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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第三章
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ただ者じゃない人




 俺がコロシアムの会場に戻ると、既に二回戦が始まっていた。

 ステージでは知らない2人が戦っている。まあ、当たり前と言ったら当たり前なんだけども。


「――あらイオ、遅かったわね」


「ご、ごめんなさい。ちょっと面倒事に巻き込まれてしまって……」


「面倒事? 何かあったの?」


「はい、実は――」


 そして、俺は先ほどあった出来事をウルリカさんとディーンさんに説明した。大道芸をしていた手品師、あれやこれやで参加させられたこと。そして、その手品師が俺のことをアルカナドールだと見破ったこと。すべてを話した。


「アルカナドールだと見破ったですって……?」


「はい。以前、シーグルが言っていました。ある程度の力を持つ魔法使い、魔術師ならば魔力の違いで判断がつくのだと」


 旅立ったすぐ後に起きた海賊騒ぎの時、シーグルは確かそんなことを言っていたはずだ。俺の記憶が正しければだが――。


「……魔力の量は判別できても、質を見破るのは普通に考えたらかなり難解よ。アタシでも絶対そうだ、と決めつけることはできないわ」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。ドールに精通した者でないと、判断は下せないはず。もしかしたら、その手品師はただ者じゃないかもしれないわね」


 あのウルリカさんがただ者じゃないというと、本当にヤバイ人に見えてくるな……。俺の場合は俺より凄い人ばかりだからただ者じゃない感が増すわけだが、ウルリカさんは実力者だ。その実力者であるウルリカさんがただ者じゃないと言うのなら、相当なものだろう。


「その手品師って、もしかしてこの人じゃない?」


 言って、ディーンさんは大会のパンフレット用紙的なものを俺達に見せてきた。そこには、本戦に残ったメンバーが顔写真付きで掲載されており、名前もしっかりと載っていた。


「こ、この人です……!間違いありません!」


 そのパンフレットには、確かに先程であった手品師が載っていた。写真でも、中性的な顔立ちをしており、性別がどっちか判らない。声も高かったし、本当に性別の判別がつかなかったのだ。


「ええと、名前はルージュ。冒険者ですって」


「ぼ、冒険者だったんですねあの人……」


 どう見ても手品師や大道芸人風だった。服装だってサーカスに出てきそうなマジシャンな衣装だった。控えめに見ても冒険者には見えないのだが……。


「なんだか本名っぽくないわね。芸名的なものかしら」


「冒険者に芸名とかあるのかな?」


「冒険者兼大道芸人かもしれないでしょ。名前を売るために大会に参加したとか、ありそうじゃない? 実際、コロシアム入り口で披露していた手品は大好評だったみたいじゃないの」


「本戦に残るくらいには実力があるって、凄い人だね。手品師と冒険者、どっちが本業なのかな?」


「もしかすると、どっちも本業じゃない、って可能性もあるわよね」


「え……?」


「可能性の話よ。世の中色んな人間がいるわけだし、見た目で決めつけるのはよくないわ。本質を見抜きなさいってよくお師匠様も言っていたしね」


 ウルリカさんの師匠というと、大賢者ファウスト・エスピネルのことだ。

 話を聞いていると、その大賢者のことを、ウルリカさんはとても尊敬しているように見える。


「ま、今はそんなことより目の前の試合に集中しましょ。ほら、良い所だし」


「そ、そうですね」


 ウルリカさんの言う通り、今は目の前で繰り広げられている試合の方に集中しよう。


 試合は佳境のようで、お互いに魔力を出し尽くしているところだ。

 魔法使いVS剣士の対戦カードなので、長期戦になれば魔法使い側の方が不利だろう。


 一対一の試合なら、魔法使いは不利だと思っていたが魔障壁によって物理攻撃を上手くガードして立ち回ることにより、難なく戦闘をこなしていた。これも熟練の技ってやつだろうか。魔法使いは極まると近接戦闘もこなせるのかもしれないと思わずにはいられない。


「さすがにこれ以上は無理そうね……。同じ立場だから、あの魔法使いの男に頑張ってほしかったけど……」


「魔力切れみたいですね。これが試合という形式でなければ、勝負はまだ判らなかったかもですけど」


 魔具を使用して無理やり魔術を行使することもできるだろう。

 それ以上に、回復アイテムで魔力を戻すこともできたはずだ。

 だが、これは闘技大会。そのようなアイテムの使用は禁止されている。


『おおーっとここで魔法使いファビオが降参だー!! よって、勝者は剣術士カエデ・タカムラに決定しましたー!』


 古風な衣装をしたカエデ・タカムラさんが観客席に向けて一礼する。

 礼儀正しい人のようだ。なんだか、名前的に日本人のようにも見える。

 東方の出身とかなんだろうか。剣術士というよりかは侍風だ。


「おしかったですね、魔法使いのファビオさん。さすがにこういうステージ限定の試合だと剣士相手には厳しいみたいです」


「有利ではないでしょうね。アニエスみたいに魔法剣士ならあまり影響はないでしょうけど、あのファビオって男は純粋な魔法使いだったようだし、こういう戦いには向いてないわね。それでも参加して本戦まで駒を進めているわけだから相当な腕であることは間違いないけれど」


「そうだね。試合を見ていたけど、近接戦闘に特化した魔法を使いこなしていたよ。にしてもやっぱり彼も杖を装備していたよね」


 言いつつ、ディーンさんはウルリカさんを見る。

 ディーンさんが言いたいことは判る。ウルリカさんはノーワンド。つまり杖を持たずに魔法を行使している。杖はいわば魔力増幅器。魔具でフォローするのなら初めから杖を持っておけばいいと思わずにはいられないわけで。


「なによ。アタシに杖を使えって言いたいの?」


「使った方が便利なんじゃないかと思ってさ。それにウルリカなら混沌空間カオスゾーンからいつでも取り出せるだろ?」


「……時が来たら使うわ。今は別に必要じゃないってことよ」


 頑なに杖を使おうとしないウルリカさん。

 何かちゃんとした理由があるんだろうけど、俺達には教えてくれなさそうだ。誰にだって言いたくないことや秘密にしたいことはあるだろうからな。俺だって前世の記憶を持っていることを皆に隠している。


『続いての第三試合のカードは、あの有名クラン【ウルスラグナ】から参戦! 【ウルスラグナ】所属冒険者ミハエル・カーディスVS西方の冒険者ライナー・クローチェです!』


 電光掲示板にミハエルさんの名前が映し出された。

 エリスさんの時もそうだったけど、知っている人が戦うとなるといつもよりドキドキするな。


「いよいよ次はミハエルさんの試合ですね」


「そうね。【ウルスラグナ】の5本指に入る実力を見せてもらおうじゃない」


 そして、第三試合の幕が上がる――。


 

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