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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
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不気味な村




 整備された街道をひたすら歩き、俺達は交易都市クリンバを目指していた。時にはモンスターと戦い、時には休み、少しずつだが前に進んでいる状態だ。

 町と町との距離。正確には町と都市だが、想像以上に長い。もう歩き続けて3日経った。小さな村で宿をとり休みながら歩いてきたが、ウルリカさんはもう限界を軽く突破しているようだった。


「あーもう! あとどれくらいでクリンバに着くのよ!」

「う、ウルリカさん落ち着いて……」

「もう3日よ? 3日! これだけ歩いてんのにまだ着かないなんてどれだけ遠いのよ!」

「で、ですけど徒歩ですし……」

「ああん!?」

「ひぃっ!?」


 凄い形相で睨まれてしまった。

 いつもは俺に優しいウルリカさんだが、疲れが溜まっているのかかなりイライラしている。これは早くクラン作って馬車を手に入れる必要がありそうだ。


「はぁ……、もう日も暮れてきたし、またしょっぼい村で寝泊まりかしらね」

「野宿じゃないだけマシだと思いますけど……」

「……そうよね。はぁ、旅するのって想像以上にきつかったのね……」


 逆に何も起こらないから淡々とし過ぎていてつまらないのかもしれない。前までは何かと事件に巻き込まれていたから、大変ではあったがそれだけ時間が過ぎるのも速かった。

 だけど今は違う。ただ街道を歩いているだけだ。時にはモンスターと戦いもするが、整備された街道にほいほい現れたりはしない。


「イオ、次の村で休みましょうか。もう暗くなるし、そうなったら危ないからね」

「分かりました」


 暗くなってからモンスターと戦うのは危ない。暗闇の中では敵の位置確認ですら困難なのだ。ましてや群れで来られたらどうしようもなくなってしまう。

 というわけで数十分歩いた先にあった村で宿をとる事にした。

 疲れた身体で宿屋に入る。小さな村だからかやけに人が少ない。人通りも他の村と比べて異様に少なかった。しかも、何故だか俺達の事が視野に入っていないかのような感じだ。


「やたら人が少ないわね。まあ、村だからそんなものなんでしょうけど」

「そうですね。でもなんだか不気味です」

「ホントよね。村人全員うつ病にでもかかってんじゃないかしら」

「うつ病って……」


 この世界にもそんな病があるのか。

 まあ、同じ人間だし似たような病があってもおかしくはないか。


「ここね」


 俺とウルリカさんは村の宿屋に入った。

 二階建のオーソドックスな宿屋だが、受付に店主と思われる男性がいるだけだ。客は誰一人としていない。


「いらっしゃい。何もない村だが、せめて休める場所は提供するよ」


 優しそうな顔で店主は言った。


「2人部屋を借りてもいいかしら」

「2人部屋ね。それなら二階の部屋がいいだろう。これが鍵だ」

「ありがとう」


 ウルリカさんは店主から鍵を受け取り、懐にしまった。


「ねえ、なんだか人が少ないようだけどこの村っていつもそうなの?」

「ああ、そうだよ。みんな魔女の呪いが怖くてこの村から去ってしまったのさ」

「魔女……?」


 怪訝そうな顔でウルリカさんは訊き返した。


「そうさ。まあ、誰も姿までは見たことないらしいんだがな。その魔女が住んでいると噂されている館が村の近くの森林地帯の奥にあってね。この辺りでは結構有名な話なんだが……あんた達知らないのかい?」

「ええ。ここらには最近来たばかりなの。だからその魔女なんて知らないし、聞いた事もないわ」

「そうか。なら気をつけるといい。それと村の西側の森には近づかない事だ。その先に魔女の館はあるんだからな」

「忠告ありがとう。気をつけるわ」


 そこまで言って、ウルリカさんは回れ右した。


「さ、行きましょ」

「は、はい」


 店主の話しをきいたせいか若干ドキドキしながらウルリカさんと部屋へ向かう。

 しかし魔女か。出来れば関わり合いたくない存在だな。


「やっぱり誰もいないわね。これも魔女の呪いとやらのせいなのかしら」

「ちょっと怖いです……」

「大丈夫よ。それに、一晩泊まるだけだから心配ないでしょ」

「だといいんですけど……」


 人がいないからか、なんだかさっきからずっと不気味な気配を感じるのだ。それが何なのかは分からないけど、普通じゃない事は分かる。

 与えられた部屋は、ごく普通のものだった。人が少ないから質素な感じを予想していたが、そうでもないらしい。ここまで来る中で泊まってきた宿の部屋と大差なかった。

 窓の外を見ると、もう夕焼け時も終わろうとしていた。モンスターがいるから、これからはあまり外に出てはいけない時間帯だ。


「さーてと、今日はちゃちゃっと寝てこんな村明日の朝にはささっとおさらばよ」

「そうですね。なんだか不気味ですし」

「てなわけだから、まずは旅の疲れを癒すためにお風呂ね。アタシからでいい?」

「あ……」 

「ん? どうしたの? まさか怖いから一緒に入って欲しいのかしら?」

「そ、そういうわけでは……っ」


 口ではそう言うが、この不気味な村でウルリカさんの傍を離れたくないという気持ちはあった。いやまあ正確には近くにいるんだけど、それでも目の前からいなくなると不安になりそうなのだ。なんだかウルリカさんが自分の前からいなくなってしまいそうな……。そんなはずないと分かってはいるけど、この村の雰囲気がそうさせるのかもしれない。


「なら、お先に失礼するわね」

「……はい」


 言って、ウルリカさんは部屋に備え付けられたバスルームへと消えていった。

 俺はベッドに腰掛け、大きくため息をついた。これまでずっと歩いてきたからか、足が重い。それに、すごく眠い。


「あ、やば……」


 ベッドがふかふかで、つい横になりたくなってしまう。でも、ここで横になったら確実に落ちる。まだお風呂も入っていないし、眠るわけにはいかない。いかないんだが……。


「少しだけ、仮眠するだけなら、いいよね……」


 迫りくる睡魔。抗おうにも俺の目の前にはふかふかのベッドがある。これはもう寝るなという方が無理がある。

 ああもうダメだ。ウルリカさんがお風呂から上がるまで寝てしまおう。

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