船上のイケメン③
「…………って、帰ってこないじゃないの!!」
ベスタ大陸から中央大陸へと向かう客船の一室で、ウルリカ・リーズメイデンは吼えた。
先程自身が召喚したアルカナドールであるイオが部屋から飛び出していったのだが、その彼女が未だに帰ってこない。
ウルリカの勘では、すぐに怒りを鎮めてイオは帰って来るはずだった。
だが、もうイオが出て行って2時間が経とうとしている。いくらなんでも遅すぎる。
あの可愛いイオが1人船内を歩いていたら、どんな目に合うか分からない。どんどん焦りがウルリカの心を支配していった。
「やっぱり、探しに行った方がいいかしら……? でも、アタシがここからいなくなったら、イオが帰ってきた時に困るだろうし……」
ウルリカは頭を抱えた。
どうしようどうしようと迷っている間にも、時間はどんどん過ぎていく。
だが、イオを探そうにもこの船内はかなり広い。見つかる保証はない。
それなら、イオがこの部屋に戻って来てくれるのを待っていた方が得策な気がする。下手に探しに行っては、すれ違うかもしれない。
「はぁ……。アタシ、何やってるんだろ」
カードの力を冗談半分で使ってしまった。
その時に、アタシはイオの気持ちを考えていただろうか。
いつものように可愛らしく文句を言ってくるだけだと思っていたのに、今回はそうじゃなかった。
「イオ、泣いてたな……」
部屋から出て行く時、イオは涙を流していた。
怒っているというよりは、悲しそうな顔をしていたのだ。
全ての原因はカードを使ったウルリカにある。それが分かっているから、胸が締め付けられるように苦しい。
早くイオに謝りたい。心から謝りたい。
でも、その本人がいないんじゃどうしようもない。
「やっぱり、探しに行こう」
そう決め、ウルリカは客室を後にした。
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ディーンさんと一緒に船内を歩く。
なんだか注目されているようであまりいい気分ではない。
ただ一緒に歩いているだけでもディーンさんは目立つっていうのに、これでは俺まで目立ちそうだ。
「ど、どうして手を繋ぐんですか!?」
気付けばナチュラルに手をとられていた。
これがイケメンの為せる業か。あな恐ろしや。
「はぐれるかもしれないからね。こうしておけば安心安心」
「は、恥ずかしいんですが……」
「大丈夫大丈夫。イオちゃんくらいの子なら手を繋いでいても変じゃないよ」
「ぐぬぬ……」
ディーンさんの言う通り、幼女だし手を引かれて歩くのは変な事じゃない。
が、幼女なのは見た目だけで中身は男だ。
これは、精神的にくるものがある。
ある意味拷問だ。
「そういえば、一緒に船に乗ったのって誰なんだい?」
「それは……」
ウルリカさんの事をなんて説明すればいいだろうか。
関係的には主人なんだろうが、それではディーンさんに変な誤解をされかねない。
やっぱりここは無難にいくのがいいか。
「姉です」
「そっか。じゃあ早くお姉ちゃん見つけないとだね」
「はい」
周りの客の目線、特に女性を感じながら、俺とディーンさんはウルリカさんを探すべく船内を歩き回った。
部屋を覚えていれば何の問題もなかったのだが、悲しいことに俺は自分の部屋を記憶していなかった。おかげでウルリカさんが俺を探してくれている事にかけるしかなくなってしまったのだ。
船内の色んなとこを探しまわったが、一向にウルリカさんに再開できる気配がない。船が広いから、もしかしたらすれ違っているのかもしれない。
「う~ん、見つからないね」
「そうですね。はぁ、部屋さえ私が覚えていればこんな事にはならなかったのに……」
「部屋……?」
そう呟いて、ディーンさんは考え事を始めた。
しばらくして、ディーンさんは口を開こうとした。
だが、それは船首から響き渡る大勢の悲鳴にかき消された。