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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
33/110

流されて無人島⑦




 無人島を彷徨い歩き、1時間程経った頃。俺の事を探しに来てくれたディーンさんと遭遇する事が出来た。ディーンさんは息を荒げ、俺のために駆け回ってくれていたのだと一目で分かった。そんなディーンさんを見て、嬉しい気持ちと共に何故か負の感情が湧いて出た。


「……」


 無言でディーンさんの隣を歩く。

 結局、1人では戻る事が出来なかった。そんな自分が情けなくて、ディーンさんと歩いている間、ずっと俺は俯いている。

 この世界に来て数ヶ月で戦う術を身に付けた。生前の時では考えられないくらい強くなった。だけど、俺はいつも誰かに迷惑をかけている。強くなれたのだってウルリカさんやエウィンさんがいたからだ。もしこの世界に1人投げ出されていたら俺は何も出来なかっただろう。


「イオちゃん」

「……はい」

「身体、大丈夫? 雨にずっとうたれてたから冷えてるんじゃない?」

「大丈夫です。ディーンさんこそ身体、冷えてるんじゃないですか?」

「僕は平気だよ。これでも男だからね。それにイオちゃんは女の子だし、」

「……そう、ですね」

「い、イオちゃんが素直だ……」

「……」


 何かディーンさんが言っている。だけど、俺は自分のバカさ具合に腹が立ってしょうがなかった。

 魚を捕って自分も何か出来るんだと主張するはずが、またディーンさんに迷惑をかけてしまった。俺の命を救ってくれたのもディーンさんだ。このままでは、ディーンさんに頼り切ったままになってしまう。

 ぐるぐると頭の中が回っている。

 俺だって何かやらないと、また1人ぼっちになってしまう。

 自分の事を認めてもらわないと、いらないやつだと思われてしまう。

 何か、何かしないと……。


「そろそろ洞窟だよ。焚火に火を点けてきたから少しは温かいと思う」

「……はい」

「そうだ。銛重いだろうし僕が持つよ」

「……はい」


 言葉が上手く出てこない。

 さっきから変だ。世界が揺れている。

 なんだかマシュマロの上を歩いているかのようにふらふらしてる。

 あ、地面がふわふわしてるのかな。ならしょうがないか。

 

「イオちゃん、本当に大丈夫?」

「……はい」

「全然そうは見えないよ? 熱あるんじゃない?」

「そんな事、ないです」


 俺は大丈夫。大丈夫なはず。そうじゃなきゃまた迷惑かけてしまう。


「――ちょっと調べるからじっとしてて」


 歩みを止めたディーンさん。

 俺も言われるがままじっとする。

 すると、ひんやり冷たいものがおでこにあてられた。

 気持ちいい。ディーンさんの大きな手。お父さんのような安心感がある。


「やっぱり……」

「……?」

「イオちゃん熱出てるじゃないか。そんな状態で、キツイって自分でわからないなんてことないよね?」

「そ、れは……」

「具合が悪いならちゃんと言わないと。手遅れになってからじゃ遅いんだから」

「……はい」


 有無を言わせないディーンさんの迫力に、俺は素直に頷いた。


「歩くのも辛いのなら、僕がおぶっていくよ」

「……」

「ほら」

「ごめんなさい……」

「謝らなくていいさ。さあ、おいで」


 俺の前でしゃがみ、スタンバイしているディーンさん。

 このふらふら感は熱が出ていたからだった。言葉が上手く出てこないのも熱が出ているからだ。こんな苦しい想いをしているのも、きっと全部具合が悪いせいなんだ。ディーンさんがこんなにもカッコよく見えるのも、全部。


「……ディーンさん」


 ふらつきながら、半ば倒れ込むようにディーンさんの背に身を預けた。


「なんだい?」

「ありがとう、ございます」

「イオちゃん……」


 ディーンさんは一瞬面食らったような顔になったが、すぐに微笑んだ。


「どういたしまして」


 そのディーンさんの言葉をきいて、俺は地に足がついた心地だった。

 ホッとしたというのが正確な表現かもしれない。

 なんにしても、ディーンさんの背中はとても安心できた。

 俺をおんぶした状態で、片手に銛を持ち、ディーンさんは歩き出した。洞窟の入り口が近いというのは本当だったようで、すぐに先程ディーンさんがいかだを造っていた場所に辿り着いた。

 雨も大分止んできた。だけど、この調子じゃいかだで海に出るのは無理だろう。雨のせいでさっきよりもかなり荒れている。


「イオちゃんさ、まだそんなに幼いのにすごく無理してるよね」

「……?」

「あ、辛いなら無理に答えなくていいよ。これは僕のひとりごとだから聞き流してくれていいんだけど……。僕が知ってるイオちゃんくらいの子ってさ、もっと無邪気ではつらつとしてて、なんていうか子供って感じなんだ。故郷の村の子供たちなんだけどね。その子達はもっと大人を頼って暮らしてて、全部1人でやろうとはしていない。大人を頼る、そういう権利があるのは子供の時だけなんだと思う。だからイオちゃんもさ」

「大人を、頼る……」

「うん。僕みたいな役立たずな大人もいるけどね。あ、ちなみに僕は21だかられっきとした大人だよ」

「私は……」


 俺は、頼っている。

 ディーンさんにだって、一杯頼ってる。

 たくさんたくさん助けてもらった。

 キングクラーケンと戦った時も、この島に来てからも。

 頼りっぱなしじゃないか。それでもまだ足りないというのだろうか。


「私は、たくさん頼ってます……」

「はは、そう言うだろうと思った」

「え?」

「そういう考えが出来るって、すごいことだよ。イオちゃんくらいの子なら、なおさらね」

「そう、ですか?」

「ああ。普通の子なら、大人に頼って生きてるなんて思わない方が多いさ。それが当り前だと思ってるんだから。でも、イオちゃんはなんていうか、中身がすごく大人なんだよ。だから、もっと子供っぽくていいんじゃないかなーって」

「……」


 中身が大人、か。

 確かに中身は成人した男だ。そう思われても仕方ないのかもしれない。


「なんて、偉そうなこと言ったけど、単に僕に甘えて欲しいだけなんだけどね。妹も、あまり僕に甘えてくれなかったからさ」

「ディーンさん……」

「あ、ごめん。――もうこの話は止めにしよう。洞窟にも着いたことだしね」


 気付けば洞窟内に戻ってきていた。

 焚火があって外よりも遥かに温かい。


「洞窟の中は温かいから、イオちゃんはここでゆっくり休んでて」

「ディーン、さんは……?」

「僕はいかだを完成させてくるよ。何もしないで待つより、何かしていた方がいいだろうし」


 そう言って俺を横にしてから、ディーンさんは俺の頭を撫でてきた。


「大きくすればきっと海も渡れるはずさ。幸い丸太もかなり大きいからね」

「あ……」


 立ち上がるディーンさん。

 だけど、何故か俺は、その服を掴んでいた。


「あ、あの……」

「イオちゃん?」

「傍に、いてください……」


 なんとも弱々しい声が出てしまった。

 今からいかだを造りに行くと言ってるのに、どうして俺はディーンさんの服を掴んでしまったのだろうか。どうしてこんな事を口走ってしまったのだろうか。

 案の定ディーンさんはポカンとした表情になっている。


「あ……。ご、ごめんなさい……」


 自分でも混乱して、咄嗟に出てきたのは謝罪の言葉だった。

 きっと、ディーンさんがもっと甘えて欲しいとか言ったからつい言ってしまっただけに違いない。熱も出て、思考が定まらないから変な事を言ってしまったんだ。


「わかった」

「え?」

「イオちゃんの傍にいるよ」

「で、でも……いかだ……」

「大丈夫だよ。そんなの後で出来るから。それに、せっかくイオちゃんが僕に甘えてくれたんだし、無下には出来ないよ」

「ディーンさん……」


 やっぱりディーンさんは優しい。優し過ぎて怖いくらいだ。

 でも今は、その優しさに甘えていたい。そう思えた。


「――あ、そうだ。膝枕、しようか?」

「……ッ!?」


 いきなりなんてこと言い出すんだ……っ。


「ほら、どうぞ」

「~~っ」

「遠慮しなくていいよ。むしろ僕がそうしたいだけだから」


 普通逆だろ! とか突っ込む元気もなく、俺はしぶしぶディーンさんに従った。

 もうここまできたら甘えまくった方がいいんだ。うん。絶対そうだ。

 熱が出てたからって後で言い訳出来るし。

 それに、結構キツイ。体調が悪いから当然だ。これは膝枕してもらわないとダメだな。多分。


「……ゆっくりお休み」

「……はい」


 ディーンさんの温もりを感じながら、俺は目を閉じた。

 疲れと具合の悪さから眠気が一気に襲ってくる。

 でも、一番の原因はディーンさんが近くにいてくれたからかもしれない。

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