流されて無人島④
気付いたらディーンさんは眠ってしまっていた。
スースーと規則正しい寝息を立てて、安らかな顔で眠っている。
ついつい聖母の微笑みで見守りたくなるような寝顔である。
「……」
薪を入れる。
焚火が燃え上がる。
燃え上がれ~燃え上がれ~燃え上がれ~ガン○ム~♪
「虚しい……」
割と有名なこの歌も、この世界の人間は知らないんだろうな。
そう思うと、前世が恋しくなってくる。
パソコンやTVゲーム、漫画やアニメなどの娯楽はこの世界にはない。
生前の俺は結構そういう趣味を持っていた。身体が弱かったからスポーツとかは出来なかったのだ。いわゆるインドアってやつだな。
「でも、なんでだろう……」
昔はなかったら苦痛だったものが、今はなくても全然大丈夫だ。
生きていられるだけで幸せだから、欲が無くなってきたのかもしれない。
そう、生きる事が戦いなのである。
「……」
暇いのでディーンさんの寝顔でも眺める事にする。
寝顔もやはりイケメンである。百人中九九人がイケメンだと答えるであろう程のフェイスレベルの持ち主だ。きっと女性にモテまくるに違いない。努力しなくとも向こうからホイホイ近づいてくるんだろう。
生前の俺なら、見てるだけで嫌悪していたはずなのに、今は少し違う。
ディーンさんの顔を見ていると胸がドキドキしてくる。
でも、胸がドキドキする理由は何だろう。
「はて……」
まさしくこの気持ちは何だろう状態だ。
今日出会ったばかりの人間を見るだけでドキドキするのは変だろう。
やっぱりあれだろうか。俺幼女だからイケメン見ると反射的にドキドキする体質になっちゃったんだろうか。もしそうだったら嫌だなぁ。
「ん、んん……」
ディーンさんが寝返りをうった。
寝返りをうっただけなのにいちいちイケメンである。
「――はぅ……」
なんでか分からないけど胸がキュンとなった。
またときめいてしまった。
そして思った。
「……ま、まさか」
ありえない事だと否定したくなる。
というかありえない。
ありえないったらありえない。
地球が爆発して人類が絶滅するくらいありえない。
民間人が乗ったザ○が、アム○・レイが乗ってるνガン○ムに勝つくらいありえない。
つまり何が言いたいのかというと、ありえないのである。
「や、やっぱりこの身体のせい……?」
心や気持ちとは関係なくイケメンに惹かれるのは、身体が女だからだ。
梅干を見てよだれが出るくらいの条件反射だ。
そういう身体の仕組みをしているのだから、イケメンを見てときめくのも仕方のない事なのだ。生理現象といっても過言ではない。うん。きっとそうだ。俺は悪くねぇ。
つまり今の俺はあれか、「身体は許しても、心までは!」というやつなのか。まさか自分がそういう体験をすることになろうとは……。予想だにしなかった。
「そう、だよな」
やはり、元のままではいられないんだ。
分かってはいたけど、やっぱり寂しい。
このまま心まで幼女になってしまったら、俺という人格も消えてなくなるのだろうか。
眠気と共に不安をかき消すように、俺は両頬を叩いた。