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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第一章
13/110

港町コビンへ



 パラス森林を抜け、街道をしばらく歩いていると潮風が吹いてきた。

 海が近づいてきた証拠だろう。ここまで歩いて来て疲れた身体を癒してくれているようだ。


「にゃあぁぁ」


 ミィもようやく海の近くまで来たのが嬉しいのか、甘く鳴き声を上げた。

 俺もミィもかなりクタクタだ。30kmくらい歩いた気がする。5、6時間歩いたのだからそれくらいいっててもおかしくない。こんなに長距離歩いたのは高校の遠足以来だ。あれは苦行だった。心身共に鍛えると言う名目でかなりの距離を歩かされたのだ。実に理不尽な理由である。

 ちなみにウルリカさんはというと――


「――あーもう~キっツイわね! 早く馬車を手に入れないと過労で死ぬわよ!?」

「過労って……」


 ブラック企業に勤めてるわけでもあるいまいし。

 というか歩き疲れたら過労とは言わないような気がする。


「街道は険しい森を歩くより楽なんですし、頑張りましょうよ~」

「そ、そうよね……イオの言う通りだわ。そろそろコビンに着くし、もうひと踏ん張りしますか」

「その意気ですよウルリカさん!」

「にゃ!」


 ミィも俺に便乗し、ウルリカさんを元気づけた。

 それにしても馬車か。ウルリカさん曰く冒険者ギルドに登録すれば借りれるらしいのだが、それってタダなのだろうか。

 どちらにせよ、お金はいる。ご飯を食べるにしてもお金は必要なのだ。故に稼がなければならない。その冒険者ギルドとやらを利用して。


「お、見えてきたわ」


 歩いていると、右に茂っていた雑木林が無くなり、見通しがよくなってきた。

 開けた先には、広大な海が広がっていた。

 この世界でも、海は青色だった。生前の世界と見た目は変わらない。

 ――海。母なる海。

 海といえば水着である。水着といえば美少女である。

 だが、今の俺は幼女。

 この数ヶ月幼女として暮らしてきて分かった事がある。俺はどうやら女性の身体を見ても興奮出来ないようなのだ。だから、自分の裸体を見ても性的興奮は得られない。水着姿を見ても同様だろう。

 まあでも、それでよかったのかもしれない。ウルリカさんなんて美少女といっつも一緒にいるのだ。生前の俺では耐えられなかっただろうしな。


「風が気持ちいいですね」

「ええ。いよいよって感じがするわね。この大陸から出て、世界を回る……。お師匠様も昔世界を旅したってきいたわ。その旅で見聞を深め、世界の情勢を知り、自分を高め賢者の極みへと至った。アタシも、この旅でお師匠様みたいになれるといいな」

「なれますよ、きっと」

「ふふ、ありがとう。イオにそう言ってもらえるとなんだかやれそうな気がしてきたわ」


 さっきまでの疲れた表情から一変し、ウルリカさんはやる気に満ちた顔になった。

 街道の先にはコビンの街並みが伺える。

 パラス森林にあるウルリカさんの家から出て、初めての町。どんな所なのか楽しみだ。


「とりあえずコビンの酒場で休憩ね。それから船に乗りましょ。多分船の中で一泊することになるわ。ベスタ大陸から中央大陸までは半日かかるからね」

「船の中でお泊り……」


 初めての体験である。

 ……ワクワクワク。

 どんなとこなのだろうか。広いのかな。ベッドとかあるのかな。まさか椅子で寝るなんてことにはならないだろうけど……まだこの世界のことがよく分からないから船の中なんて未知の領域だ。

 あ、でも船酔い……。

 ま、まあ、でかい船だったら大丈夫だろう。うん。


「門が見えてきたわ。――っと、あれは」

「モンスター!」

「イオ、お願いできる?」

「はい!」


 左方の雑木林から出てきたのは、獣系のモンスターウルフだ。

 見た感じ狼だが、その牙は生前の世界のそれより遥かに鋭くでかい。噛まれたらひとたまりもないだろう。それにウルフは凶暴で、人を襲う性質がある。肉食だから人も食べるのだろうか。怖い怖い。

 その怖いウルフも一体ではない。彼らは三体同時にやってきた。

 コイツらは常に複数体で同時に現れるのだ。モンスターだけど、知恵がある。考えて行動している。彼らも生きるのに必死なのかもしれない。

 でも、こちらも負けるわけにはいかない。


「お前たちはもう見飽きたよ!」


 高速の突進。相手に近づくのに一秒とかからない。

 一気に肉薄し、先頭にいたウルフの首に短剣を突き刺す。すぐに離脱し、二体目に蹴りを入れる。最後に襲いかかって来た三体目には腹に渾身のストレート。

 身体能力強化ブーステッドのおかげでパワーも段違いである。先頭のウルフは首を切ったので倒れたが、他の二体はピクピクと痙攣している。なんという威力だろう。恐るべし幼女キック&パンチ。やはり物理が最強だな。


「ふぅ……」


 一瞬で三体ものウルフを葬ってしまった。これがアルカナドールの力だ。


「さすがね。ホント、この数ヶ月で成長したなぁ」

「えへへ。ウルリカさんとエウィンさんのおかげです」


 魔法関連はウルリカさんが。体術や戦い方はエウィンさんがそれぞれ俺に教えてくれた。そのおかげで俺はモンスターとも戦えるようになれたのだ。


「最初なんてスライムにビビってたのにね」

「う……、それは言わないでくださいよぅ」


 正直思い出したくない過去である。

 スライムにあんなトコやこんなトコを弄くり回されたなんて今考えると非常に恐ろしい。

 ……あのキングスライムめ。絶対に忘れないぞ。


「う~ん、ウルフからは大していいもの剥ぎ取れないのよね」


 言いながらウルリカさんはウルフの死体を覗きこんだ。

 ウルフの皮くらいしか魔具を生成する際利用できないんだとか。

 そもそも俺には魔具というものがよく理解できていないのだが。

 なんか魔力を込められたアイテムらしいことは知ってるけど、どんなものがあるのかはよく分からない。まあ、ウルリカさんにきけば教えてくれるんだろうけど。


「牙は売れないんですか? 見た感じすごくおっきくて強そうですけど」

「牙は鍛冶にしか使えないのよ。鍛冶屋に売れば多少はお金になるのかもしれないけどね。ただ、剥がすのがちょっと面倒でね。ま、もうウルフの素材は森林歩いてた時にいっぱいゲットしたし、いいでしょ」

「それもそうですね。あれだけ倒しましたし、ありすぎても邪魔になるだけかもですしね」

「ええ。――よーし、じゃあ先に進みましょ。コビンも目の前よ」

「はい!」


 モンスターも倒し、俺とウルリカさんは意気揚々と歩みを再開するのだった。

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