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初めての相手はスライムだよね




「お、おおー……」


 鏡の中に映る自分の姿を見て、思わず声が出た。

 二十四年間生きてきて、こんなに可愛らしい服は着た事が無い。いやまあ、その二十四年間は男だったから当然と言えば当然だが。


「よく似合ってるわよ。さすがはアタシのイオね」

「ウルリカさん、ありがとうございます。こんな可愛らしい服、買ってもらっちゃって……」

「気にしなくていいわ。スカートと悩んだ末にショートパンツにしたんだけど、こっちでよかったかしら」

「はい。動きやすくていい感じです」


 男風に言うとオシャレな短パンってところだろうか。

 正直スカートは慣れないからこっちで助かった。これならパンチラを気にする必要もない。


「新しい下着も一通り買ってきたから、後で確認しましょうね」

「はい」


 下着、か。

 俺は幼女だからな。アダルティなものより可愛い系が映える事だろう。

 といってもさすがにクマさんパンツは嫌だけどな。それは幼すぎる。

 ……それにしても、さっきウルリカさんが言ってた渡したい物が服だったとはなぁ。確かに昨日服を買ってくれるとか言ってたよな。

 さすがに転生したてのあのワンピースでは薄着過ぎて人がいる外は出歩けない。旅をするならなおさらだ。


「それじゃあイオ、地下に行きましょう」

「地下、ですか?」


 地下というと、俺がこの世界にやって来た場所だ。


「色々とやりたいことがあってね。ついて来て」

「あ、はい」


 ウルリカさんについて行く形で俺も地下へと向かった。

 階段を下り、地下へ。

 相変わらず薄暗い。照明とよべる物がランプの灯りくらいだ。その灯りもゆらゆらと不気味に揺れている。


「アタシ達、旅をするわけだけどそのためにはまず慣れておかなければならないことがあるの」

「慣れておかなければならないこと、ですか」

「うん。昨夜話した通り、この世界にはモンスターと呼ばれる魔物がいるわ。そいつらから身を守るため、普通の人間は学院に通いその術を身につけるの。だけどイオは学院になんか通ってないからモンスターとどう戦っていいか分からないわよね」

「はい」


 モンスター。いわゆる魔物というやつだ。

 昨夜ベッドの中でウルリカさんが教えてくれた。この世界はやはりファンタジーな世界で、モンスターもいるのだとか。種類も様々、まだ未確認の種も多く存在している可能性があるらしい。

 どんなモンスターがこの世界にいるのかは分からないが、俺に倒せるのだろうか。スライムとかだったらいける気はする。なんて、スライムがこの世界に存在するかは分からないけどな。


「魔術はおいおい教えていくとして、まずは基本的な武器の特訓から始めましょう」


 言って、ウルリカさんは何やら目を閉じぶつぶつと呟き始めた。


「召喚!」


 半径一メートル程の魔法陣が宙に描かれる。赤や黄、様々な色が混じり合い独特な雰囲気をかもしだしていた。

 そこから何かが落ちてきた。


「これは……」


 剣に斧、槍に弓といったオーソドックスな武器が床に転がっている。特徴はどの武器も無く、俺の知識でも扱えそうだ。


「さあ、好きな武器を選んで」

「え、えーっとじゃあ……」


 パッと見簡単に使えそうなのはやっぱり剣だな。

 てことで剣にしよう。


「剣にします」

「オッケー。じゃあアタシから少し離れてね」

「は、はい」


 何をするつもりだろうと思いながらウルリカさんから離れる。すると再び魔法陣が宙に浮かびあがった。


「え――っ」


 その魔法陣から現れたのはぬめりとした物体だった。

 まさか、あれがスライムなのだろうか。というかスライムってモンスターとして実在してたのか。ドラ○エだけじゃなかったんだな。こっちのスライムの見た目は全然可愛らしくないけど。


「こいつはグリーンスライムっていうモンスターよ。基本的には大人しいんだけど、火とかで炙ると怒って身体にまとわりついてくるの。気をつけてね」

「気をつけてねって……私が戦うんですか!?」

「そうよ? ささ、グリーンスライムくらいぱぱっとやっちゃって」

「う、ううー……」


 恐る恐るスライムに近づく俺。

 そいつはぬめりぬめりと蠢いていた。正直気持ち悪い。剣で攻撃したらべっとりぬめぬめが付着しそうだ。


「て、ていっ」


 ぬちゃ。

 嫌な音を立てて剣がスライムに突き刺さった。


「ひ、ひぃぃぃー……ウルリカさんーっ」

「ビビりすぎよ。ほら、スライムの身体の中に丸い物体があるでしょ? そこが弱点よ」

「丸い物体……」


 一度剣を引き抜き、今度は丸い物体目掛けて振り下ろした。

 ぱきゃ、という独特な異音を立ててその丸い物体は二つに割れた。


「あ、スライムが……」


 さっきまでぬめっていたスライムが、蠢くのをやめた。

 数秒後、そのスライムは完全に動かなくなっていた。


「やれば出来るじゃない! さすがはアタシのイオだわ」

「え、えへへ……」


 人に褒められるのなんていつぶりだろう。嬉し過ぎてテンションが上がってしまう。


「じゃあ、次はコイツよ」

「ま、まだあるんですかーっ!?」

「まだまだ始まったばかりよ!」


 再び魔法陣が宙に描かれた。

 ぼとり、と落ちてきたのはさっきのグリーンスライムの比にならない程大きなスライムだった。まさしくキングスライムだ。メタルじゃないだけマシだが、それでもこのでかさは自分の身体の小ささと相まって怖い。


「で、でかいですよーっ!」

「ダイジョブダイジョブ! 危なくなったらアタシが助けるから」

「そ、それなら――っ」


 剣を構え、キングスライムと対峙する。

 ぬめり、ぬめりと敵は徐々に距離を詰めてくる。まるで捕食者のそれだ。

 俺も、震える手をどうにかこうにか抑えながら敵の弱点を探す。

 丸い物体。コイツもスライムならば、コアとでも呼ぼうそれがどこかにあるはずだ。

 どこに、どこにある……?


「――あった!」


 見つけた。だけどそれは身体の奥深くにあり、到底剣では届かない。

 ならば槍を、と思い武器が落ちている場所に行こうとした瞬間。キングスライムが分裂し始めた。


「え、ええ!?」


 それぞれ勢いよく飛び掛かって来る。剣で払いのけても量が多すぎて対処しきれない。


「ちょ――!? な、なに――!?」


 まとわりつくようにスライムが俺の身体にのしかかってきた。

 次々と分裂したスライム達が一体ずつ俺の身体に付着していく。

 最初に右手の剣を的確に狙われた。

 次は手足。恐らく動きを止めにかかったのだろう。

 そして後はもう身体全体にスライムがまとわりついてきた。


「うぅぅ――ッ!?」


 口の中に冷たいものが入ってくる。

 吐き出そうとしても手が使えない今、どうすることも出来ない。

 幸い、鼻は塞がれていないので呼吸が出来なくなるということはないが、それでも苦しいことに変わりはない。


「へぅぅぅ!?」


 何か手立てはないのか? この状況を突破できる方法は……ッ?


「――あった!」


 ある。スライムのコアだ。身体にまとわりついているのはコアを含んだスライムも例外じゃなかった。

 あれさえ破壊出来ればこのスライム達も活動を停止するはず。

 でも、壊そうにも手足の自由がきかない。剣も手放してしまったし、自力でコアを破壊するのは難しそうだ。

 何とか手が届けば握りつぶせるかもしれない。さっき剣で斬った時はまったく硬くなかったから、きっと素手でも割れるはずだ。

 手が、届きさえすれば――!


「と、とど……けぇ――!」


 渾身の力を込め右手をコアに伸ばす。

 指先が触れた。あともうちょっとだ。


「ぐ……ぬぬ……っ」


 コアさえ、コアさえ破壊出来れば俺は解放されるんだ。

 スライムなんかに屈しているようでは、この先が思いやられる。なんとか倒せなければ、俺は最弱のドールになってしまう。

 せっかくアルカナドールとして生まれ変わったんだ。こんなモンスターに負けてられるか!


「――ッ!!」


 届いた。

 渾身の力を込めて、コアを握りつぶす。

 ぱきゃ、という音をたて、コアは粉々になった。やはりあまり硬くはなかったようだ。元はスライムだし、硬度があるはずもないか。


「けほっ――けほっ」


 ようやくスライムが口の中から出ていってくれた。

 身体にまとわりついていたスライムも、粘着力を失いぼとぼとと落っこちていく。

 それにしても、幼女の小さな手でも覆える大きさで助かった。もっとでかい物だったら、握りつぶせていなかったかもしれない。


「……ぁ」


 急に力が抜けて、俺は腰を抜かしてしまった。 

 倒せて本当に、よかった……。


「う、うう……」


 気付けば涙が溢れていた。

 気が抜けて安心してしまったからだろう。

 生前の時よりも涙腺が緩くなってしまったのか、わんわんと俺は泣いてしまっていた。


「おーよしよしよし」

「ウルリカさんーっ」


 近づいてきたウルリカさんに抱きつく。

 俺がビビりだということもあるかもしれないが、本当に怖かったんだ。だから泣いても仕方ないよね。うん。あんな化け物と対峙して恐れないやつなんて多分生前の世界にはいないはずだ。だから、俺がこうやって泣いてるのも変なことじゃない。多分。


「イオならやれるって信じてたわ」

「で、でもっ、ウルリカさんっ、危なくっ、なったらっ、助けてくれるって、言ってた、じゃ、ないですかぁーっ」

「ご、ごめんごめん……。つい……ね」

「ホントっ、に、怖かったっ、んですよっ?」

「あ、でもこのスライムはアタシが生成したものだから命の危険はなかったのよ?」

「そ、そういう問題っ、じゃ、ないですっ」


 命の危険はなかったかもしれないけど、貞操の危険があったんだよ! とはやっぱり大声で言えず。

 俺は泣きじゃくりながらウルリカさんに甘え続けるのだった。

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