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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
31/110

流されて無人島⑤




 はっと意識が戻った時にはもう日が上っていた。

 寝ていた洞窟から出ると、ディーンさんが朝日に照らされいかだ造りをしていた。健康的な汗を流しながら、丸太を縄で繋いでいる。


「イオちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「ほら見てよ、結構いい感じじゃない?」

「そ、そうですね」


 いかだの見た目は中々様になっていた。

 丸太は綺麗に切り揃えられていたのか、長さがほとんど同じである。


「これなら大陸までいける気がする!」

「それは……どうですかね……」

「こういうのは気持ちの問題だよ。最初から無理だって思ったらそこで終わりだよ」

「まあ、言いたい事はわかりますが」


 諦めたらそこで試合終了ということだな。

 でも、無謀と言わざるを得ない。

 ディーンさんはよく前向きに物事を考えられるな。

 今この状況がかなりよくない事くらいちゃんと理解しているだろうに。


「気持ちまで落ち込んでたら良い結果は得られないからね」

「そう、ですね」


 だけど、ディーンさんの言う通りだ。

 希望を持っておかないと、物事は悪い方向へしか進むない。

 こんな最悪の状況でも、諦めたらダメだよな。


「……ん? ディーンさん、これなんですか?」


 洞窟の入口に棒のような物が立てかけられていた。


「ああ、それは銛だよ」

「銛……?」


 先が尖ってるから槍かと思ったけど、銛なのか。

 てか銛って何だ?


「うん。銛はね、海とか川で泳いでいる魚を捕まえるための道具なんだよ」

「あ、ああ……」


 あれか。TVとかで見るやつか。

 マグロ突き刺したりするやつだよな。


「ですけどよくこんなものありましたね」

「僕も驚いたよ。洞窟の向こう側に小さな湖があって、その近くに捨てられてたんだ。使えるかと思って一応回収してきたってわけさ」

「昔誰かがこの島に来た時、この銛を持ってきたんでしょうか」

「だろうね。丸太もこの島にあったわけだし、以前誰かが来ていた事は確かだと思うよ」

「それで、銛は使ってみたんですか?」

「試してみたけど、僕にはさっぱりだったよ。これで湖の魚を捕れたらお腹も満たせたんだけど……」

「じゃあ、次は私がやってみます」

「で、できるのかい? かなり難しいよ?」

「やってみないと分からないじゃないですか」


 そうだ。何事も挑戦だ。

 ここでただ待つよりも、少しでも生きるために行動したい。

 俺は銛を手に取った。

 見た目は二又の槍のようだ。武器にも使えそうだけど、如何せん強度が微妙かな。


「それじゃあ行ってきます。その湖は洞窟の裏手なんですよね」

「そうだよ。だけどイオちゃん、1人で大丈夫かい?」

「大丈夫です。モンスターもいないんですよね?」

「僕が確認した限りではの話だけどね。絶対とは言い切れないから、警戒だけはしておいて」

「了解です」


 銛を手に、俺は歩き出した。

 洞窟の傍にある雑木林を進み、湖を目指す。

 草木が無造作に生え散らかっていて、進むのに苦労する。

 モンスターはいないが、虫はいる。ぶんぶん飛び回っていて鬱陶しい事この上ない。


「洞窟の裏だから……」


 岩の側面を回り込むようにして進む。

 険しい道のりだが、進めないという程ではない。


「よい……しょっと」


 小さな岩に上り、洞窟の向こう側を見渡す。

 そこには木々に囲まれた湖があった。

 朝日が水面を照らし、眩しい。

 見たところ水は澄んでいて、飲み水にもなりそうだった。


「っと」


 慎重に岩から降りて、地面に着地する。

 それから少しだけ歩いて湖の畔まで辿り着いた。

 近くで見ても、やっぱり水は綺麗だ。

 しゃがんでから手ですくってみると、その綺麗さがよく分かった。


「飲めるのかな」


 試しに少しだけ口に含んでみる。

 ――ごっくん。

 美味しい。

 特に害もなさそうだ。


「水分には困らなそうだ。あとは……」


 食料か。

 それもこの銛で俺が大漁に魚をとればいいだけだ。

 再び銛を手に取り、水の中を窺う。

 水が綺麗だからか、魚もたくさん泳いでいる。

 ……ふっふっふ、獲物が何も知らずに泳いでいやがる。今からこの俺がばんばん捕りまくってやるからな。ぐっふっふっふ。


「よーし」


 靴を脱ぎ、銛を構え湖へと入りこむ。

 浅瀬でも魚は大漁だ。みんな小さいけど、まあ大丈夫だろう。


「はっ!」


 この一撃が! 魚を貫く!

 弾ける水面。獲物を狙い銛が一直線に水の中に吸い込まれていく。

 これでまず一匹確保だ。

 ……って、あれ?


「……逃げられた……だと……?」


 この俺の撃槍を避けるとは……。

 ディーンさんの言っていた通り、魚を捕るのは難しいようだ。

 だけど、俺は諦めないぞ。

 

「もう一回だ……っ」


 銛を構え直し、俺は水中の魚との睨めっこを開始した。

 次は図体のでかいやつを狙おう。きっと身体がでかいから動きも鈍いに違いない。


「せーの……っ」


 バシャンと水面が弾けた。

 勢いよく飛び込んだ銛は、そのでかい魚の身体を貫いて……いなかった。


「~~ッ」


 また避けられた。

 悔しさから地団駄を踏んでしまった。

 くそー、俺の狙いが甘かったのか?

 魚くん達は俺をあざ笑うかのように優雅に泳いでいやがるし。許せぬ。

 ていうかさすがにお腹も減ってきた。ここらで魚を食さないと満たせない。水だけじゃ限界ってものがある。そもそもこの島に来てから何も口にしていない。水はさっき飲んだが。


「この小さな身体がもっとちっこくなったらどうすんだ、っての!」


 もう一度銛を水中の魚目掛けて突き刺した。

 だけど結果はスカ。

 これは少し対策を練った方がいいようだ。


「仕方ない。1人作戦会議だ」


 とりあえず浅瀬から出て、俺はどうやって魚を確保するのか考える事にした。

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