船上のイケメン②
で、俺はまた迷うのか……。
「……ここ、どこ?」
イケメン優男ディーンさんと別れた後、俺は再び船内へと入りこんでいた。
無駄に広い船内で、どこがウルリカさんがいる部屋か分からない。
というかまたボイラー室的なとこに来ちゃったんだけど。
俺こんなに方向音痴だったっけかな。転生してそこら辺も変わっちゃったのかな。
「参った……。こりゃ参った……」
トボトボと船内を歩いていると、女の子の手を引いて歩く母親を見つけた。
その姿が俺とウルリカさんに重なる。
傍から見たら俺もあんな感じなのかな。
いや、ウルリカさんはあの母親よりはるかに若いけどさ。俺も女の子よりは年上だけどさ。
あの女の子にはお母さんがいる。でも、今の俺はウルリカさんがいない。
つまりあれだ。小さな子が1人、広いショッピングモールをさ迷い歩く的な。
いわゆる、迷子ってやつだ。
「迷子て……。子供か……」
って、見た目は幼女だった。
ウルリカさんに再開できずに船内を歩く。これを迷子と言わずに何と言うのか。
はぁ……。
急激にあの女の子が羨ましくなってきた。
俺も早くウルリカさんに会いたい。今なら迷子の子供の気持ちが分かる。
心細いんだ。どこか知らない世界に1人迷い込んだみたいで、どんどん不安になってくる。
もしかしたらウルリカさんも俺の事を探してくれているかもしれない。
でも、喚き散らして飛び出しちゃったからなぁ。ウルリカさん、呆れてるかも。
てか、なんで無駄に広いんだよこの船。どこの豪華客船だよ。
狭ければこんなに迷う事もなかっただろうに。
「はぁ……」
再びトボトボと歩き出す。
ホント、なんで自分の部屋を把握してなかったのかな俺。
怒ってたとはいえ、迂闊だった……。
「はぁ……」
「はは、すごいため息だね」
「へ?」
振り向くと、そこにはクソイケメン冒険者ディーン・ハワードさんがお立ち遊ばれていらっしゃった。
ついさっき別れたばかりだというのに、また絡んでくるのか。
ウルリカさんには会えないのに、イケメンとは会えるとか。
はぁ、マジはぁ……。
「いやね、なんかすごく深刻そうな顔してたからさ。気になるなって」
「気にしなくていいですよ。私も気にしませんし。ていうか、なんで私に絡んでくるんですか。ディーンさんはイケメンなんですし、私なんかに構ってる暇ないんじゃないですか?」
「そ、そういう事言う……? 僕だって好きでこんな顔に産まれたんじゃないよ。おかげで他の男の人からは嫉まれてまともに友人いないし……。そのせいで未だにソロだし……」
「女性の方と組めばいいんじゃないですか? そんなにイケメンならいくらでも相手はいるでしょう?」
「う……。そ、その、恥ずかしいんだけど……僕は女の人が苦手なんだ」
「は?」
つい素の反応が出てしまった。
このイケメン面で、女が苦手、だと?
おいおいおい嘘だろ。笑っちゃうぜ。
「女の人が苦手って、それ本気で言ってます?」
「冗談に聞こえるかい?」
「はい。すごく」
「冗談じゃないよ。女性と話すのが得意なら、さっきだってわざわざ君を巻き込んでまで彼女達を追っ払ってないよ」
「それは……確かに」
イケメンにも色々いるんだなぁ。
どいつもこいつも女慣れしてるわけじゃないってことか。まあ、イケメンだからコミュニケーション能力があるというわけじゃないか。
イケメンはコミュ力高いというのは俺の勝ってな解釈だったってわけだ。
なんというか、人それぞれなんだろう。
ちょっとだけ親近感湧いてしまった。
「あれ、でも私も女ですけど……普通に話してますよね」
「ああ。イオちゃんは子供だからね。僕の見ためで寄ってきたりしないでしょ?」
「当然です」
俺が即答すると、ディーンさんは苦笑いした。
「まあ、良く知ってる人ならなんてことはないんだけどね。特にさっきみたいな感じの人達は苦手なんだよ」
「なるほどです。なんとなくわかります」
ああいうグイグイくる系の女子は俺もあまり好きじゃない。
ディーンさんはイケメンだが、中身は結構庶民的らしい。俺のイケメンのイメージとはかけ離れてる。
「それで、イオちゃんは何をしてるの?」
「私は……」
迷子です。とは言えないよなぁ。
恥ずかしくて、ディーンさんに知られたくない。
「ええと、散歩です」
適当に誤魔化していく。
「さっき1人旅じゃないって言ってたから、イオちゃんはお友達か誰かがいるんだよね? その人はどうしたんだい?」
「ええと、部屋にいると思います。多分、ですけど」
「……なんだか歯切れ悪いみたいだけど……。まさか、迷子?」
「――!?」
カーっと顔が熱くなるのを感じた。
恥ずかしい。24にもなって迷子とか。
ディーンさんにばれたかな……?
今の俺は幼女だけど、それでも迷子はないよ迷子は。
「えと、えと……」
ていうか察しいいなこのイケメンは。やっぱりイケメンはこういうどうでもいいとこに気づくんだな。
「迷子じゃ……ないです」
「部屋、覚えてないの?」
「それは……。――はい」
つい、そう答えてしまった。
自然と俯いてしまう。
でも、隠す事でもない、かな。
俺は幼女なんだし迷子くらいするさ。うん。
「はは、イオちゃんしっかりしてるように見えてそういうところは外見相応なんだね」
「……どうして嬉しそうなんですか」
あえてのジト目でディーンさんにそうきいてやった。
「イオちゃん、その年で冒険者になろうとしてるみたいだし、しっかりした子なんだろうなって最初は思ったんだ。でも、子供だしなんでもかんでも自分で出来たら可愛げがないっていうか、なんだろうね。イオちゃんを見てると、何かしてあげたくなるんだよ。なんでかは僕にも分からないけどさ」
「……ロリコン」
「違うからね!? 僕はロリコンじゃないからね!?」
急に焦り出すディーンさん。
何かしてあげたくなる、か。
やっぱりこの人、ロリコンの気あるんじゃ?
ロリコン予備軍ってやつかな。
「私だって好きで迷子になったわけじゃないんです。船が広いのが悪いんです」
「そうだね。確かにこの客船は広いから、僕でも迷うよ。ふふ」
「……もう一度ききますが、なんで嬉しそうなんですか」
「いやね、口を尖らせて言い訳……文句? を言うイオちゃんが可愛くてさ。なんだろう。微笑ましいっていうのかな。君みたいな可愛らしい子が言うと、つい肯定してあげたくなるよ」
「そ、そうですか……。私にはよく分かりません」
「そりゃあ君が分かったらおかしな話だよ。とにかく、迷子ってことなら僕でも力になれる。一緒に探そう」
「う……」
正直、1人でいるのは心細かった。
ディーンさんはイケメンだが、いい人っぽい。ていうか、イケメンは総じていいやつが多い。なんでだろう。
イケメンは苦手苦手って思ってきたけど、実際に話していると信用したくなる。仲良くしたくなる。ホント、ぼっちってなんでこうなんだろう。
こっちの世界に来てからは、生前よりかはコミュニケーションをとれるようになった。だけど、魂と記憶は俺のものだ。エウィンさんにも言われたが、やっぱり人と話すのは得意じゃない。
そういうところも、この旅で克服していけるだろうか。
いや、しないとだよな。俺は変わるって決めたんだし。
よし、そうなればコミュ障克服の第一歩だ。
「よろしく、お願いします」
か細い声で、俺はディーンさんにそうお願いするのだった。