表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第三章
103/110

手品師

 





 闘神祭のメインイベントである闘技大会の一回戦が終了した。

 結果はエリスさんの圧勝。さすがの実力だった。まだ胸がドキドキしている程だ。


「試合、すごかったな……」


 エリスさんはまだ余力があった。俺と戦った時に使っていた炎の鎧はさっきの試合で使用していなかったのだ。秘密兵器はまだ温存だということだろう。


「っと、さっさと済ませないと」


 俺は、インターバル中にお手洗いへ向かっていた。

 第一試合と第二試合の間には約30分の休憩時間が挟まれる。その時間を利用して観客席を離れているのだ。


 お手洗いは一階の入り口付近にあったはず。

 会場の内部は入り組んでいるから迷わないように気をつけなければ。

 今回は問題なく会場出入り口にたどり着いた。

 だが、出入り口付近で何やら異変が起きているようだ。

 

「――なんだろうあれ」


 入り口近くに人だかりが出来ているのだ。

 屋台にたかっているにしては人が多すぎるような……。

 一度ウルリカさんに報告しようかとも思ったが、今は様子を見るだけ見ておくか。無暗に手出ししなければ大丈夫のはずだ。


「おおおおお!」


「すげえ! これが大道芸ってやつか!」


「王都でもこのレベルの芸は見れないぜ!」


 どうやら芸人が芸を披露しているようだ。

 しかしこの人だかり、いったい何をやっているのか非常に気になる。

 俺の中の好奇心が抑えられずに、野次馬魂を発揮してしまう。

 くそ、あと少しで見えそうなのに背が低すぎて見えない……!


「さあさあ次の挑戦者はいないのかな? ボクにかかれば何でもお見通しさ!」


 芸人の声が聞こえてくる。

 俺は人の波に押しつぶされながら前へと進んだ。

 そして――。

 気づけば最前列にまでやってきていた。

 俺は飛び出た拍子に芸人の前でずっこけてしまう。

 そして、案の定目の前の芸人と目が合ってしまった。


「おや、これは可愛いお客さんだ。どうだい、ボクのマジックに付き合ってくれないか?」


 手を差し伸べられ、俺はすみませんと言いつつ立ち上がる。

 なんとも恥ずかしい失態だ。こんな大勢の前でコケるなんて……。

 俺は顔を真っ赤にしながら芸人の誘いを断ろうとした。


「……キミ、アルカナドールだね」


 芸人から小声で、そう囁かれた。

 その芸人は奇術師のような服装をしていた。そして、手にはトランプが握られている。どうやらこの人は手品師のようだが――。


「な、何故それが……」


「はは、今のは勘だよ。どう? ボクの勘ってすごいでしょう?」


 子供っぽく笑う手品師の少年? 少女? どっちか判らないが、妖しい存在に感じた。見た目はまだ幼そうなのに、どこか底知れぬものを覚える。一言で言うと、ただ者じゃない。


「それで、どうかな? ボクに見えないようにしてこの紙にトランプの数字と図柄を描いてくれるだけでいいんだけど」


「……わかりました」


 始めは断ろうと思ったが、ここで逃げてはいけない気がして俺は承諾した。次の試合まで30分しかないが、この手の手品ならそこまで長くはかからないだろう。というか試合よりも尿意の方が持つかの勝負になりそうだ。


「ありがとう! それでは皆さん、次の挑戦者はこの子です!!」


 手品師が高らかに宣言すると、観客から歓声が上がる。

 俺は若干の気まずさを引きずりながら前へ進み出た。


「それじゃあこれにキミが選んだカードの数字と図柄を描いてくれ。ボクはもちろんそれを見ないから、書き終わったら紙を周りの皆に見せてくしゃくしゃにしておいてね」


「了解です」


 俺は紙とペンを受け取り、それにトランプの数字と図柄を描いた。

 俺が選んだのはクローバーの9。特に意味はない。微妙そうな図柄だからこれにした。


 俺は紙に描いたカードの絵柄を観客の皆に見せた。

 その間、手品師はずっと向こうを向いたままだ。

 この状況で俺が描いたものと同じカードを当てれたら本当のマジックだ。


「終わったみたいだね。それじゃあ、キミが描いたカードを当てようか」


 言って、手品師は向こうを向いたまま、手に持ったトランプを右手から左手にパララララララと連続で弾き飛ばしているようだ。原理は知らないが、出来たらカッコいいやつである。


 そして、手品師は一枚のカードを上空に飛ばした。

 そのカードは奇麗に俺の目の前の地面に突き刺さった。

 俺は緊張の面持ちでそのカードを拾い上げる。


「――クローバーの、9です……」


「おおおお! 正解だ!」


「また当ててみせたぞ!」


 と、俺がカードを観客に見せると、再び一気に歓声が上がった。

 予測通り、手品師は俺が描いたカードを当てて見せた。

 凄い。ずっと向こうを向いていたのに、ちゃんと正解している。


「協力ありがとう。小さなお客さん」


「いえ……。ですが、どうしてわかったんですか?」


「はは! それはもちろんボクがマジシャンだからさ!」


 即答で会った。

 言った後に、そりゃそうかと納得してしまう。


「そ、そうですよね、すみません。変な事を訊いてしまいました」


 相手は手品師なのだからタネを明かすはずがない。

 ほんと、無粋な事が咄嗟に口に出てしまったな。


「いいっていいって。では皆さん、小さな協力者に拍手をお願いします!」


 パチパチパチ――。

 俺は観客たちに一礼してそそくさとその場を後にする。

 なんだか不思議な体験をしてしまった。

 にしても、あの手品師、何者だったのだろうか。

 俺のことをアルカナドールだと見抜いた。以前シーグルが言っていたが、力のある魔法使いならドールかドールじゃないかを見抜けるのは本当のようだ。これはウルリカさんに報告するべきだろう。


「って、早くトイレにいかないと――!」


 俺は尿意を我慢しつつ、急いでトイレへ向かった。

 用を足し、手を洗ってから会場へと戻る。

 その途中で筋肉さんを見かけた。

 だが、誰かを捜しているようで慌ただしい。

 ……今はちょっと声をかけずらいな。

 などと考えていたら筋肉さんはどこかへ消えてしまった。


「――まあいいか。今度筋肉さんを見かけたら誰を捜しているのか訊いてみよう」


 もしかしたら手助けできるかもしれないしな。

 あの館での一件で助けてもらったのだから、今度はお返しする番だ。


『――お待たせしました。まもなく二回戦を行います!』


 実況のアナウンスが聞こえてくる。

 よし、急いで観客席に戻ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ