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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
15/110

海賊襲来



 港町コビンを海賊が襲撃した。

 今、コビンの酒場には戦えない人達が大勢集まっている。

 女子供、それに商人。武器を持たないあらゆる人間がこの酒場に避難していた。

 そんな中、俺とウルリカさんとミィは酒場の四階の部屋に避難していた。この部屋は結構高い位置にあり、備え付けられた窓からは外の様子が一望できる。

 海賊の数はさっき酒場に入って来た人が言っていた通り数は少なかった。

 幸い、この酒場に戦える冒険者が多くいたため、序盤はいい感じに海賊を追い払っていたのだが、そう上手く事は進まなかった。しばらくすると、港の方からモンスターが現れたのだ。

 そのモンスターは、海の魔物クラーケンだ。全長約5メートル。幅も相当あり、かなり大きい。しかも、触手の数が多く一本一本が自在に動き複数の冒険者と対等に渡り合っているのだ。

 ウルリカさん曰く、通常のクラーケンはあんなにでかくないし、触手もあそこまで量は無いらしい。通常ありえない姿から、あのクラーケンは海賊達の手によって造られた特別な魔物である可能性があるとウルリカさんは考察していた。


「魔法による生態改変かしらね。あのクラーケン、厄介だわ……。それにしても……」


 眉根を寄せつつも、ウルリカさんはクラーケンを観察していた。

 窓から外を見ると、冒険者達が隊列を組んで戦っているのが分かる。5人くらいの輪がいくつかあり、それぞれチームで連携しながら戦っているようだ。

 前衛の剣士や武闘家、後衛の僧侶と魔法使いみたいな感じなのだろうか。職はそれぞれのチームでバラバラのようで、一概にこれとは言えないが、どこのグループも息の合った戦い方をしている。

 ただ、その冒険者達をクラーケンと海賊一味は圧倒していた。

 海賊の船員は恐らく大して強くない。強いのはあのクラーケンだ。

 クラーケンが大量の触手で四方八方から迫りくる冒険者達をいなし、崩れたところを海賊達が攻めるといった戦法をとっているようだ。クラーケンという心強い味方がいるから、海賊達も強気で攻めれるのだろう。個々の実力で見たら冒険者一人と海賊一人はさほど差は無いように見える。

 だが、敵は大きく攻めてはこない。軽くジャブを入れて遊んでいるかのようだ。


「にゃぁ……」

「ミィ……」


 ミィも怖いのか、か細い声で鳴いた。

 そんなミィの身体を擦る。そうする事で、少しでもミィの不安を取り除けてあげられたらと思ったのだ。


「――あいつら、いつの間にあんなモノ手に入れやがったんだ……」


 近くで外の様子を伺っていた酒場の店主が忌々しげに呟いた。


「それ、どういう意味? 前にもあの連中コビンに来たの?」


 店主の言葉にウルリカさんが食い付く。

 ウルリカさんの疑問通り、店主の口ぶりでは前にもあの海賊達がこの町を襲ってきたかのようだった。


「そうだよ。だが、あんなモノ持ちだしてきたのは今回が初めてだ。前に来た時はクラーケンなんて現れなかった。――にしても、しつこい連中だよ」

「これで海賊の襲撃は何回目?」

「確か6回目だな。その度に冒険者達が撃退してくれていたんだが……」


 店主の顔が曇る。

 酒場の外で猛威を振るっているクラーケンの存在のせいだろう。


「フィオはちゃんと避難出来ているだろうか……」

「フィオ?」

「ああ。コビンの管理人でな。気が弱くてドジでちっこいから町の連中皆のマスコット的存在なんだよ。ただ、フィオはエルフ族でな。しかも魔力が豊富な純エルフなんだ。だから海賊達に狙われているのさ。純エルフは高値で取引されているから、連中は人身売買が目的なんだろう」

「ということは、海賊達の狙いは食料や金目のモノじゃなくて、そのエルフの管理人だというの?」

「そうなるな。まあ、毎回やつらが来る度に屈強な町の連中がフィオを守ってくれてはいるんだが。今回もちゃんとやれてるかどうか分からん」

「……」


 店主の話を聞いたウルリカさんが何やら考え事を始めた。

 その間にもクラーケンと冒険者達の戦いは続いていた。両者共拮抗した戦いを繰り広げているように見える。

 海賊達も慎重なのか、未だに無理に詰めてくる事はしていないようだ。

 ……でも、そもそも目的がそのフィオって人ならば、そこにクラーケンを向かわせるべきなんじゃないだろうか。こんな町の中央で暴れさせなくてもいい気がするが。

 やっぱり何か変だ。なんだか胸がモヤモヤする。


「……そのフィオって子、どこにいるのか分かる?」

「恐らく管理人の家だと思うが。それがどうかしたのか?」

「いえね。目的がその管理人なら、どうしてクラーケンをそちらに向かわせなかったのか気になったのよ。さっき酒場に知らせに来た男性も言ってたけど、ここから見ても海賊の数は少ないし、何か変だと思わない?」

「まさか……」

「ええ。恐らくあのクラーケンは陽動でしょうね。敵の本隊は多分その管理人の家に向かってるわよ」


 ウルリカさんの言葉に、店主は息を呑んだ。

 窓の外のクラーケンは、未だに冒険者達を牽制・・している。

 そう、恐らくは時間を稼いでいるのだろう。町人達の目をクラーケンに向かせ、管理人の家への注意を逸らしているんだ。

 ベタな手だが、あんなに凶悪なモンスターが出て来ては、視線を釘付けにされても仕方がない。現に店主は敵の意図に勘付いていなかった。クラーケンを利用して、その管理人の家まで突撃するのだと店主は勘違いしたのかもしれない。でも、ウルリカさんの話を聞いた後だと、やはり敵の動きは何かおかしい。

 クラーケンは陽動。そういうことなら、何もかもしっくりくる。

 となると、管理人さんが危ない……!

 


「クソ! フィオが危ないのか!? だが、冒険者は全員あの魔物と戦っている……ッ。どうすれば……」

「――管理人の家はどこにあるの?」

「それは……あの高い煙突がある家だが……。どうする気だ……?」 


 焦る店主を横目に、ウルリカさんは俺の方へと視線を向けた。


「話は聞いたわね?」

「管理人さんが危ないんですよね……?」

「その通りよイオ。――様子見は終わりだわ。行きましょう!」

「は、はい! あ、店主さんミィをお願いします!」

「え――? ……って、おい! どうするつもりだお前達!?」


 叫ぶ店主を背後に、俺とウルリカさんは走り出した。

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