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旅立ち



 とうとう、この日がやってきた。

 旅立ちの日。ポケ○ンの世界なら10歳からのスタートだが、なんと俺は年齢不詳である。見た目は幼女だけどな。

 そういやサトシってあんな小さなバッグでよく十数年も旅出来るよな。俺だったら絶対無理なんだが。

 ちなみに俺達の荷物はウルリカさんの力でほとんど手ぶらである。

 ウルリカさんの力というのは、いわゆる魔法の力なんだが、簡単に説明するとドラ○もんの四次元ポケットみたいなものだ。自由に出し入れできる混沌空間カオスゾーンという領域を持っているらしく、そこに荷物は保管している。フィールド魔法っぽい名前だが、普通の魔法だ。

 今も俺の目の前でウルリカさんがパンティを混沌空間カオスゾーンに収納している。

 そのパンティはずばり俺のモノで、幼女だというのに若干けしからんパンティとなっている。クマさんパンティよりはマシだが、少しアダルティ過ぎる気がする。

 中には見た目相応のパンティもあり、こっちは大分おとなしめである。

 そう。ずばり、パンツなのだ。パンティではなく、パンツ。

 パンツだとキッズな感じが、するだろう? つまりそういうことだ。


「中央大陸につくまでは徒歩の予定だから、動きやすい服装がいいわね……。ええっと、アタシはこれで、イオはこれでいいかしら。てことで服はこれに着替えてね」

「了解です」


 ずずずっと魔法陣の中から俺の服を取り出すウルリカさん。

 いつ見てもどういう原理なのか分からない。これが、魔法使い族の力なのか。攻撃力2500か。ブラックマ○シャンじゃないか。


「よいしょ、っと」


 ずぼぼっと服を着替える。

 軽めのシャツにショートパンツだ。

 実に動きやすい。見た者に活発なイメージを与える。そんな服装だ。


「髪型と相まっていい感じじゃない」

「そ、そうですか?」


 魔道書の部屋に置いてある鏡を見てみる。

 うん。確かにいい感じだ。短い髪型が活発さを引き立てている。

 

「でもイオ。本当にいいの? そんなちっこい短剣が武器で」


 心配そうな表情のウルリカさん。

 しかし、短剣は素晴らしいのだ。なんといっても俺のこの小さな体にマッチしている。エウィンさんから教わった体術にも組み込めるし、個人的には一番戦いやすい武器だと思っている。それもまあ、幼女だからなんだろうけどさ。


「はい。でかいと何かと不便ですし、それに私が大きな剣を担いで街中を歩いていたら変じゃないですか?」

「まあ、多少は浮くでしょうね。でも、冒険者なんて皆変なヤツばかりだと思うわよ? あなたみたいな子が武器を背負っていても大して注目は集めないと思うけど」

「いえ、それでも私はこれでいいです。特に愛着があるというわけでもないですけど、これが一番扱いやすいんで」

「ふーん。そういうものなのね。アタシは武器なんて使わないからよくわからないわ。杖も基本的に使わない派だしね」


 言いながら、ウルリカさんは杖をぽいーっと魔法陣の中へ放り投げてしまった。

 杖、といえば魔法使いが好んで使う武器というイメージがあるけど、ウルリカさんが杖を使って魔術を使っているところを俺は見た事がない。

 この世界において杖というアイテムは、魔力の増幅器なようなもので、魔法使いなら杖を装備しておいた方が何かと便利な代物だ。それなのに杖をいらないというウルリカさんは、余程魔法の扱いが長けているということなのだろう。物理な俺とは正反対である。


「魔道書も一応いくつか詰めておこうかな……」


 ウルリカさんはポイポイポイと適当に本棚から魔道書を取り、魔法陣のゲートへ放り投げていった。

 備えあれば憂いなしというやつか。まあ、いくらでも物を詰められるポケットがあるのだから、詰めない手はない。


「当面の問題としてはやっぱりお金よね……。面倒だけど、冒険者ギルドに登録して依頼を受けられるようにしといたがいいかな。――はぁ、こういうところはやっぱりベスタ大陸の方がいいわね。自由に魔具を売れるんだし」

「モンスターの討伐なら私も手助けできますから、頑張ってお金貯めましょうね」

「ええ。旅にお金は不可欠だものね。面倒なんて言ってられないか」


 よし、と気合の入った声を出し、ウルリカさんは魔法陣のゲートを閉じた。


「まずはベスタ大陸最北端にある港町コビンに行くわ」

「はい」


 エウィンさんの言った通り、ウルリカさんはコビンへ行くと言い出した。

 この大陸から出るには、そのコビンという港町から出ている船に乗らなければならない。エウィンさん曰く、中央大陸へは半日でつくらしい。そこまでは徒歩だ。


「幸いこのパラス森林からコビンはそう離れてない。徒歩でも今日中にはつくでしょ。少し大変だけど、頑張りましょうね」

「はいっ」

「ふふ、気合い十分じゃない。じゃ、行くわよ」


 ウルリカさんの家から出た。

 この家ともお別れか。結構長い間ここで暮らしていたから愛着が湧いてしまったな。なんだか寂しい。

 最後にもう一度、世話になった家を見上げる。

 ここから俺の第二の人生が始まった。きっと、また戻ってこれるはずだ。旅に出るだけで、ここに一生帰ってこれないわけじゃない。

 その時がいつになるのかは、分からないけれど。


「――おう。早朝から旅立ちか」


 そうだ。家だけじゃなくてもう一人挨拶しなければならない人がいた。

 その獣人は俺の方に来て、雑に頭を撫で回してきた。


「エウィンさん!」

「おー、イオ! やっぱり髪短い方が似合ってんな!」

「えへへ、ありがとうございますっ」


 この大きな手に頭を撫でてもらえるのもしばらくないと思うと、やっぱり寂しい気持ちになるな。

 なんだかんだいって、この地でたくさんの思い出が出来た。それはきっと旅に出ても忘れないだろう。もちろん、エウィンさんのことも。


「わざわざ自分から見送りに来るなんて殊勝なことね」

「ああん!? 俺様はイオを見送りに来たんだよ」

「はいはい分かってるわ。しばらく会えなくなるものね。じっくりとお別れを言うといいわ」

「お別れてお前……。まあいいか。イオ、身体には気をつけるんだぞ」

「はい」

「それとミィを頼むぜ。コイツは結構な寂しがり屋だからな」

「はい」

「あとあれだ。……無事に帰ってきてくれよ」

「……もちろんです。また、絶対ここに帰ってきますっ」

「ああ。待ってるぜ。成長したお前さんに会えるのを楽しみにしてる」


 最後に俺の頭をワシャワシャと撫でて、エウィンさんはウルリカさんの方を向いた。


「絶対、無事に帰ってこいよ」

「……分かってるわ」

「よし。じゃあ、行って来い!」


 最後は笑顔で。エウィンさんは俺達を見送ってくれた。

 後腐れないないように、気を使ってくれたのかもしれない。その優しさが旅立ちの前の俺には温かく感じられた。

 もう、思い残すことはない。新たな気持ちで旅に出れる。

 ここから俺は変わるんだ。色んな事を知って、色んな場所に行って、色んな人に出会あう。そんな旅をしたい。

 いや、そんな旅にするんだ。何者でもない、俺自身の意思で。

 人は変われる。引きこもりだった前世があったとしても、手を差し伸べてくれる人がいるんだ。その人と一緒に変わるんだ。こんな俺だって、なりたい自分になれるんだ。


「さあ、旅立ちよ!」

「はい!」


 始まる。

 俺の新たな旅路が。

 一体何が待ち受けているのか。しばらくはワクワクが止まりそうになかった。

これで序章は終了です。

次からは第一章になります。

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