流されて無人島⑥
イオを探すべく、複数の船員を連れ船で海へと飛び出したウルリカは、キングクラーケンが出現した海域にまで辿り着いていた。
この海域には小さな島がたくさんあり、どこにイオが流されたのかあたりがつかない。もどかしいが地道に探していくしかないようだった。
「とりあえず片っ端から島に上陸するわよ!」
小柄な船。その船首の上でウルリカが叫ぶ。
船員は3人。全員イオが戦う姿を見ていた者達だ。だからウルリカの呼び声に応えてくれた。
キングクラーケンと戦っていた冒険者は死んでいない。その事実を信じてくれたのがこの船員達だった。きっと彼らも、イオともう1人の冒険者の無事を祈っていたのだろう。だからウルリカの虚言とも言える言葉を信じ、船を出してくれたに違いない。
すでに日も上がった。
船を出すのに手間取り、時間を食ってしまったのだ。
ここに来るまでウルリカは何度も何度もアルカナカードを確認した。まだ化身は記されたままだ。イオがどこかで生きている証拠だ。
「潮の流れである程度の場所は特定できます! 船から落ちて波に流されたのなら、恐らくここから南西の島のどこかに流れ着いているはずです!」
「分かったわ。なら南西に向かいましょう!」
「了解!」
船は南西へと向けて航路を辿る。
ウルリカの腕の中で、ミィが小さく震えるように鳴いた。
ミィもイオの事を心配している。ウルリカと気持ちは同じだ。
「大丈夫。必ずイオを助けてみせる」
「にゃぁぁ……」
「必ず……」
ウルリカはそう呟き、ぎゅっと拳を握りしめた。
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1人作戦会議も虚しく終わり、さっぱり魚が捕れないまま時だけが過ぎていった。
銛を振りまくったおかげで疲れ果て、俺は湖の畔に座り込んだ。
依然として魚達は優雅に水の中を泳いでいる。
体力よりも気力が削がれてきた。俺なんかじゃ魚を捕るなんて事、出来ないのだろうか。
「はぁ~」
ついついため息が漏れてしまう。
アルカナドールだからって何でも出来るわけじゃないんだな。どんな事をするにしてもこの特別な存在の恩恵を受けているのだと錯覚してしまう。
……いやまあ、かなり助けられてはいるけど。万能じゃないってだけだ。
「お腹、空いたなぁ……」
きゅるるるるとらしい音で俺の腹が空腹の警報を鳴らしている。
そこまで空腹を主張しなくとも自分の事だから分かると文句を言いたい。言っても無駄だけどさ。
「なんだか空もどんよりしてきたし、引き時かな……」
雨が降ってきたらマズイ。身体が冷えて体力を奪われてしまう。
俺は銛を手に取り立ち上がった。
最後に湖に目をやってから、その場から立ち去る。
来た道を戻り、岩場までやってきた。
もう一度この岩を登らないといけない。こっちに来た時は飛び降りたわけだから、当然だな。
が、しかし、だ。
「……さて、どうやって上ろうか……」
岩を見上げる。
おかしい、飛び降りる時は楽なもんだったのに、上るとなると若干厳しいぞ。見たところ岩の頂上まで3メートル程か。どう考えてもジャンプで届く高さじゃないな。銛もあるし、身体も小さいから尚更だ。
いや、困った。木と違ってぬるぬるの岩じゃ滑って上れない。
ていうか、ディーンさんどうやって戻ってきたんだろうか。まさか竜騎士ばりのジャンプ力で軽く上ってみせたのか。んなわけないか。
「てことは、迂回路があるんだろう」
洞窟の右側が進めないのなら、左側から進めばいいじゃない。
てなわけで、うまい具合に戻れなくなっている嫌らしい配置の岩場を一瞥してから回れ右した。
フィーリングで迂回路を探す。
洞窟の終着点側に沿って進めば迷う事はないだろう。
早く戻らないと雨が降ってきそうだ。急げ急げ。
「こっちだこっちだ」
進んでいると、雑木林に入り込んだ。
やたら迂回している気がするが、きっと気のせいだろう。
そうこうしているうちにぽつぽつと小雨が降り始めた。
多少は木の葉とかが防いでくれているが、肌で雨粒を感じれるくらいには降っている。この調子ならあと5分もしないで本降りになるだろう。その前にはディーンさんの元へ戻らなければ。
「こっちで……あってる……よな?」
だんだんと不安になってきた。
もう結構小走りで進んでいるが、元いた海岸側に出てくれない。むしろ木々が茂っていくばかりだ。
まさか、戻る道を間違えてるのか?
いやいや洞窟に沿って進んでたんだから、大丈夫だろ?
「……あれ、洞窟ドコデスカ……」
気付けば辺りが完全に森であった。
前も後ろも右も左も木々で埋め尽くされている。
いつの間にか変なとこに迷い込んでしまったらしい。
「これは由々しき事態だ……」
戻るか?
だけど、戻ろうにも来た道が定かじゃない。
どこもかしこも森の深い所に繋がってそうな感じだ。獣道すらない。
……アカン。考えたくないが、これまた迷子になったんじゃなかろうか。
「ああああああああああもうっ!」
自分で自分をぶん殴りたくなってきた。
こんな時に何やってるんだ。
雨も本降りになってきたし、このままじゃ身体が冷えてしまう。
それにディーンさんも心配させるかもしれない。雨が降ってまで戻ってこないとはディーンさんも思わないだろうし。
「とにかく急いで戻らないと……っ」
もう一度フィーリングで進もう。
行ける行ける。自分を信じないで誰を信じるというのだ。
俺の勘では、向こうが洞窟の入り口だ。
「よし」
ここで佇んでいても仕方がない。
不安を押し殺しながら、俺は歩みを再開した。