたいなものがあるよね? だから、なんとなく闘技場的なモノを想像したんだけど……」

「あ、ホントだ」


 コロシアム的なリングが中央に設けられている。

 天井も高く、幅もかなり広い。ディーンさんの言う闘技場というイメージは間違っていないのかもしれない。


「でも、そんなものが地下にあるなんておかしな話だよね」

「確かに、どうしてこんな空間を館の地下に作ったんでしょうか」


 死体の部屋といい、あまりいい予感はしないが気にはなる。

 こちらからしか扉を開けれないというのも、なんだか嫌な感じだ。


「……ふふ」


 唐突に、声が聞こえてきた。

 前方の階段から誰かが下りてきたようだ。声音からウルリカさんや筋肉さんではない事は明らかで、咄嗟に俺は身構えた。

 徐々に露わになるシルエット。女は漆黒のローブに身を包んでいる。フードのせいで顔はよく確認できないが、体格と声音から女である事は間違いない。


「誰だ!」


 ディーンさんが声を上げる。それに応えるかのようにローブの女が右手でフードを払った。

 少女だ。まだ幼い。でも、そんな少女の顔に似つかない特殊な眼を彼女はしていた。見た事もない謎の紋章が眼球に描かれているのだ。


「お初にお目にかかりますわ。わたくし、ゼルマ・リュトガースといいますの。差し支えなければお名前を教えて頂いてもよろしくて?」


 ゼルマという少女は明らかにディーンさんに対して尋ねた。

 警戒しながら、ディーンさんは名前を口にする。


「ディーン・ハワードだ」

「ふふ、ディーンさんというのですね。良いお名前ですわ」

「それはどうも」


 そう言うディーンさんは、未だに警戒を解いてはいない。

 このゼルマという少女、一体何者なのか。まさか、この人が魔女の正体なのだろうか。だいぶイメージしていた像と違うが、この人が魔女である可能性は高い。ディーンさんも、彼女が何者か分からないから警戒しているのだろう。


「そちらの可愛らしい女の子のお名前はもう存じ上げておりますわ。そう、確かイオさん、でしたわね」

「な、なんで……」


 どうして俺の名前を知っているんだ。

 ドクンドクンと心臓が早鐘を打っている。この人はヤバい。口調こそ丁寧だが、底知れぬ恐怖を感じる。

 ゼルマの艶美な笑みに、俺はどうしてか目が離せない。吸い込まれてしまいそうだ。金縛りにあったかのように、身体が動かない。


「ふふふ、こんなに可愛らしい器が愚者のドールだなんて、ついていますわ」

「え……?」


 何と言った? 今、ゼルマは俺の事を愚者のドールと言ったのか?


「№0、愚者の化身、枠組みから外れた稀有なアルカナドール。一体どういう魂の造りになっているのか……。ああ、堪りませんわ。早くぐちゃぐちゃになるまで調べ尽くしたくて涎がでてしまいそう」


 悶えるかのような仕草でゼルマは言った。その様子を見て、俺は寒気がした。

 それにしてもだ。ゼルマは俺の正体を知っている。でも、何故だ? 俺の事を知っているのはウルリカさんとエウィンさんだけのはずだ。この2人が喋らない限り、俺が愚者のドールである事は分からないはずなのに。


「イオちゃんがアルカナドール……?」

「……っ」


 ディーンさんにまで知られてしまった。

 こんな形でばれるなんて。ディーンさん、俺の事どう思うだろうか。人間じゃない俺を受け入れてくれるだろうか。


「適当な事言わないでくれ。イオちゃんは人間だ。アルカナドールなんかじゃない」


 まるで信じていない様子のディーンさん。

 でも、俺はそのディーンさんの言葉が胸に刺さった。ディーンさんの言い方から、アルカナドールという存在が人間とは別物であると再認識させられた。結局は人形に過ぎない。魂を入れただけの器に過ぎない。それを人間と呼ぶにはおこがましい。そういう風に思われている気がして、胸が苦しくなる。

 ディーンさんは優しい。俺にも優しくしてくれる、スーパーお人好しマンだ。だけど、その優しさは人に向けてのものであって、人形に対してじゃない。


「あらあらうふふ……。可哀想な事ですわね。イオさん、今どんなお気持ですの?」

「……っ」

「仲間に、友に、知り合いに……、あなたは否定されたのです。さぞかし悲しかった事でしょう。悔しかった事でしょう。そういった負の感情がわたくしにとって、たまらなく愛おしい。――ふふ、あなたはからは、とても香ばしい匂いがしますわ。イオさん、わたくしの元にきませんこと? わたくしならあなたを理解してあげられますわ。深くふか~く、あなたを愛してさしあげますわ」

「わ、私は……あなたの元へは行きません」


 ウルリカさんのドールなんだ。こんなよく分からない人の元へなんて行くはずない。


「そうですのね……それは残念ですわ。なら仕方がありません。せっかく手に入れた事ですし、これを使わせてもらいますわ」


 言って、ゼルマはローブに手を突っ込み、何かを取り出した。

 あれは……カードだ。見覚えがある。というか、あり過ぎる。


「アルカナカード……!?」


 俺は絶句した。

 あのカードはウルリカさんが肌身離さず持っていたはずだ。今回だって、魔女の館に行く時に持って行っていたに違いない。だのに、どうしてアルカナカードをゼルマが持っているんだ。

 嫌な予感がした。とてつもなく、身体が震えあがるほど、嫌な予感がした。これからゼルマが言うであろう真実を、最悪の展開を、俺はただ受け入れるしかない。

 ――もしかしたら、ウルリカさんが……。


「そんなもの、どうせ偽物だろう!」


 ディーンさんが叫ぶ。

 確かに、まだカードの表面をゼルマは俺達に見せていない。偽物の可能性だってある。俺はまだ自由で、服従させられていない。でも、あのカードが愚者のアルカナカードであると、俺は思えてならない。


「イオちゃん、気にしたらダメだよ。僕がついてるから、大丈夫」

「……ディーン、さん」


 顔を上げる事が出来ない。ディーンさんの優しい微笑みを見る事が俺には出来ない。

 違う。違うんだ。俺はアルカナドールで、人間じゃない。騙してたわけじゃないけど、言い出せなかった。俺は恐れてたんだ。アルカナドールという存在を、異質な存在を、ディーンさんが受け入れてくれるのかどうか。

 もう逃げ出したい。怖い。怖い。怖い……っ。


「……ここまでくると滑稽ですわね。きっとわたくしの口から言ってしまったから信じていないのでしょうけど、このままではイオさんがあまりに可哀想ですわ」

「そうやって僕らを揺さぶって何がしたいんだ!」

「そこまで言うのなら仕方がありませんわ。お見せしましょう。イオさんの真実を」

「……!?」


 身体が勝手に動く。右手が、左手が、腰にある短剣へと伸びる。

 危険を察知したのか、ミィが俺から離れた。


「ッ!」


 勢いよく武器を抜き放ち、隣に立っているディーンさん目掛けて一閃する。自分の意思で制御できない。俺はの身体は俺の意思に関係なくディーンさんの右腕を切り裂いていた。


「な……! イオちゃん!?」


 驚愕に目を見開くディーンさん。幸い傷は浅い。でも、俺はディーンさんを傷つけてしまった。操られていたからとはいえ、胸が痛む。


「く!」


 すぐさま俺から距離を取り、ディーンさんは剣を抜いた。


「本物のアルカナカード。そして、イオさんは正真正銘本物のアルカナドールですわ」

「そんな……っ」

「さあ、イオさん。戦いなさい。あなたの全力を持って、ディーンさんを倒すのです」


 カードの力で、俺は強制的にディーンさんを襲い始めた。

 口も封じられているのか、声が出ない。ディーンさんに何も伝えられない。

 ここまでの拘束力があるということは、ゼルマもウルリカさん同様かなりの力を持っている事になる。嫌な予感が、現実になろうとしている。いや、もうなっている。


「ウルリカさんから頂いたこのカード。そのカードに宿るドールを服従させる力。やはりいいものですわね。自分の意のままに魂を操れるというのは。死体とは大きな違いですわ」

「……!」


 やはり、ウルリカさんはゼルマに敗れていた。

 考えたくはなかった。ウルリカさんがこんなやつに負けるだなんて。でも、本物の愚者のカードを奪われている時点で、懸念は確信に変わっていた。


「今頃あなたのマスターは息絶えているでしょうね。わたくしの呪円陣カースラウンドによって呪われてしまいましたから、どんなに強かろうと長くは持ちませんわ」

「……ッ」


 今すぐにでもウルリカさんを助けに行きたい。でも、俺はゼルマに服従させられて、自身の意思では行動できない。

 どうにか反抗しようとするが、カードの力には抗えない。言うなれば、俺の身体を第三者の視点で見ているかのような感じだ。ゲームのノンプレイヤーキャラクターを画面越しに見ているのに似ている。自分の意思に関係なく、勝手に人が動く。まるで操り人形のようだ。


「く……っ、イオちゃん! 止めるんだ!」

「止めません。私を否定したあなたを、絶対に許さない」


 心にもない事が、口から勝手に紡ぎ出る。

 止めようとしても、止まらない。俺は完全にゼルマに操られていた。


「ふふ、愉快ですわね。アルカナカードがあれば、イオさんはわたくしのもの。誰にも渡しませんわ」

「イオちゃんは誰のものでもない!」

「なら、止めてみせてくださいな。このカードさえわたくしから奪い取れば、イオさんは自由になれますわよ」

「そんなこと言ったって、イオちゃんを倒さないとあいつには……。クソ! どうすれば……!」


 ディーンさんは相手が俺だからか、防戦一方だ。

 俺はというと、手加減など全くせずにディーンさんを攻め立てている。俺が相手だから、反撃できないでいるんだろう。ディーンさんは優しいから、俺なんかでも傷つけられないんだ。


「お願いだ! イオちゃん、正気に戻って!」

「……」

「イオちゃん!」


 悲痛な叫びを上げるディーンさん。

 俺だって、止めれるものならとっくに止めている。

 でも、ダメなんだ。止まらないんだ。俺はアルカナドールだから、カードの力には逆らえない。


「ふふ、シーグルさんがドールに拘るのも少しは理解できましたわ。魂を服従させる力、なんだか病みつきになってしまいそう……っ」


 俺を操る拘束がいっそう強くなる。

 このままではディーンさんをこの手で殺してしまいかねない。

 俺を救ってくれた恩人なのに、まだ何も恩返ししていないのに。

 戦いたくない! 戦いたくない! 殺したくなんか……ないのに!


「あああぁぁッ!!」


 気付けば俺は、涙を流しながら剣を振るっていた。

 

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