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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
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突撃隣の海賊船




 走りながら、俺はウルリカさんが以前言っていた言葉を思い出していた。

 ――ただ旅をするだけじゃなくて、困っている人を助けたり、色んな行事に参加してみたり、モンスターが出れば自分達が率先して戦う。そうやって己を磨くのが冒険者という存在なの。普通に世界を旅して回るだけじゃ、それはただの観光だわ――

 今回の件も、この町を助けるためにウルリカさんは行動を起こした。

 普通の旅人なら、首を突っ込むようなマネはしないだろう。

 だけど、俺達は冒険者になる予定なのだ。それに、ウルリカさんには賢者になる目標もある。こういったハプニングを解決するべく動くのは当然の事だ。

 俺も、逃げずに立ち向かいたい。

 生前の俺は何事からも逃げてきた。でも、今は違う。俺にはウルリカさんがいる。一人じゃないんだ。


「はっ……はっ……はっ……」


 裏通りを抜けると、眼前に海が広がった。

 呼吸を整え、目の前に停泊する海賊船を見上げる。

 かなり大きい。生前の世界にあった貨物船程ではないが、漁船とかのレベルではない。

 海賊船らしく、マストにはドクロのマークが描かれている。高さがあり、上部ではなく下部に船内がある造りになっている。


「誰も……いないのか……?」


 船主にも誰もいない。

 敵は船内に潜んでいるのだろうか。

 それなら、管理人も船内に連れ込まれた可能性が高い。


「よし……」


 意を決し、俺は海賊船へ進入した。

 船主に着地し、内装を確認する。

 そこらにサーベルやら縄やら砲弾が転がっているところを見ると、彼らは結構横着な海賊だった事が分かる。海賊だし、生理整頓が得意な連中ではないということか。

 ……まあ、今はそんな事どうでもいい。

 管理人を探さなければ。


「船内への扉は……」


 目の前に一つだけ。

 他に扉らしきものは見当たらない。

 なら、そこが船内への扉で間違いないだろう。

 一応辺りを警戒しながら、俺は船内へと入った。


「――ケケ、まんまと来やがった!」

「ッ!?」


 船内に入った瞬間、船員クルー達が襲いかかって来た。

 数は多くない。俺の視界には3人の船員クルーしか確認できない。

 これくらいの人数なら、問題はないはずだ。


「死ねガキィ!!」

「……くっ!?」


 銃を構えられ、咄嗟に横っ飛びした。

 直後銃声が船内に響き渡った。

 だが、それだけじゃない。残りの2人も次々と発砲してきやがった。


「っと、とと!?」


 なんとか物陰に飛び込み、難を逃れた。

 だが、どうする……? 銃まで持ってるとなると、多少厄介だ。サーベルだけならどうとでもなるのだが、飛び道具持ち3人相手では室内の狭さもあってやりづらい。

 銃を撃たせる前に叩きたいが、上手くいくだろうか。


「隠れたって無駄だぜ!」

「オラァ!」

「キャハハハハハハッ!」


 ダメだ。考えている余裕はない。

 なら、一か八かやってやる!


「はっ!」


 置いてあったテーブルを蹴り上げ、敵2人の視界を奪った。

 その隙に残りの1人に急接近し、鳩尾に掌低を喰らわせる。

 そいつは小さくうめき声を上げ、気を失った。


「テメェ! やりやがったな!」

「次!」


 腰から短剣を抜き、2人目に飛びかかる。

 真っ直ぐ突っ込むのでなく、跳躍したのは敵の照準を狂わせるためだ。

 直感的判断であったが、その行動が功を成した。

 銃は引き金を引くという動作は早いが、達人でもなければ一瞬で照準は合わせられない。標的が動けばそれだけ狙い撃つのに時間がかかる。


「これで……っ」

「チィ!?」


 短剣を敵の銃に突き刺し、その機能を破壊する。

 敵は咄嗟にサーベルを抜いたが、斬る動作を与えさせるほど俺は遅くない。


「この……ッ」

「……ッ」


 エウィンさんとの特訓で、接近戦のノウハウはこの頭に詰め込んである。

 数多ある知識や技術よりもまず優先的に鍛えなければならないもの。それは、敵を恐れぬ心、勇気だ。

 サーベルで斬られるかもしれない。だけど、だからといって恐れて下がっては勝機を逃す。何度もエウィンさんに言われてきたことだ。ここぞという時は下がらずに前に出る。それが、強者の戦い方だと。


「やぁ!」


 敵が腕を振り上げるよりも早く、俺の回し蹴りが敵の脇腹にヒットした。

 身体能力強化ブーステッドの瞬間火力を蹴りに使う筋力へ回すことにより、幼女とは思えないパワーを出す事が出来る。

 回し蹴りを喰らわせた船員クルーは激しく壁に叩きつけられた。身体は床に崩れ落ち、起き上がる様子もない。


「な、なんなんだこのガキ……」


 最後の一人が顔を恐怖に歪め、後ずさり始めた。

 こうなってしまってはもう終わりだ。相手を恐れれば、それはもう負けたのと同義。


「管理人さんは、どこですか」

「――クソ!」


 最後の一人は、脱兎のごとく逃げ出した。

 仲間を見捨てて逃げるなんて、どこぞのむぎわら海賊団達には考えられない行動だな。まあ、現実はこっちなんだろうが。

 奥にはもう一つ扉がある。

 恐らくそこに管理人さんはいるはず。


「――ウルリカさんは……」


 無事だろうか。

 裏通りには海賊達が大勢いた。

 戻ってウルリカさんを加勢した方がいいのではないだろうか。

 俺がこのまま先に進んでしまったら、もう後戻りは出来ない。多分、数は多くないだろうがこの先にも海賊達が待ち受けているはずだ。そうなれば戻る余裕はなくなる。

 ……いや、大丈夫だ。

 ウルリカさんも言っていたじゃないか。アタシを信じてって。

 なら、俺はウルリカさんを信じないと。俺がウルリカさんを信じてやらないでどうするんだ。きっと、ウルリカさんも俺が管理人さんを助け出せるって信じているはずだ。


「よし……」


 先に進もう。

 そして、管理人さんを助けるんだ。

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