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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
36/110

最強のクラン




 ――翌朝。

 俺とウルリカさんはレネネトの中央広場にある冒険者ギルドにやってきていた。

 なんだかお洒落な建物で、一見喫茶店か何かに見えたが出入りする人間が皆武器や防具を装備しているところを見ると、そこがそんな場所ではない事が分かる。


「やけに騒がしいんだけど……何かあったのかしら」

「とりあえず中に入りませんか?」

「そうね。中に入れば騒ぎの原因も分かるだろうし」


 言って、ウルリカさんは扉に手をかけた。

 ギルドの中に入ると、まず最初に目に飛び込んできたのが人だかりだった。一か所に誰かを囲むようにして人が集まっている。どうやらそこが騒ぎの中心らしい。


「有名人でも来てるのかしら」

「私達も行ってみます?」

「そうね……。誰がいるのかだけでも確認しておきますか」


 ウルリカさんはぐるりと建物内を見渡す。

 何か見つけたのか、ウルリカさんは俺の手を引き歩きだした。


「2階からなら見えるでしょ」

「そうですね。まあ、見るだけになりますけど」

「話しかけるのが目的じゃないからいいわ」


 階段を上り2階へ。

 ギルドは吹き抜けの構造をしているから、上に上ったら1階の様子を見渡す事が出来るのだ。

 適当に人だかりの中心が見えそうな場所に移動する。

 上からだから、綺麗にその場所を見る事が出来た。


「なんだか強そうな人ですね……。あの人も冒険者なんでしょうか」


 人だかりの中心にいたのは、大きな剣を担いだ男だった。

 防具も軽く装備しており、そのおかげで見た目が大きく見える。

 年の程は30くらいだろうか。見ただけでは分からないが老けてもないしすごく若いわけでもなさそうだ。


「あれって、クラン『ウルスラグナ』のリーダー、カイゼル・シュライバーじゃないの」

「有名な方なんですか?」

「そりゃあね。最強と謳われてるクランのリーダーなんだから、冒険者なら誰でも知っているわ」

「さ、最強のクラン……」


 なら、あの人が実質冒険者のトップなんだろうか。

 最強のクランのリーダーなんだし、そうであっても変じゃない。


「そういえば、クランについて教えてなかったけどもう知ってるみたいね?」

「あ、はい。ディーンさんに教えてもらいました」

「そゆこと。ならもう説明しなくていいか」

「はい。――それはそうと、あのカイゼルって人、クランのリーダーなのに1人ですよね。お仲間とかいないんでしょうか」

「ああ、カイゼル・シュライバーは放浪癖がある事でも有名なのよ。だから今回も1人で出歩いてるんじゃないかしら」

「ああ……。なるほどです」


 最強のクランのリーダーが放浪癖か。仲間は心配するだろうな。


「そういえば私達は冒険者になるわけですけど、クランを造るんですか?」

「クランは2人じゃ造れないわよ? 最低5人のメンバーがいないと結成できないはずだけど」

「あ、そうなんですね」

「うん。だからソロで2人組って感じね。あ、それならペアか」


 少しだけ笑い、ウルリカさんは眼下に視線を戻した。

 未だにカイゼル・シュライバーの周りには人がいる。それも俺達がギルドに入ってきた時に比べれば減ったが。


「さて、アタシ達はアタシ達の用事を済ませましょうか」

「はい」


 階段を下りて1階へ。

 受付がある所まで歩く。

 カウンターには綺麗なお姉さんが立っていた。

 その受付のお姉さんに向けてウルリカさんは口を開く。


「すみません」

「はい、何かご用でしょうか」

「冒険者の登録をしたいんですけど……」

「――あぁん?」


 そうウルリカさんが言った瞬間、近くにいた男が反応した。

 見た目凄く怖そうだ。いかにもゴロツキといった風貌で、冒険者って感じではない。目つきも悪いし、ヤンキーのようだ。


「おいおい、冒険者ってのは遊びじゃねーんだぜ?」

「……?」

「お家に帰んな、お嬢ちゃん」

「……それはアタシに言ってるのかしら?」

「当然だろう。冒険者ってのはな、お前みたいなヤワな女が持ってていい肩書じゃねぇんだよ」

「へぇ……」


 突っかかってきた男を睨みつつ、ウルリカさんはその男の方に身体を向けた。

 見なくても声だけで分かる。ウルリカさん、少しイラついてるな。

 まあ、誰でもいきなりあんな事言われたらムカっとくるか。


「じゃあどうすれば認めてもらえるのかしらね」

「そんなの決まってらぁ!」


 言って、男は武器を抜いた。オーソドックスなバトルアックスだ。つまり、戦闘用に造られた斧だ。

 にしてもコイツ、こんな屋内で戦いを挑む気か。


「おいおい何事だ……?」

「厄介事は勘弁してくれよ」

「なんだなんだ!?」


 ギルド内がざわめき出す。それもそうだ。いきなり男が武器を抜いたのだから。


「上等じゃないの……!」


 ウルリカさんも臨戦態勢だ。

 だが、やっぱり杖は握っていない。さすがの自信だ。

 ジリジリと2人がいがみ合う。本当に決闘を始めてしまうのだろうか。

 と、一触即発状態の2人に声をかけた者がいた。


「はいストップ」


 カイゼル・シュライバーだ。


「なんだか面白い事になってるけどな、場所は考えようぜ」

「ぐ……」

「……確かに、ここじゃ危険ね」


 2人とも納得したようだ。


「というわけで、決闘するなら俺がいい場所を知ってる。そこに案内してやるよ。それとも、止めとくか?」


 その挑発ともとれるカイゼル・シュライバーの言葉に、男とウルリカさんは否定で反応した。


「冒険者の厳しさってやつを教えてやる!」

「はんっ。是非教えてもらおうじゃないの」


 どうやら2人とも引く気はないようだ。

 いきなり厄介な事になった。ウルリカさんは多分あの男にギャフンと言わせないと引く気はないだろうし……。困ったな。


「最近の若いのはどうも血の気が多いな。まあ、それがいいか悪いかは分からないんだが。嬢ちゃんもそう思わないか?」

「は、はぁ……」


 何故俺にきく。

 まだ冒険者でもないからそんなの知った事ではないんだが。

 にしてもカイゼル・シュライバー。近くで見るとさらにでかいな。

 いや、相手がでかいというか、俺が小さいのか。だからやたらと大きく見えるのかもしれない。

 渋い系の顔で、髭も若干生えているが、不衛生な感じはしない。ダンディ系とでもいうのだろうか。大人の魅力を余すことなくむき出しにしている。


「それじゃあ、俺についてきな」


 カイゼル・シュライバー先導の元、俺達はギルドを後にした。

 

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