次なる目標
ビッグベアを倒してから、冒険者ギルドに報告へやってきた。
受付のお姉さんにビッグベアの大きな爪を見せる。すると笑顔でビッグベア討伐を確認してくれた。
これで俺とウルリカさんも晴れて冒険者だ。報告はちゃんと2人で倒した事にしている。じゃないと俺が協力していない事になってしまうからな。まあ実際倒したのはウルリカさんだけどさ。
「これが冒険者の証である身分証です」
受付のお姉さんからちいさなカードを受け取り、それを懐に入れる。
「依頼の確認はあちらの掲示板で可能ですので、目を通しておいてくださいね」
「了解よ。達成の報告は受付でいいのよね?」
「はい。報酬も大体はこちらでお渡しします」
「それで冒険者になったら馬車を貰えるってきいたんだけど、それはどこでもらえるのかしら」
「馬車、でしょうか。残念ですが馬車は冒険者全員に配布はしておりません。クランに所属している方にのみお渡しする事になっています」
「な、なんですって……」
露骨に残念そうな顔をするウルリカさん。
お金の問題もそうだが、ウルリカさん的には馬車の件もかなり重要な事だったのだろう。
でも、確かにこれから旅をする中でずっと徒歩というのは辛い気がする。でも、馬車を貰うにはクランに所属する事が条件。ウルスラグナに入ればその条件はクリア出来る。
だが――
「分かったわ。とりあえず馬車は諦めましょう」
「ウルリカさん、クランなら……」
「イオ。言いたい事は分かるけど、ウルスラグナに入る気はないわ」
「で、ですよね」
予想通りの答えだ。
だけど、とりあえず、という事は馬車の入手を諦めたわけではないようだ。
「クランを作るにはどうしたらいいの?」
ウルリカさんが受付のお姉さんに尋ねた。
まさかウルリカさん、新しくクランを作る気なのか。
「5人以上の冒険者がいれば、クランを結成する事が可能です。その場合、新たに試験を課せられますが」
「なるほどね。とりあえずあと3人誰かをつれてくればいいってわけね」
「一応確認しておきますが、ソロの方に限りますよ。重複所属は出来ません」
「オッケー。1人で冒険者やってるやつを集めればいいのよね」
「まあ、そういう事になります。ですが、そう簡単な事ではありませんよ?」
「でしょうね。でも、クラン自体始めから作る気だったから問題ないわ」
「あ……」
だからウルスラグナに入るのを断ったのか。
自分でクランを作る。ウルリカさんらしい事だが、他の仲間はどうする気だろうか。
「クランはどこのギルドでも作成可能です。このレネネトから旅立って、他の町に行く途中に仲間を集める、という事も出来るでしょう。頑張ってください」
「ええ。それなりには頑張るつもりよ」
「人を集めるならここから北にある交易都市クリンバがオススメです。あそこにならソロで活動している冒険者も多くいるはずです。よかったら行ってみてはどうでしょう」
「交易都市クリンバね。――よし、次はそこに向かいましょう」
「はい!」
交易都市か。名前からして人が多そうだな。
町ではなくて都市だ。きっとレネネトより遥かに広いんだろう。
これからは冒険者としてやっていきながら、仲間を集める旅になる。今まで俺とウルリカさんの2人だけだったけど、他にも仲間が増えていくと思うと楽しみだ。
レネネトのギルドを後にして、真っ直ぐに宿を目指す。
森林でビッグベアを討伐してからすぐにギルドに来たから、もう夕方だ。
海の向こうを見ると、水平線が広がっていた。
海の向こうから船に乗ってここまでやって来た。まだまだ旅も始まったばかりだ。この中央大陸は、地図を見た限りかなりの大きさだった。
そして次の目標はクランを作る事。そのために交易都市クリンバへと行く事になった。
「ウルリカさん」
「ん? どうしたの?」
「頑張りましょうね」
「ええ。もちろんよ」
確かな決意を胸に。俺の心は少しばかり昂ぶっているようだった。