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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
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筋肉僧侶




「――……はっ」


 意識が覚醒した俺は、まず部屋の中を見渡した。

 どれくらい眠っていたのだろうか。ウルリカさんがお風呂に入っている間だけ寝ていようと決めていたのに、だいぶ眠ってしまっていたような気がする。


「ウルリカさんはどこに……」


 部屋の中は薄暗い。お風呂場からシャワーの音も聞こえてこない。部屋の中にウルリカさんはいないようだった。

 ベッドのシーツも綺麗に整っているところを見るに、ウルリカさんは横になっていない事が分かる。


「……どこかに行ったのかな」


 でも、こんな夜遅くに行く必要があるのだろうか。そもそもシャワーを浴びてから外出するなんてウルリカさんらしくない。


「下にいるのかも」


 宿屋内にいるのなら、シャワーを浴びてから出ていったのも頷ける。

 という事で俺は下の階に行く事にした。もしかしたらウルリカさんがいるかもしれない。店主と何か話をしている可能性もある。


「っしょっと」


 ベッドから下りて、俺は部屋から出ようと扉に手をかけた。


「あれ」


 扉を開けようとしたら、何かに邪魔をされた。

 おかしい。扉の先は廊下になっていて何もないはずなのにどうしてつっかえてるんだ。


「って、ええ!?」


 隙間から外を見ると、大きな壁が立ちはだかっていた。

 いや、これは壁じゃない。人だ。よく見ると足とかあるし。でも、ちょっと背高すぎませんかね……。


「おっと、これは申し訳ない」


 大男は謝罪の言葉を述べると、一歩後ろに下がった。

 扉を開け、その人を見る。


「あなたは……?」


 僧服の大男。そして髭。初見の感想はそれだった。

 それにしてもすごいでかい。身長だけじゃなくて、筋肉もモリモリだ。どこのボディビルダーだって感じである。


「拙僧、放浪の僧侶であるからして。なに、怪しいものじゃない。そこはどうか安心して欲しい」

「は、はあ……」


 どう見ても怪しいんだが。

 というか、どうして俺の部屋の前に立っていたんだ。その時点でもう怪しさ満点だというのに、加えてこの身なり。怪しむなって言う方が無理だ。


「宿屋の店主にきくと、拙僧以外にも旅人がいるときいてな。少しばかり話を訊きに来たのだが……まさかこんな可愛らしい幼子だったとは。すばら……ではなく、少しお話よろしいかな?」

「はい、それはいいですけど……」


 なんか今変な事口走ろうとしてなかったか? なんか凄い悪寒を感じたんだけど。


「ここではなんだから下に行くとしよう。それで構わないだろうか?」

「はい」


 とりあえず言われるまま僧侶についていく。

 ロビーの談話室に行き、席に座った。

 対面すると再認識出来た。やはりこの男かなりでかい。縦も横も俺の二倍以上ある気がする。見た感じ身長なんか軽く2メートル超えてる。俺が140弱くらいだから二倍はなさそうだが、それでも大きい事に変わりはない。


「そなたはきいただろうか。この村の現状を」


 まず初めに僧侶が口を開いた。


「魔女の事ですか? それなら店主さんにききました」

「うむ。その魔女についてだが、何か分かる事はないだろうか」

「魔女についてですか。店主さんから訊いたことくらいしか知らないですけど」

「ふむ……。そなたと宿を利用している少女が少し前に宿から出て行ったらしい。その事については?」

「え……。ウルリカさん、どこかに出て行ったんですか?」

「店主の話ではそうらしい。そのウルリカ殿がどこに行ったのかまでは分からないが、もしかしたら魔女の館に向かったのではないか?」

「そんなはずは……」


 ない、とは言い切れないが、それなら何故俺を放置して行ったのか。そもそも、魔女なんかウルリカさんが関わろうとするだろうか。

 でも、思えば魔女という単語を聞いた時、ウルリカさんはちょっとだけ難しい顔をしていた。それは単に面倒だからだと思っていたが、そういうわけじゃなかったのかもしれない。


「どこに行っちゃったんだろ……」


 不安だ。俺に何も言わずに出て行くなんて。いつもなら一緒にって行ってくれるはずなのに。


「コホン。恐らくウルリカ殿は魔女の館に向かったのだろう。これは拙僧の勘だが、1人で行ったのはそなたを巻き込みたくなかったからではないだろうか」

「それは……」


 可能性としては有り得る。でも、そんなのってないよ。俺はまだウルリカさんを守れるくらい強くなれてないってことは分かるけど、それでも何も言わずに出て行くなんて。

 まだ俺の力は信用されてないんだ。そう思うとなんだか悲しい。


「そういえば自己紹介がまだであったな。拙僧はアズレトヴィチ・ミンジュレンコ。北の国出身のしがない放浪の僧である」

「私はイオです」

「イオ殿か。良い名前だ」

「アズレトヴぃちゅ……アズレトヴィチさんもなんだか長くてかっこいい名前ですね」

「そう言ってもらえると嬉しい限りなのだが。少しばかり呼びにくいのが難点であろうな」

「確かに呼びにくいです」


 さっき若干噛んじゃったし。非常に呼びにくい名前だ。


「適当にあだ名をつけてもよいが……何かあるだろうか」

「え、あだ名ですか……? え、ええっと……」


 何がいいだろうか。見た感じではスキンヘッドで強面で髭で筋肉だ。あだ名と言われても今までそんな機会なかったから困ってしまう。

 んんん……でもやっぱり一番しっくりくるのは筋肉かな。なら筋肉○ン……ってこれじゃマズイか。というかそんなに長く一緒にいるわけじゃないし適当でいいか。


「じゃあ、筋肉さんで」

「ほう……そなた拙僧の筋肉に目をつけたか。素晴しい眼力の持ち主のようだ」


 少しだけ誇らしげに筋肉さんは言った。

 しかし誰がどう見ても筋肉に目が行くと思うのだが、どうだろう。ハゲで髭だからそっちに目が行く人もいるのかな。どうでもいいけど。


「自己紹介も済んだところでイオ殿に訊きたいのだが、ウルリカ殿の特徴を教えてもらってもよいか」

「ウルリカさんの特徴ですか。ええっとそうですね……魔法使いのような身なりをしています。他に外見的特徴はないですけど、気が強くて魔法を使うのに長けている人です」

「なるほど。魔法使いということなら見ればわかるであろう。それと、そのウルリカ殿がこんな夜にどこかへ行くというのなら魔女の館くらいだろう。他に見て回る場所などない辺鄙な村であるからな。まあ、1人で魔女の館に向かうところを見るに、ウルリカ殿は相当腕に自信がるのだろうが……」


 そこまで言うと筋肉さんは立ち上がった。


「――ありがとうイオ殿。拙僧はこれより呪いの真相を確かめるべく魔女の館に赴く。もし道中ウルリカ殿に出会えたらイオ殿が心配していたと伝えておこう」

「あ――」


 背を向ける筋肉さん。

 彼は今からウルリカさんが行ったであろう魔女の館に行こうとしている。なら、俺も一緒に行った方がいいんじゃないか? ウルリカさんを守る事が俺の役割なんだし、ここで待っていても何も変わらない。認めてもらえていないのなら認めてもらえるよう努力しないと。


「あ、あのっ」


 勇気を出して俺は去りゆく筋肉さんに声をかけた。


「どうした? イオ殿」

「私も連れて行って下さいっ」

「だがしかし、危険だろう。そなたのような幼子が行くような場所ではないぞ」

「私は冒険者です。そして、ウルリカさんを守る盾です。今回は置いていかれちゃったけど……でも……私もやれるってところをウルリカさんに見てもらいたい!」

「イオ殿……」


 筋肉さんは長い無精髭をさすりながら、少しだけ考える素振りをした。

 正直、俺の見た目的にどう考えてもお荷物と思われるだろう。一応武器は装備しているけど、俺が筋肉さんの立場だったら多分子供の遊びにしか捉えないと思う。それでも、俺は精一杯の想いを込めて筋肉さんに頼んだ。


「お願いします……っ」


 俺は自然と頭を下げていた。それだけ置いていかれたのが悔しくて悲しかったのかもしれない。自分でもよく分からないくらい、必死になっている気がする。


「……あいわかった。色々とあるようだが……イオ殿の想い、無下には出来まいな」

「筋肉さん……っ」

「では、参ろうか」


 強面の筋肉さんだが、笑った顔は少しだけ優しそうに見えた。

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