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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第三章
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地下での戦い




 ウルリカ・リーズメイデンは宿敵と対峙していた。

 あちらは二人。1人は宿敵である兄弟子シーグル・セルシェルだ。

 そしてもう1人は、ルージュという名の手品師である。


「すまない、イオを追えなかった」


 ウルリカの元に戻ってきたエリスが開口一番謝罪をしてきた。

 混沌空間カオスゾーンのゲートがイオを飲み込んだのは一瞬だった。そのことに関してエリスを責めるつもりはウルリカにはなかった。


「不意打ちだったししょうがないわ。今はあの子を信じましょう」


 イオならば大丈夫だ。主であるウルリカが信じてやれなくて誰が信じるというのか。ディーンに至っては案の定慌てているが。


「ど、どうしようウルリカ……! イオちゃんが消えちゃったよ……!」


「……少しは落ち着きなさいよ。男でしょう?」


 ウルリカがそう言うと、ディーンは面食らったように目を見開いた。


「そ、そうだね……。イオちゃんも立派な冒険者だ。ごめん、取り乱して」


「ええ。今は目の前の敵に集中するわよ。あいつは強い。他を気にしてたらやられるわ」


 魔導士のローブに身を包んだ男。

 シーグル・セルシェルはウルリカの兄弟子にあたる。同じ師匠の元魔術を学んだ人物だ。


「――それでシーグル、どうするんだい? 彼ら、やる気満々みたいだけど」


 ルージュが口を開いた。

 しかし、どこか軽い調子だ。まるで今からゲームでもやるかのようである。


「手出し無用です。ここは私の管轄。観測者のあなたの手を煩わせるわけにはいかない」


「そう? ボクは別に構わないけどね? 遊ぶのは嫌いじゃないんだ。――でも、君がそこまで言うのなら仕方がない。立場を全うするとしようか」


「お願いします」


 会話が終わったのか、シーグルは杖を構えウルリカたちと対峙する。

 どちらから仕掛けるのか、戦場に緊張が走る。

 が、その沈黙を破ったのはウルリカ自身だった。


「貫け、電光――!」


 ウルリカの手のひらから電撃が放たれる。

 その攻撃を皮切りに、ディーンとエリスもシーグルへと飛び掛かった。


「はぁ――!」


「ふっ――!」


 同時にシーグルに斬りかかるディーンとエリス。

 だが、ウルリカの想像通り、魔障壁によって電撃と2人の攻撃は防がれてしまった。


「シールドの展開が早い……! この男、剣士相手に戦い慣れている――!?」


「エリス、そいつは強敵よ! 油断禁物!」


「そのようだな……っ」


 ディーンとエリスが態勢を整えるべく一度後退した。

 シーグルの魔術はまだ未知だ。下手に突撃すれば手痛い反撃をもらう可能性もある。慎重に戦う必要があるとウルリカは考えていた。


「イオさんならば私のシールドを一撃で破壊していましたがねぇ。あなた方では不可能のようだ」


「そういえばそんなことをあの子も言ってたわね。明らかに不自然だから気にはしていたけれど……。でも、あの子にそんなパワーあるはずないだろうし、何かの間違いかもと思っていたわ」


「残念ながら事実です。よくよく考えてみると一つの可能性に行きつきました。恐らく本人も気づいていないでしょうが、彼女の潜在能力に起因するかもしれませんねぇ」


「イオの潜在能力ですって……?」


 シーグルの言葉はこちらを惑わせるものにも聞こえる。

 だが、ウルリカは妙に納得してしまっていた。彼は何かを知っているのではないか。アルカナドールのさらなる秘密を、ウルリカですら知らない何かを知っているように思えてならない。


「愚者のドールは特別な存在。そのことはウルリカさん、あなたも知っているはずです」


「当然よ。でも、それ以上に何かあるみたいね」


「もちろん。ですが、あなたも賢者を志す者ならば知識は自らの力で勝ち取るべきでしょう」


「言われなくとも……!」


 ウルリカは再度電光属性の魔術を行使する。

 そして、同時に混沌空間カオスゾーンのゲートを展開した。


「これは避けられるかしら!?」


 ウルリカが放った電撃が、ゲートへ吸い込まれていく。

 そして、シーグルの周りにゲートを再展開。雷撃が次々にゲートを通り、ゲートへ戻る。無数の雷撃がシーグルを襲う――はずだった。


「その手は読めていますよ」


「――!」


「――アイスランス」


 ウルリカの背後に現れたシーグルが、魔術で造った氷の槍を放った。

 いち早く敵の奇襲に勘付いたエリスが、すぐさま炎操者ブレイズの能力で迎撃する。


「女帝の能力ですか。炎の使い手とは、属性の選択を誤ったようだ」


「闘技大会を見ていれば私の能力は把握できていただろう」


「あいにく闘技大会などには興味がないのです。ま、魔術の属性など私にとっては些細な問題だ」


 言って、シーグルはさらに杖を振った。

 すると、今度は地下だというのに強風が吹いた。


「旋風属性の魔術か……!」


 ディーンが大剣でウルリカとエリスの前に出てガードする。

 だが、その勢いは衰えることなく徐々に傷が増えていった。


「ディーン、助かったわ!」


「前衛の役目だからね……!」


「私が反撃の隙を作る! 炎よ、敵を討て――!」


 エリスの操る炎が強風の中シーグルに向けて突進する。

 が、やはり相性が悪いのか、途中で掻き消えてしまう。


「なんて威力だ……! だが――」


 エリスが炎を身体に纏った。

 あれは、イオとの戦いのときに使っていた手段だ。

 先日の戦いのときのように、爆発を利用して動きを加速させる。

 ジェット噴射のような動きを利用して、エリスはシーグルに肉薄した。


「強行突破とは、中々やる……! これは仕切り直した方がよさそうだ」


 シーグルは旋風属性の魔術を解いた。

 それほどまでに、エリスの猛攻に危機を感じたのだろう。


「ウルリカ!」


「わかってる、わよ――!」


 強風が止んだ瞬間を、ウルリカは見逃さない。

 鋭い電撃を、シーグル向けて放つ。

 隙を狙った渾身の一撃。だが、それすらも敵は防いだ。


「狙いはよかったですが、まだ甘い……!」


 カウンター気味にシーグルから電撃が飛んできた。

 ウルリカは即座に魔障壁を展開。シーグルの電撃を防ぐことに成功した。


「ウルリカ、危ない!」


「――!?」


 いつの間にか、小さなゲートがウルリカの背後に出現していた。

 目の前のシールドに集中していたウルリカは、その存在にすぐには気づけなかった。が、ディーンが先に気づいていたようで、彼は大剣を捨ててウルリカとゲートの間に飛び込んできた。


 その直後。

 ゲートから電撃が放たれた。

 先ほどウルリカがやった手法と同じものだ。同じ空間魔法の使い手だからこそできる戦法。それをまさかやられるとはウルリカ自身も想像していなかった。


 気づくのが遅れたせいで対処も遅くなった。

 しかし、ディーンはその身を張ってウルリカを守った。

 電撃はディーンに直撃した。

 おかげで、ウルリカは無傷だ。


「ディーン!」


 ウルリカは電撃を受けたディーンの元へ駆け寄った。

 ディーンの身体は痺れ、地面に倒れ伏している。

 やはり、その威力も一級。一撃でここまでのダメージを負わせるとはさすがとしかいいようがない。


「だ、大丈夫……。痺れて身体が動かないだけだよ」


「喋らなくていいわ。すぐに麻痺にきくアイテムを――」


 ウルリカが混沌空間カオスゾーンからアイテムを取り出そうとしていると、シーグルからの追撃が飛んできた。


「させん!」


 だが、その一撃はエリスが剣で弾いてくれた。

 悠長にアイテムを取り出している暇などないことを思い知らされる。


「ウルリカ! 時間は私が稼ぐ! ディーンの回復を!」


「頼むわね!」


「ああ。任された!」


 エリスが1人でシーグルと対峙する形になった。

 その間に、ウルリカは急ぎ混沌空間カオスゾーンから回復アイテムを取り出す。


「最近使う機会もなかったからどこに置いてたかしらね……――っと、あった」


 ウルリカは取り出した瓶の蓋を開け、倒れていたディーンに振りかけた。

 麻痺に訊くアイテムだ。即効性はないが、少ししたら動けるようになるはずだ。


「あんたはそこで寝てなさい。あとはアタシ達に任せて」


「ごめん。役立たずで……」


「何言ってんの。アタシを庇ってくれたじゃない。ありがとう、助かったわ」


 ウルリカがそう言うと、ディーンは目をパチクリさせた。


「……何驚いてんのよ。アタシだって礼くらいするわよ。失礼ね」


「はは……ごめんごめん」


 乾いた笑いが漏れるディーン。

 どうやら身体は大丈夫なようだった。


「さて、と」


 エリスがシーグルと戦っている。

 しかし、押されているようだ。

 兄弟子ながら、シーグルはやはり強い。加えてこれ以上の出し惜しみは、仲間を傷つけるだけであることをウルリカは悟らずにはいられなかった。


「仕方ない。久しぶりに使いますか」


 言って、ウルリカは再び混沌空間カオスゾーンに手を突っ込むのだった。


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