ビッグベア討伐へ
レネネトの北東に、大きな森林地帯がある。
今回の討伐対象であるビッグベアなるモンスターは、その森林地帯に生息するらしい。
レネネトの北門から街道に出て、少し歩いた所に森林への入り口があった。ご丁寧にモンスター注意の看板まで立ててある。
「……ゴクリ」
俺は生唾を飲み込んだ。
ここからビッグベアがいる森林へと入る事が出来る。どんなモンスターが現れるのか、今からドキドキする。それに、この森林はかなり広そうだ。中も迷路のようになっていそうだし、そう思うと余計に不安だ。
「なーに緊張してるのよ」
「い、いえ、そういうわけでは」
「今回はちゃんとアタシがついてるわ。イオが迷子にならないよう気をつけるから、安心しなさい」
「う……」
やはりウルリカさんには見透かされていたか。
これだけ広い森林で迷子になったら、非常にまずい。最悪、戻ってこれないかもしれない。そう考えるとちょっぴり怖いのだ。
「さて、ビッグベアなんてちゃちゃっと討伐して帰るわよ」
「は、はい!」
元気よく返事をしたのはいいものの、不安が消え去ったわけではない。
でも、ぐずぐずしていても仕方ないので、前向きに考える事にした。
「おーい!」
森林地帯に入ってからすぐ。背後から俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ちょっと待ってよー!! わたしを忘れてるってば!」
「――あ、アネットさんだ」
昨日部屋に勝手に上がり込んでいたウルスラグナの一員、アネット・ビゼーさん。そのアネットさんが慌てた様子で駆けてきた。
今日も今日とてカウボーイっぽい服装だ。ウルリカさんが魔法使いっぽい服装してるのと同じ理由だろう。
「……チッ」
「あー! 今ウルリカちゃん舌打ちしたでしょー!?」
「したけどそれが? というかちゃんづけ? しかもアタシ名前言ったっけ?」
「そうそうウルリカちゃんとイオちゃん。ちゃーんとレネネトの冒険者ギルドで調べておいたからね」
「余計な事を……。てかアンタ、ついてくる気?」
「当然! リーダーが認めたその実力、確かめさせてもらうからね!」
アネットさんはビシィっと人差し指をウルリカさんに突きつける。
しかし、どこまでもマイペースな人だなぁ。
「人数が増えて賑やかになりそうですね」
「そういう問題じゃない気もするけど……。ま、いいか」
ウルリカさんもふっきれたのか、アネットさんが同行する事を認めたみたいだ。まあ、表情的に快くといった風ではないようだが。
「てなわけでよろしくね。討伐対象はビッグベアだっけ? よーし、レッツゴー!」
「なんでアンタがノリノリなのよ。言っとくけど、手出しは無用よ?」
「分かってるよ。わたしの目的は君達の実力を見る事と勧誘する事だからさ。余計な事はしないから安心して」
「ならいいけど。あ、あと無駄に喋らなくてもいいから」
「ひど!? 喋らせてよコミュニケーションとらせてよー!」
「はいはい。じゃ、行こうかイオ」
「は、はい」
「無視ィ!? ウルリカちゃん冷たすぎるよー!」
「あ、さっそくモンスターの登場ね。キャタピラーか。それくらいなら余裕でしょう。そうだイオ、今朝あげた武器試してみたら?」
「分かりました! 行きます!」
「わたしおいてけぼりだよー!(泣)」
なんだかアネットさんが1人で賑やかだが……。
俺はウルリカさんからもらった武器を抜き、虫型のモンスターであるキャタピラーに向かって突撃した。
ウルリカさんからもらった武器。前回同様短剣ではあるが、属性が付与されている。
今、俺の腰についている短剣は5本。それぞれ火炎、旋風、地脈、電光、氷結属性が付与された武器を装備している。
といっても実際の戦闘で使えるのは2本が限度だ。手の本数的に。
ただ、いくらでも変える事は出来る。何本も持ち歩けるのが短剣の利点でもあるからな。ディーンさんやカイゼルさんの武器みたいにでかかったら何本も持ち歩けないだろうが。
「虫型だし、火炎属性が効くはず……!」
だんご虫を大きくしたかのようなキャタピラーの堅そうな外皮に短剣を突き付ける。紅く染まった火炎属性の短剣は、その炎で堅い砦を焼き尽くす。
「よっ」
弱ったキャタピラーを蹴り上げ、柔らかそうな部分をさらけ出してやる。
完全に仰向けになったキャタピラー目掛けて、勢いよくとんぼ返り的要領で一回転してから思いっきり踵落としを喰らわせた。
「――ふぅ」
俺の一撃で、キャタピラーはピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。
やっぱり内側が弱点だったようだ。なんというか、分かりやすくてやりやすい。
「おーすごーい! イオちゃんやっるぅー!」
「ど、どうもです」
弱い敵だったけど、そう言われると悪い気はしない。
「火炎属性の武器を選んだのは正解だったわね。虫型や植物型のモンスターは軒並み火炎に弱いから覚えておくといいわ」
「了解です」
見ため通りだったというわけか。虫だし、火に弱そうだもんな。勘だったけど、当たっててよかった。
「さあ、先に進もうか!」
「だからなんでアンタが仕切ってんのよ」
「まあいいじゃんいいじゃん! 気にしない気にしない!」
ハイテンションのアネットさんと共に、俺達は森林の奥地へと向かった。