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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
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触手さんとこんにちわ



 船内の奥へ進むと、船長室のような場所へ辿り着いた。

 操縦桿が設置してあり、いかにもといった部屋だ。

 だが、もちろんその船長はいない。さっき裏通りに船長であろうお頭はいたから、いるはずもないんだが。

 で、この船長室には、俺以外に3人の人間がいた。

 1人はさっき逃げた船員クルー。そしてもう1人は管理人さんと思われる耳の長い女の子。

 そして、この船長室にはもう1人異質な人間がいた。


「おや……、これは面白い方が迷い込んできましたねぇ」


 その男は漆黒のローブに身を包み、その手には魔法使いの杖が握られている。どう見ても恰好が海賊の一味のそれじゃない。どこか悪の組織の一員的な危険なオーラを漂わせている。

 だが、どうしてこんなところに魔法使い風の男がいるのだろう。明らかに海賊って柄じゃないし、本当に彼らの仲間なんだろうか。


「ダンナ! このガキ、ただ者じゃねぇよ!」

「ふふ、言われなくとも分かりますよ。どうも普通の人間じゃなさそうですしねぇ」


 くっくっく、と魔法使い風の男は笑った。

 その様子を見ていた船員クルーが困惑した表情になる。


「おい、それは一体どういうことだ?」

「くく、あなたには関係のないことです。邪魔ですし、あなたには少し眠っていてもらいましょうか」

「な――!?」


 とん、っと魔法使い風の男が杖を床に軽く突いた。

 すると、傍にいた船員クルーが急にふらつき始め、しまいには床に倒れ落ちてしまた。

 相手を眠らせる魔法なのだろうか。あんな魔法初めて見た。


「さて、1つ質問をしてもよろしいかな?」


 漆黒のローブに身を包んだ魔法使い風の男が俺に喋りかけてきた。


「質問……?」

「はい。あなたはどのアルカナの化身なのか。それを教えて頂きたいのです」

「な……っ!?」


 どうして俺がアルカナドールだとわかったんだ!?

 エウィンさんのように鼻が利くわけでもないただの魔法使いなのに!


「何故自分がアルカナドールだと分かったのか、という顔ですねぇ。ふふ、ある程度力のある魔法使いならば、相手の魔力量を予測する事は可能なんですよ。アルカナドールは通常の人間よりも魔力量が多いですからねぇ。あなたがアルカナドールだというのは見ただけで分かるのです」

「……っ」


 なんだか嫌な感じだ。

 この男、俺の事をなんでもかんでも見透かしているような、そんな感じがする。正直、内心穏やかじゃない。


「それで、教えて頂けますかな?」

「……嫌だ」

「んん?」

「――教えないって言ってるんだ!」


 叫び、魔法使い風の男に肉薄する。

 恐らくコイツを倒せば全てケリがつく。きっとこの男がこのステージのボスだ。


「この猪突猛進具合……力の化身か……いや、戦車の化身の可能性もありますねぇ」

「――はっ!」

「ふふ……」

「――な!? か、壁!?」


 蹴りを入れたつもりが、魔法陣の壁に防がれてしまった。

 魔法陣の壁……。これも、魔法の一種なのだろうか。


「え……?」

「なに……っ!?」


 が、防がれたと思ったのは一瞬だった。

 次の瞬間、その壁はパァンという乾いた音を立てて崩れ去った。

 どうやら思った以上にこの壁は脆かったようだ。俺の蹴りで壊れるんだからな。大して強度は無かったらしい。


「まさか……私のシールドがこうも簡単に砕かれるとは……」


 魔法使い風の男は困惑している。

 確かに、自信満々に壁を出したにしてはヘボ過ぎる。

 俺も、脚力を集中的に身体能力強化ブーステッドで強化していたわけじゃなかった。威力もない攻撃で破壊されるシールドを自信満々に出すだろうか。


「仕方ありませんねぇ。こうなってはこちらの力を借りなければならないようです」


 不敵に笑いながら、男は杖を片手に何やら唱え始めた。

 数秒後、外で大きな水しぶきが上がった。

 相当でかいものが海へ降って来たのか、海水が海賊船の甲板にまで襲ってきている。


「な、なにが!?」


 何事かと思い窓から外を確認すると、そこには先程冒険者達と戦っていた巨大なクラーケンがいた。魔法使い風の男の口ぶり的に、クラーケンは彼が召喚したようだ。

 クラーケンは海の中に身体の半分を沈めていたが、それでもなお圧倒的存在感をかもしだしている。

 やはり、あのクラーケンはでかい。さっきは高いところから見ていたからそうでもなかったが、今は近くでその巨体を見上げているからか、滅茶苦茶怖い。

 でかさだけじゃなく、触手の量も尋常じゃなかった。普通イカって足は10本なのに、あのクラーケンは数えるのも面倒な程足を持っている。


「ククク、さあ、クラーケンよ! 遊んであげなさい!」


 漆黒のローブに身を包んだ魔法使い風の男がそう言うと、クラーケンの触手が何本も窓ガラスを割り船長室に進入してきた。

 触手達は一瞬で俺の身体に接近し、巻きつこうとする。


「く……っ!?」


 ダメだ。船内が狭すぎて逃げる事が出来ない。

 触手の量もかなり多いし、短剣じゃ全部斬る事も叶わない。

 どうすれば……っ。


「あ――!?」


 右腕が触手に捕まってしまった!

 くそ、どうにかしてほどかないと……!


「え、ちょ……うわあああぁぁぁぁ!?」


 なんという怪力だろうか。

 俺の小さな身体はまるでお人形のように宙に浮かされてしまった。

 そのまま勢いよく宙に舞い上がる俺。船内からも出て、クラーケンに完全に捕らえられてしまった。


「はな……せ! はなせぇ!」


 もがくが、何本もの触手が身体に巻きついていて、引き剥がす事が出来ない。

 くそ! 魔術が使えたら……!

 魔術さえ発動出来れば、この状況を突破できそうだってのに俺は……!


「ちくしょぅ……!」

「ふふふふ、魔術は使えないようですねぇ。やはり力の化身か戦車の化身でしょうかぁ?」


 男が甲板に上がって来た。

 触手に捕まった俺を見て、ニヤニヤといやらしく笑っている。


「……ちく……しょう……!」


 ……管理人さんを助けるどころか、俺が捕まってどうするんだ。

 ウルリカさんは俺を信じて送り出してくれたのに!


「さあ、あなたのアルカナを教えてもらいましょうか」

「誰が……! 誰が教えるもんか!」

「ふふ、強情ですねぇ。ですが、いつまで耐えられるでしょうねぇ」

「何をする気だ……っ!?」


 俺が動けないのをいいことに、ゆっくりと触手が近づいてくる。 

 魔術が使えれば、きっとこんなことにもならなかった。俺が、もっと頑張っていたらこんなことにはならなかったんだ。

 この状況を見て、ウルリカさんはどう思うだろうか。

 魔術を習得できなかった俺を無様だと笑うだろうか。

 触手に捕まった俺が鈍くさいと笑うだろうか。

 ……いや、どっちも違う。

 ウルリカさんはそんな人じゃない。


「…………ッ」


 ウルリカさんならきっと、迷わず俺を助けてくれる。

 言ってくれたじゃないか。あなたはアタシが守るって。なら俺はその言葉を信じて足掻き続けなければダメだ。諦めちゃ、ダメだ!


「まだ……諦めない……っ」


 俺がそう決意した直後。

 爆音が鳴り響いた。

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