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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
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嵐のような人



「ありがとうございましたー!」


 店員の声を背に、俺達は喫茶店から出た。

 すっかり薄暗くなったレネネトの町を歩き、宿へと戻る。


「それにしても結構長居しちゃいましたね。コーヒーとお菓子、美味しかったです」


「ふふ、大当たりだったわねあの喫茶店。外観がよかったから気になってたんだけど、行って正解だったわ」


 喫茶店から宿屋に戻る途中。

 終始ウルリカさんはご機嫌で、だいぶあの喫茶店をお気に召したようだ。

 かくいう俺も大満足だった。店内の雰囲気も良かったし、コーヒーとお菓子も美味しかった。おかげで結構長い時間お茶してしまった。


「んー……っ」


 ウルリカさんが伸びをする。

 続いて欠伸をしたところを見ると、お腹が満たされて眠くなってきたのだろう。


「露店で美味しそうな物売ってますけど、さすがにもう一杯一杯です」


「今日は夕飯いらないわね。お腹空く時間は深夜くらいになりそうだし、そんな時間に食べたら太るしね」


「そうですね」


「でもイオはもうちょっと太ってもいいかもね」


「へ?」


「ここの辺り、寂しいじゃない」


「ここって……」


 胸のあたりを示すウルリカさん。

 まさかウルリカさん、幼女に胸の大きさを求めているのか。

 確かに俺のお胸は72すらないが、それはまだ幼いからだ。成長すればどんどこ大きくなるに違いない。


「胸の大きさを気にした事はないですけど……。大きくなったら自然に出てくるんじゃないですか?」


「う、う~ん、それなんだけど……」


 言い辛そうに口ごもるウルリカさん。

 何か言い辛い事でもあるのだろうか。


「アルカナドールって、成長しないのよね」


「ええぇ!?」


 成長しないてことは、俺は一生この姿のままなのか!?

 てことは、死ぬまで幼女ってことか……。それって逆に言えば老けないってことだけど、喜んでいいのか分からないな。


「本来の肉体じゃないから仕方ないのよ。身体はそれで完成形と魂からみなされているから、成長もしないし老いもしない。でも、イオだけじゃなくてドールは全員そのはずよ」


「で、でも、髪や爪は伸びますけど……」


「それは別扱いみたいね。身体が成長しきっても変わらず髪とか爪は伸びるから、その影響かもしれないわ」


「な、なるほどです……」


 言われてみれば身長が伸びなくなってからも髪や爪は変わらず伸び続けるな。

 でも、成長しないのならいくら食べても太らないのだろうか。それとも単純に歳をとらないだけなのか。


「でも、不死ってわけじゃないから、気をつけるのよ」


「は、はい!」


 キングクラーケンの触手に締め付けられ、死にかけた経験をしたのだから不死身じゃない事くらい分かる。そこら辺は普通の人間と似ているのだろう。首を刎ねられれば死ぬし、心臓を貫かれても死ぬ。身体が人間と同じ造りをしているのだから当然だ。


「――ようやく表通りに出てきたわね」


 レネネトの裏通りからメインストリートに戻ってきた俺達は、満腹感に浸りながら宿屋を目指し歩いた。日も落ちてきて、通りの人々も昼間よりは少ない。

 しばらく歩き、目的地に到着した。

 宿屋に入り、部屋へ戻る。

 扉を開けて、中に入った。

 すると――


「もーおっそいよー!!」


「「……誰?」」


 部屋には、知らない女性がいた。

 しかもコーヒー片手にくつろいでいやがる。


「泥棒さんでしょうか」


「それにしては恰好がへんてこね」


「確かに……」


 カウボーイハットのような帽子に、露出の多い服。腰には銃のホルスターのようなものまで装備していて、泥棒の恰好からかけ離れている。というか見た目がカウボーイっぽい。西部劇にでも出てきそうな人種だ。馬にでも乗るんだろうか。


「とりあえずどうでもいいけど出てってもらいましょうか」


 すっと片手を上げるウルリカさん。

 その動きを見て、カウボーイの人がコーヒーのカップを置いてから慌てて口を開いた。


「わたしは危ない人でも悪い人でもないよー!? だから話をきいて? ね?」


「勝手に人様の部屋に入り込んだ人間が悪いやつじゃないって言いたいのかしら? さすがのアタシもそこまでお人好しじゃないわ」


「その件についてはごめんだけど、まずは落ち着いてわたしの話をきいてほしいなー、なんて……」


「……」


「露骨に嫌そうな顔してる!?」


「……で、話って何よ」


 ジト目のまま、ウルリカさんはカウボーイの人に訊いた。


「コホン。気を取り直してまずは自己紹介から。わたしはアネット・ビゼー。クラン『ウルスラグナ』の一員で、君達の監査役に選ばれたんだ」


「……なんですって?」


「監査役だよ、か ん さ や く。まあ、というより勧誘役って言った方がいいんだろうけどね。実力はリーダーが直に見てるわけだし」


「……はぁ。やっぱり部屋の場所をあの男に教えるんじゃなかったわ……」


「な、なんだか歓迎されてない!?」


「あったりまえでしょうが。それにもうクランの件は断ったはずよ。なのになんでアンタみたいなのが来るのよ」


「諦めたらそこで勧誘終了だからね。てなわけでこれからちょくちょく勧誘に来るからよろしくね」


 ウインクして、アネットさんはマントを翻した。


「では諸君、サラダバー!」


「ちょ、待ちなさい!」


 ウルリカさんの制止の声を無視し、アネットさんは颯爽に窓から飛び降りてしまった。

 悲しく取り残された俺とウルリカさん。というかサラダバーじゃなくてさらばだ、じゃないのか。色々間違ってるぞ。


「……なんか疲れたわ……」


「そう、ですね」


 開いた窓から風が虚しく入り込んでいる。

 しかし嵐のような人だった。アネット・ビゼーさん。西部劇に出てきそうな恰好だったけど、使う武器もやっぱり銃なのだろうか。


「やれやれだわ。明日のビッグベア討伐にあれがついて来ないか心配だわ」


「でも、ウルスラグナの人なら強いんじゃないですか?」


「それはそうでしょうけど。あんな色々ズレてそうなやつと行きたくないんだけどなぁ」


 ため息を漏らし、ウルリカさんはベッドに座った。

 俺も自分のベッドに腰を下ろす。


「ま、気にしててもしょうがないか」


「そうですね。でもアネットさん、悪い人じゃなさそうです。ミィも気にせず眠ってますし」


「一応ウルスラグナの人間みたいだしね。――それじゃアタシは武器を造ろうかしら」


 言ってウルリカさんは机に向かった。

 良く分からない器具がずらりと並び始める。きっとあれを使って魔具とかをウルリカさんは造っているんだろう。

 とりあえず俺もミィと戯れる事にした。

 俺のためにウルリカさんが造ってくれる武器。明日の完成が楽しみだ。

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