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キス時々お風呂



 私は産まれてからキスというものをしたことがありませんでした。ですが、そんな私もファーストキスはロマンチックにしてみたいという夢がありました。少しずつ近づくお互いの顔。恥じらう両者。中々接触しない唇。時間をかけてゆっくりとキスに至る。そんな童貞らしい夢がありました。

 そんな夢も、一瞬で砕かれてしまいました。Fin。


「……(ぱくぱくぱく)」

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ウルリカさんのキスが情熱的すぎて危うく息が止まるところだったぜ……。

 しかしなんだ。どうしてキスしてきたんだ。俺のファーストキスががががが。

 初めてのキスだったからか、どことなく身体が熱い。火照っている。

 心臓はドキドキドキドキと鼓動をうるさくさせている。

 変な気分だった。身体の奥から力が溢れてくるような、不思議な感覚だ。


「こ、これでイオはアタシのアルカナドールになったわ」

「ど、どういうことですかっ!? 説明を要求しますっ!」

「そのままの意味よ。キスであなたはアタシのアルカナドールだと認識される。そして、あなたはこの世界の人間と繋がることでアルカナドールとしての力を得ることができるの。ほら、これ」

「……?」


 ウルリカさんが指差したのはさっきのアルカナカード。

 机の上にあるそれをじーっと見ていたら、空白の所に何やら絵が浮き出てきた。

 1人の人間が、崖の上から世界を見渡している。

 これから旅に出るところなのか、武器と荷物を背負っているようだ。

 自由気ままな雰囲気のある絵の仲の人間は、これから何をしようというのか。希望に満ち溢れているのか、それとも絶望の最中、最後の悪あがきをしようとしているのか。表情からは、何も読み取れなかった。


「こ、これは……」


 見覚えのない絵だ。

 そりゃ世界が違うわけだから見覚えあったらおかしいんだろうけど。


「え……まさか、これって、愚者……?」

「ぐしゃ?」


 何か潰れたん?


「愚か者のことよ。アルカナに属するカードの一つなんだけど、その中でも最も謎の多い化身でね。アルカナドールは基本的に賢者や魔法使いが使役するものなんだけど、この数百年間愚者を召喚した人間はいないってきいているわ」

「じゃあ、レアなんじゃないですか?」

「確かにレアなんだけど……」


 ウルリカさんの表情が曇る。

 何かよくなかったのだろうか。


「愚者は能力が不確定なのよ。与えられたナンバーも0。最強のドールになる可能性も秘めているけど、最弱のドールになる可能性もあるの」

「最弱……」


 弱いのか俺。

 まあ、元はただの引きこもりだからなぁ。最弱説濃厚だな。


「ただ、価値で言えば愚者のドールは最も高いわ。このカードもね。なんだか心配になってきちゃった」


 そう言ってウルリカさんはアルカナカードを握りしめた。

 少しの間口を閉じ、何かに悩んでいる風だったが、ウルリカさんはすぐに顔を明るくした。


「ウルリカさん……」

「――なんてね。あなたはアタシが守る。なんたってアタシはあの大賢者、ファウスト・エスピネルの弟子なんだから」


 えっへん、と両手を腰にやるウルリカさん。

 そのファウストさんとやらは知らないが、大賢者という称号から察するにとても凄い人だったのだろう。


「あなたはもうアタシの大事な仲間よ。誰があなたを狙おうが返り討ちにしてあげるわ。それが例え巨大な魔物であってもね」

「う、ウルリカさんー……」

「よしよしよし」

「ふへぇ……」


 また撫でられて変な声出た。病みつきになりそうだ。


「それじゃ、あなたという存在の確認と説明も終わったことだし、一緒にお風呂入りましょうか」

「――ファッ!?」

「お風呂よ? 知らない?」

「いや知ってますけども……」


 美少女と混浴だと!?

 なんてこったい。ここは天国だったのか。

 いやまて、死んだ後の世界だから考えようによっては天国か。


「知ってるなら話は早いわ。さあさあ行きましょ」

「あわあわあわあわ……」


 強引に奥の扉へと引っ張られる。

 やーめーてー。はーなーしーてー。

 このままでは俺のムスコが大変立派なことに……って、ん?

 今の俺、幼女だった。幼女にムスコとかついてるはずないじゃないか。

 つまりむふふな展開でも心配する必要はない……のか?


「あら? 抵抗しなくなったわね……」

「や、やですよぅ。最初から抵抗なんてしてませんって」

「なんか怪しいけどまあいいわ。さ、ここがお風呂場よ」


 バァン! とウルリカさんが開けた扉の先には脱衣所があり、その奥にはいわゆる風呂場があった。

 見た感じ生前の時のものと大きく変わりはないようだ。これなら問題なくお風呂に入ることが出来るだろう。


「んじゃさっそく」

「わぷ」

「脱ぎ脱ぎしましょーねー」


 来ていたワンピースを引っ張り上げられ、すぽぽんと俺は上半身裸になった。

 やはり幼女である。胸が全く発達していない。俺はロリコンじゃないからちょっぴり悲しくなった。

 だが、ウルリカさんは違う。

 見た感じ巨乳ではないが、それでもしっかりと乳房が膨らんでいる。きっと、あそこには浪漫が詰め込まれているに違いない。


「ふんふんふーん」


 上機嫌に服を脱いでいくウルリカさん。

 その所業の迷いは感じられない。さすがは魔法使い。関係ないか。


「よ、っと」

「ぶ……っ」


 ぽろろんっと胸が躍り出た。

 そう。まさしく躍り出たのだ。

 自分の膨らみを強調するかのように、その二つの乳房は存在していた。大きくはないが、形は素晴らしい。実際に若い女性のおっぱいとか見たことないけどウルリカさんのは凄く綺麗だ。童貞でもそのくらいわかる。

 それにしても世界は違えど人の身体は同じなんだな。そこはちょっとだけ安心した。

 それから下着も脱ぎ、完全に俺とウルリカさんは裸になった。


「さ、入った入った」

「っと、とと」


 背中を押され風呂に入る。

 ウルリカさんがシャワーの蛇口を捻ると、お湯が勢いよく出てきた。


「ほら、そこに座って。アタシが洗ってあげるわ」

「は、はぃ……」


 俺は美少女との入浴ということで完全に委縮してしまっていた。

 背後にはマッパのウルリカさんが。さっき思いっきり全身見てしまったからか、容易に身体を想像できてドキドキしてしまう。

 ドキドキドキドキ……。

 目の前の鏡に映る自分の裸体もそうだが、この美少女に身体を洗ってもらえるというシチュエーションにさっきから心臓が激しく鼓動しっぱなしだ。まずいことに、長く持ちそうにない。このままでは貧血かなんかで死んでまう。


「――えい」

「な、なにを……っ!?」

「イオの身体すべすべしてるわねー。はい、ぎゅーっと」

「ひぃぃぃぃっ」


 石鹸で泡立った身体同士がくっつきあい、見事なハーモニーを造り上げていた。

 ぬるぬるすべすべで気持ちいい。

 背中越しにウルリカさんのお胸様の感触が伝わってくる。というか抱きしめないでくれ。嬉し死にする。


「そんなに照れなくてもいいじゃない。女同士でしょ?」

「そ、そうですけど……」


 あなたはいいかもしれない。

 だが、俺は男だ。見た目は幼女かもしれないが、中身は男だ。

 しかも童貞ですよ? 照れで済んでるだけマシだろう。

 もし仮に元の俺だったら、この状況きっと緊張で死んでたな。危なかったぜ。


「頭も洗っていいかしら」

「ど、どうぞです……」

「ふふ。そんなに緊張しなくてもいいのに」

「うー……」


 軽く言ってくれるなぁ。

 でも、美少女と一緒にお風呂入っているのに、変な気分にならない。もしかしてこれは身体が幼女だからなのだろうか。

 てことはあれか。俺は男の身体を見て興奮してしまうのか。

 ……アカン。そうなったら立ち直れなくなるかもしれん。


「最後にシャワーをざーっとね」

「あばばばばばば」


 ウルリカさんにシャワーでお湯をかけられ、身体中の泡が全て消え去った。


「先に湯船に浸かって待っててね。アタシも身体洗うから」

「あ、はい」


 言われたとおり湯船に浸かった。

 温かくて気持ちが良い。このままゆっくり目を閉じて、まったりしていたくなる。温度も丁度よく、快適だ。

 しばらくまったりしていると、ウルリカさんも身体を洗い終えた。


「お邪魔するわね」

「は、はい」

「……ふう」


 二人分の体積で湯船からお湯が溢れ出た。

 ウルリカさんは俺の後ろに座り、腕を肩に回してきた。

 再びお胸様が俺の背中にあたっている。何度触れてもいいものだ。


「どう? 気持ちいい?」

「気持ちいいです」


 お風呂だけでなくおっぱいも、とはさすがに言えない。


「湯加減は?」

「丁度いいです」


 なんだかゆっくり風呂に入ったのも久しぶりな感じがしたので、余計に気持ちいい。湯加減がいい感じなのもあるのだろうが。


「……あのさ、イオ」

「はい」

「アタシのこと、どう思う?」


 急に不安そうな顔になるウルリカさん。

 どうしたんだろう。


「え……どういうことですか?」

「そのままの意味よ。あなたにとってアタシはドールマスターになるわ。でもそれって、主人と使い魔みたいなものなの。アタシが主人であなたが使い魔。こういう関係って、人によってはどうなのかなって。もしイオが嫌だったら、アタシ……」

「――嫌じゃないです」

「え?」

「嫌なわけないじゃないですか」


 そうだ。嫌なわけがない。

 死んでしまった俺を拾ってくれた。もう一度人生を歩む権利をくれた。それがどういった形であれ、俺は嬉しい。


「ウルリカさんの話では、私は前の世界で死んでいるんですよね」

「ええ。そうなるわね」

「そんな私にもう一度生きる権利をくれたんです。確かにちゃんとした人間ではなかったかもしれないけど、それでも私はウルリカさんに感謝してます」

「イオ……」

「だから、そんな泣きそうな顔しないでください」

「こ、これは……っ、その、……そうね。泣きそうな顔、してたかも。イオったらずっと自分の想いは口にしてくれなかったから、心配だったの。もしかしたらアタシのこと恨んでるんじゃないかって」

「恨むだなんてそんな……」

「でも、アタシは死後の魂を呼び寄せたのよ。記憶はなくてもあなたとしての人格が魂に残っていても不思議じゃない。その人格がこういった行いをどう思ってるかなんてアタシにはわからない。だから、あなたの口から聞きたかった。アタシがしたことをあなたがどう思ってるのか。――……普通のドールマスターだったらこんなこと、自分のドールにきかないのかもしれないけどね」


 言って、ウルリカさんは苦笑いした。

 そこにどういった感情が込められていたかは分からないが、俺は思った。

 ウルリカさんは優しい人なんだと。

 そうでなくては、こんなこと言うはずがない。訊くはずがない。

 この世界にこんな優しい人がいるのなら、俺もこの世界を好きになれそうだと純粋に思った。甘い考え方なのかもしれないけど、生前の俺は人の優しさというものにあまり触れる機会がなかったから、余計にそう思ってしまうんだろうな。


「……この世界のこと、もっと教えてくれますか?」

「ええ。アタシが知っている限りのことを教えてげるわ。――今夜は眠らせないわよ?」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 異世界にやってきた最初の一日は、どうも簡単には終わってくれそうになかった。

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