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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
42/110

ビッグベア討伐へ②




 森林地帯を歩き始めて1時間程が経った。

 依然として辺りは木々で生い茂っている。視界が悪いとまではいかないが、見通しはあまりよくない。空はよく晴れているようだが、森の中はなんだか薄暗い。

 そんな雰囲気とは裏腹に、アネットさんは騒がしい。これだけ喋り続けれるのなら冒険者なんかより他の仕事のがあってそうだけどどうだろう。


「それでさー! そのエミリーってのがさー! ジュースと間違えてお酒一気飲みしたんだよ! エミリーお酒苦手なのに笑えるよねー!」

「私もお酒はちょっと……」

「イオ、いちいち反応しなくていいわよ。調子乗るから」

「イオちゃんはわたしの味方だからねー! ちゃんとお話きいてくれるもんねー?」

「え、えっと……」


 グイグイくるアネットさんに俺は若干テンパっていた。

 アネットさん、学校のクラスに1人はいる元気の良い女子って感じだな。あまり得意なタイプではないので、たじたじ状態だ。

 しばらくアネットさんのトークに相づちだけで応えながら、森の中をさ迷い歩く。ウルリカさんはアネットさんを完全に無視し、我関せずを貫いている。無駄話に付き合う気はないという事だろうか。


「イオちゃんとお喋りするのもいいけど、そろそろビッグベア探さないとね。もうここら辺からビッグベアと出会ってもいいはずなんだけどな。クマさんでておいで~」


 辺りをキョロキョロ見渡しながらアネットさんはビッグベアを探し始めた。

 しかし、こんな深い森の中に、でかいクマがいるのだろうか。キャタピラーくらいの大きさなら普通にいそうだけど、ビッグベアと名のつくモンスターがこんなとこうろついていたらかなり怖い。


「お?」


 何かに気づいたのか、アネットさんが声を上げた。


「この足跡、ビッグベアのものっぽいね」


 足元を見ると、大きな足跡が残されていた。

 直径70㎝くらいだろうか。正確には分からないけど。1mはない気がする。


「根拠は?」


 ウルリカさんが尋ねた。


「勘!」

「そうだろうと思ったわ。アンタバカっぽいっし」

「ば、バカとは失礼だなー! イオちゃん、わたしバカじゃないよね?」

「ええっと、それは……」


 正直ちょっとバカっぽいと思ってました。とは言えないしなぁ。

 ていうかそもそも俺に振らないでくれよ……。バカって言えばアネットさんに悪いし、バカじゃないって言えばウルリカさんに睨まれそうだし。どうしようもないじゃないか。


「無言の肯定ね。はい、アネットバカ決定」

「ぐぬぬ……。クランの中じゃ明るくて楽しい人って言われてるのにー!」

「そんなの口ではどうとでも言えるわよ。裏じゃうざくて面倒な人って思われてるんじゃない?」

「そ、そんなことないもん! ない、はず……!」

「自信なくなってきてるわよ」

「そ、そんなこと……!」

「いや絶対裏でうざいって思われてるって。間違いないわ」

「まだ言うかー!」

「何度でも言ってあげるわよ? うざいうざいあーうざい」

「う、う……」

「う?」

「ウルリカちゃんのドSー!!」


 わーんとかいいながらアネットさんはいずこかへと走り去ってしまった。

 ウルリカさんはそんなアネットさんを変わらぬ表情で見送っている。しかも手を振るおまけつきだ。


「ふぅ。うるさいのが消えて助かるわ」

「で、ですけどアネットさん1人で大丈夫でしょうか……」

「一応ウルスラグナの一員よ? 問題ないでしょ」

「そう、かなぁ」


 いまいち信用できない。

 ウルスラグナの一員という肩書がなければ、アネットさんが1人でこの森林を歩くとなると不安でしょうがない。


「さて、アタシ達はビッグベア捜索を続けましょうか。どうせアネットもすぐに戻ってくるでしょうし」


 ウルリカさんも本気で追い出したいわけではないらしい。さっきの言葉攻めもウルリカさんなりのスキンシップだったのかも。……多分。


「あ……」


 遠くから叫び声が聞こえてきた。どうもアネットさんのもののようだが、どんどん声が近づいてくる。


「たーすーけーてー!」

「……もう戻ってきたのね……」


 呆れ顔でウルリカさんは呟いた。

 しかもアネットさん、何かに追われているようだ。


「ってあれ、ビッグベアじゃない」

「あれが……」


 数m離れたここからでも分かるくらい、ビッグベアは大きかった。

 全長5mはあるんじゃないだろうか。そこらの木と背の高さがあまり変わらなそうだ。それだけでかいのに目立たなかったのは四足歩行しているからだったのだろう。


「あいつも役に立つことあるのね。イオ、下がってて」

「は、はい」


 ウルリカさんは両手を前につき出し、目を閉じた。

 淡い光がウルリカさんの身体を包み込む。

 徐々に近づいてくるビッグベア。地響きが激しい。それほどの迫力が目の前から迫ってきている。さらにはアネットさんも追われているこの状況。だというのに、ウルリカさんは至って冷静だった。


「……」

「うーるーりーかーちゃーん! どいてー!!」

「疾れ! 電光!」


 最初は弱く、しかし一気に威力を増した電撃がビッグベア目掛けて放たれた。

 一瞬後には激しい爆音。ウルリカさんが放った魔術がビッグベアの身体を正確に貫いていた。


「グォォォォォォォォォ!!」


 倒れ落ちるビッグベア。

 あんなにでかい敵を、魔術一発で倒してしまった。

 やっぱりウルリカさんは凄い。賢者にだって、すぐにでもなれるんじゃないだろうか。


「す、すっごーい……」


 あまりにも一瞬の出来事に、アネットさんは若干呆けていた。

 かくいう俺も、ウルリカさんの凄さに驚きを隠せないでいる。キングクラーケンの時もそうだったけど、魔術の威力が尋常じゃない。それに加え空間魔法も扱えるのだから、魔法使いとしてはかなりの上位なんじゃないだろうか。


「ふぅ。これで討伐完了ね。証として爪でも剥ぎ取っておこうかしら」


 言って、ウルリカさんは混沌空間カオスゾーンからナイフを取り出し、ビッグベアの爪を剥ぎ取った。

 爪を袋に入れ、ウルリカさんはこちらへと戻ってくる。


「さ、ここにもう用はないわ。帰りましょ」

「は、はいっ」


 ビッグベア討伐。ウルリカさんのおかげで楽に終わったな。まあ、冒険者になるための試験だし、相手が強敵だったらまずいか。

 討伐レベル4というのがどのくらいのものかは分からないけど、ウルリカさんの敵ではないようだった。


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