意外な場所で
俺達は予定通りパークスの冒険者ギルドにやってきた。
いつもより人が少ないようだ。これも、闘技大会の影響だろうか。
「さて、手っ取り早くいくとしますか。――ねえ、ちょっといいかしら」
そう言って、ウルリカさんは受付嬢に声をかけた。
「はい。どうされましたか?」
「パークスのコロシアムに地下ってあるの? もしくは、この都市全体に広がる地下があったりとか」
「地下ですか? いいえ、聞いたことがありませんね。しかし、何故コロシアムに地下があるとお思いで?」
「ちょっとした好奇心よ。知らないのならいいわ。変なこと聞いて悪かったわね」
ウルリカさんは手早く会話を終え、俺達は受付から距離を取る。
あの感じだと、本当に知らないようだ。ということは、コロシアムの下には何もないのだろうか。
「他の人にも手分けして聞いてみましょ」
「わかりました」
その後、ギルドにいた冒険者たちにも聞いて回ったが、受付嬢同様にパークスの地下があることを知っている者はいなかった。
聞き込みを終え、再び3人は集まる。
案の定、誰も地下について聞けた者はいなかった。
「知名度が高い場所ではない、ってことなのかな?」
と、ディーンさんだ。
「その可能性はあるわね。でも、仮に地下があるとしてそこへの生き方が判らないとどうしようもないわ。確信も持てないんじゃ、強硬策も取りづらいし困ったわね……」
ウルリカさんは腕を組み頭を悩ませている。
他に知っていそうなのは誰だろうか。
この都市に精通しているとしたら、役人とかお偉い方とかなんだろうけど、残念ながら俺達にはそのパイプがない。急に見知らぬ冒険者がやってきても構ってもらえないのがオチだろう。
「いっそのこと私達で地下への入り口を探してみるとか。どうでしょう?」
「それは非効率だから最終手段ね。といっても、他に方法がないならそうするのも手でしょうけど――」
「お前達、地下を探しているのか?」
と、唐突に知った声が聞こえてきた。
エリスさんだ。どうして彼女が冒険者ギルドにいるのだろうか。
「あら、エリスじゃないの。今日は試合がないとはいえ、勝ち上がってくる選手の実力は見ておいたほうがいいんじゃない?」
「はは、ウルリカの言うとおりだな。本来なら観客席から他の選手の試合を見るつもりだったんだが、少々予定が変わってな。といってもそれももう終わったんだが。ここに来たのはただの気まぐれだ。で、話は戻るんだがお前たちは地下を探しているんだろう?」
「ええ。だけど、だれもその存在を知らないみたいなのよね」
「私は知っているぞ」
真顔でそう言うエリスさん。
どうやら嘘をついているようには見えないが……。
「都市の郊外なんだが、たまたま訓練の途中でおかしな廃屋を見つけてな。気になって中の様子を確認したら地下への階段を見つけたんだ」
「具体的に場所はどこなんですか?」
「都市の北にある居住区跡だ。今は誰も住んでいないようで、人っ子一人いない。おかげで訓練は捗ったんだが――」
「ちなみに、エリスはどうしてその廃屋をおかしいと思ったのかしら?」
「ああ。それはその廃屋だけ最近人が出入りした形跡があったんだ。だから誰かいるのかと思って中を確認した。そしたら地下への階段を見つけたってわけさ」
「なるほど……。地下へ誰かが行き来している可能性があると」
地下で何かを企んでいるのであれば、敵が出入りしていてもおかしくはない。となると、エリスさんが見つけたその階段とやらはビンゴの可能性がある。
「これは臭うわね。エリス、案内を頼めるかしら?」
「構わないぞ。だが、一つだけ頼みがある」
「頼み?」
「ああ。エルーのことだ。ウルリカ、あの子に魔法を教えてやってくれないか?」
まじめな顔でエリスさんはウルリカさんにお願いした。
ウルリカさんも予想外だったのか、反応に困っている様子だ。
「あの子、獣人よね。どっちかというと体術のほうが適正があると思うんだけど……」
「それはそうなんだが、あの子の性格上近接戦闘は難しいんだ。相手を傷つけることを嫌う優しい性格だからな。ならばせめて自衛の手段を習得して欲しいと思ってな」
「う~ん、自分を守るだけってんならそう難しくはないけれど、それだけでいいのかしら」
「ああ。構わない。エルー自身が自分を守れればいいんだ。いつだって私が傍にいるとは限らないからな。もちろん、危険な場所へは連れていくつもりもないが……」
「……わかったわ。2,3日で習得できそうな魔術を教えてあげる。ただ、絶対に習得できるとは限らないわよ。センスと才能も必要だし、アタシもいつまでもエルーに時間を割けるわけじゃないから」
「わかっている。あの子にも抗う手段が少しでもあれば、私も少しだけ安心だ。ありがとう」
エリスさんは最後にウルリカさんに頭を下げた。
アルカナドールが主人のことを心配しているという事実が、俺にとっては新鮮だった。ウルリカさんという主人が、どれだけ強く頼りがいのある人であるかを再認識させられる。
だけど、そもそもアルカナドールは主人を守るために存在する。
俺達の関係が普通なのか、それともエリスさん達のような関係が普通なのか。まだ他のアルカナドールと出会っていないから判別はつかない。
ただ、エルーの場合は少し特殊だから、なおのことエリスさんは心配しているんだろうな。それだけはわかる。
「では、案内するよ。私についてきてくれ」
「ええ。頼むわね」
そして、俺達はエリスさんと共に地下への入り口を目指すのだった。