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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
29/110

流されて無人島③




 ウルリカを乗せた客船は、航海中キングクラーケンに襲われながらも無事に港町レネネトへと辿り着いていた。

 キングクラーケンの攻撃により船の至るところが破損していたが、致命的な一撃はなく航海に支障はなかったらしい。その点はひとまずよかった。

 だが、そんな事よりも、だ。

 ウルリカは船から降りて、延々と人を探していた。


「イオ……いないじゃないの……」


 船から出てくる客の中にイオがいない。

 船の中にいる時もずっと探していたのだが見つからず、仕方なくこの乗客が降りる瞬間に見つけ出そうと思っていたのだが、見つからない。

 もしかして、会いたくないから逃げているのだろうか。

 もしそうだとしたら、どうしよう。


「先に船から降りた可能性もあるけど……」


 1人でイオが動けるとは思えない。

 ウルリカがいないと何も出来ない子なのだ。そんな子が知らない町の中を1人で歩けるとは思えない。

 見ると、船にはもう船員クルー以外誰も乗っていないようだ。

 もう一度イオを探すために船へ戻ろうかウルリカが迷っていると、近くにいた船員クルー達の話声が聞こえてきた。


「2人、冒険者が海に落ちたんだって?」

「ああ。魔導砲撃のための時間を稼いでくれたんだ。彼らがいなかったら確実に船は沈んでいたよ」

「しかし、キングクラーケンが現れるなんて何年ぶりだろうな。とにかく運が悪かったとしか言いようがない」

「そうだな……。――冒険者の1人はまだ幼い女の子だったんだ。小さな子を犠牲にして助かるというのは、申し訳なくて仕方がない。もし2人が生きているなら助けに行きたいくらいだ」

「海に落ちたんだろ? ならさすがにもう生きちゃいないだろうよ」

「分かってる。そんなことは言われなくても分かっているさ……」


 船員クルーは複雑な顔で船を見上げた。

 乗客に助けられ、自分達だけ無事に港に辿り着けたのが心苦しいのだろう。その気持ちはウルリカにも分かる。

 それにしても、冒険者の1人は小さな女の子だったのか。

 もしそれがイオだったら、もうカードに化身は映っていなかっただろう。


「ねえ。その冒険者の女の子ってどんな恰好してた?」


 最悪の可能性も考えて、ウルリカは船員クルーに尋ねた。


「ああ。ええっと確か、活発そうな感じで短剣を武器にして戦っていたよ。それと、髪が銀色で珍しいなと思ったね」

「……え? ちょっとそれ本当なの!?」

「あ、ああ。間違いないと思うけど……」

「そんな……」


 ウルリカの顔がどんどん青ざめていく。

 まさか、本当にイオが海に落ちた……?

 冒険者の1人はイオだった……?

 だが、そうだとしたら何故まだカードに化身が記されているのだ。

 海に落ちて人が生きていられるはずがない。

 奇跡的にどこかに流れ着いたとでもいうのか。


「キングクラーケンが現れた海域って、どんなところだった!?」

「そ、そうだね……潮の流れが強くて、付近にはたくさん島があるような場所だったと思うけど……」

「ということは、イオは波に流されてどこかの島に漂着した……? だけど、そんな奇跡が起こるかしら……」


 ありえないと一蹴しようとしたが、ウルリカは頭を振った。

 現にイオはいないのだ。そして、カードにはイオの生存が記されている。

 生きているはずだ。奇跡的にどこかの島に流れ着いたに違いない。

 海に落ちてそのままというのなら、キングクラーケンが海に沈んでから数時間経った今、イオが生きているはずがない。


「行かなきゃ……」


 自分が助けに行かずにだれが行くというのか。

 もしかしたら、イオは1人寂しくウルリカの助けを待ち続けているのかもしれないのだ。


「イオ……っ」


 もう日も暮れている。

 だが、それでもこのまま何もしないなんてことウルリカに出来るわけがない。


「……っ」


 いてもたってもいられなくなったウルリカは、行動を起こすべく走り出した。






――――――――――――――――――――――――――――――――――







 不意に目が覚めた。

 大きな音がしたとか、誰かに起こされたとかじゃない。

 気付いたら意識が覚醒していたのだ。


「……」


 目をゆっくり開けると、最初に焚火が視界に入ってきた。

 火は衰えることなく燃え続け、洞窟内を暖めてくれている。

 結構眠っていた気がするが、よく燃え続けてたなと思わずにはいられない。


「ディーン、さん……?」


 ゆらゆらと揺れる炎の向こう側に、ディーンさんがいた。

 座っており、眠っている様子はない。


「イオちゃん。ごめんね、起こしちゃった?」

「いえ……」


 ディーンさんのせいで起きたわけではない。

 ただなんとなく目が覚めた。まあ、よくある事だ。


「火……」

「ん?」

「ディーンさんが薪を入れ続けてくれたんですか?」

「そうだよ。火が消えたら寒いからさ」


 笑顔を浮かべながらそんなことを言うディーンさん。

 俺が寝る前は自分もちゃんと寝るとかいってたくせに、全然寝ていないじゃないか。嘘つきだ。


「じゃあ、次は私がやります」

「え?」

「薪、入れます」


 少しだけ強めに言う。


「い、いやいいって。僕がやるからイオちゃんは寝てて」

「いいえそういうわけにはいきません。今度は私が薪入れしますんでディーンさんは寝ててください」

「だ、だから僕は――」

「寝てください」


 有無を言わせない口調で俺は言った。

 だって、そうしないと不公平だ。借りも作ってばかりじゃ申し訳ない。


「イオちゃんって意外と強情だよね……」

「普通ですよ。ディーンさんがお人好し過ぎるだけです」

「そ、そうかな……」

「そうです。スーパーお人好しマンです。今まで見た事ないレベルです」

「それは言い過ぎじゃ……」


 言って、ディーンさんは困ったような顔になった。


「――あ、もしかして幼女の寝顔を見て興奮する人ですか?」

「違うよ!!」

「ロリコン」

「だから違うって!!」

「冗談です」


 ペロっと舌をだしておどけてみる。

 自然とそうしちゃったけど、なんだか今の幼女っぽかったかな……。

 いやまあ俺は見た目幼女なんだけどさ。


「もう、そういうとこまで妹に似なくていいのに……。でも、なんだか懐かしいな。妹はよく僕をからかったりしてきたんだ。でも、そんな妹が可愛くって仕方なかった。たった1人の兄妹だったし、ずっと一緒に暮らしてきてたからね。自分でも理解できてたんだけど、つい甘やかしちゃって。元気がよくて負けず嫌いで、それでいて正義感も強かった。なんだかんだで、自慢の妹だったよ……」

「ディーンさん……」

「あ、ごめん。暗くするつもりはなかったんだけど……」

「――……シスコン」

「ち が い ま す !」


 はぁ、とため息を吐くディーンさん。

 どうやら俺とのやりとりに疲れたらしい。


「というわけで、ディーンさんは寝てください」

「い、いやだから……」

「寝ろ」

「……はい」


 しぶしぶとディーンさんは横になった。

 これでちゃんと休んでくれるだろう。

 大体、俺よりもディーンさんの方が疲れているはずなのだ。

 俺はずっと気絶して眠っていたわけだし。その間ディーンさんは船の破片に掴まってさらには俺も抱えて海を彷徨っていたわけだし。どう考えても俺なんかよりディーンさんの方が疲労が溜まっているはずだ。


「……イオちゃん」

「なんですか」

「ありがとう」

「はい……?」


 なんかお礼を言われるような事したっけ?

 まったく記憶にありませんけれども。


「暗い気持ちにならないように冗談を言って励ましてくれたんだよね」

「あ、いや……えっと……」


 全然そんなつもりはなかったとは言い辛いのですが。

 どこまでお気楽家なんすかねこの人は。

 困った。実に困った。純粋にからかってましたなんて言えないし、なんて返そうかな……。


「ははは、困った顔もそっくりだ」

「……っ!?」

「じゃあ、僕は寝るね。だけど、イオちゃんも無理はしないで。眠たくなったら遠慮せず起こしていいから」

「……はい」

「おやすみ」

「……おやすみなさい……」


 寝る前の挨拶を言って、俺は嘆息した。

 今のって、逆に俺がからかわれたのかな。それとも純粋にそう思われたのかな。

 ディーンさん、食えない男だ……。

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