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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第三章
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シルビア・サリナス




 会場に戻ると、観客席は熱気に包まれていた。

 ディーンさんのおかげで元のポジションに戻ることが出来た。

 もうすぐ第1試合が始まる。そのせいか、俺も少しワクワクしていたりする。


「まったく、ウルリカたちが上空に現れた時は騒ぎにならないかとドキドキしたよ。いくら効率が良いからって、大胆過ぎやしないかい?」


 ディーンさんは俺達が上空から探知魔法を発動させたことに気づいていた。しかし、会場が騒ぎになっていないということは、幸い気づいた人はあまりいなかったのだろう。多分。


「みんな目の前のステージに釘付けでしょ。上空を見上げる物好きなんてアンタくらいのものよ」


「そ、そうかなぁ。何も事情を知らない人が見たら怪しさ満点だろうから、絶対騒ぎになってたよ。せめてステルス魔術を使って欲しかったかな……」


「そこまでは気が回らなかったわ。ま、ばれてないんだから結果オーライね」


 お気楽な様子なウルリカさんと胃を痛めてそうなディーンさん。

 いつもながら対照的な2人である。

 俺も誰かに見られていないかとヒヤヒヤしていたので、一安心だ。


「――そこの魔法使い、少しいいかな」


 と、唐突に何者かに声をかけられた。

 正確には魔法使いということなのでウルリカさんが声をかけられた。

 このタイミングでの声掛け、非常に嫌な予感しかしない。

 と思っていたら、声をかけてきたのはさっき話していたクラン【レギンレイヴ】の冒険者だった。


「――? アタシかしら」


「ああ。私は【レギンレイヴ】所属のシルビア・サリナスという。先ほどの上空からの探知魔法、お前の仕業で間違いないか?」


「ええ、そうだけど」


 堂々と答えるウルリカさん。

 さすがの度胸に俺も驚きである。


「やはりそうだったか。ウチの魔法使いがお前の術に勘付いてな。上空にいたやつと姿が似ていたから声をかけたのだ」


「あら、見られてたのね」


 ケロっとした様子で言うウルリカさんに、ディーンさんが頭を抱える。

 全く悪びれていないところは、さすがとしかいいようがない。

 ウルリカさんはミハエルさんにフォローを頼んでいたようだが、さすがの【ウルスラグナ】でも、【レギンレイヴ】の魔法使いの目はごまかせなかったようだ。

 


「お前はわざわざ会場全体に探知魔法をかけた。加えてこの大会、どういうわけかウルスラグナの連中も潜り込んでいるようだ。私の勘がここで何か起きると告げている。……お前、何か知っているんだろう?」


「ええ、知ってるわよ」


 即答するウルリカさんに、シルビアさんは面食らっていた。

 完全にテンポを乱されたシルビアさんは、少し狼狽えていたが、すぐに調子を取り戻す。


「……やけに素直に答えるんだな。まあいい。【ウルスラグナ】の一員ではなさそうだが、何者だ?」


「アタシはウルリカ・リーズメインデン。ただの冒険者よ。んで、こっちがその仲間のイオとディーン」


 急に紹介されたので、軽く会釈をする。

 シルビアさんをまじまじと見ると、美人な冒険者。それが第一印象だった。腰に剣を差しているところを見るに剣士なんだろう。切れ長の目と金髪が印象的で、どこか武人然とした佇まいだ。


「ただの冒険者があのような広範囲探知魔法を使えるとはな。名のある魔法使いかと思ったくらいだ。お前程の魔法使いは恐らくウチにもそういない。どうだ、【レギンレイヴ】に入る気はないか?」


 いきなりの申し出に、案の定ウルリカさんは嫌そうな顔をしていた。

 誰かの傘下に入るというのが嫌いのようだ。ウルリカさんらしいが。


「申し出はありがたいのだけど、遠慮しておくわ。アタシは自分たちでクランを作る予定だから。アンタがこっちのメンバーに加わってくれるのはウェルカムだけどね」


「そうか。本当に面白いやつだな。冒険者なら【レギンレイヴ】に誘われて断る方が珍しいぞ」


「普通の冒険者ならそうでしょうね。でも、アタシ達はちゃんと冒険者したいから。他の誰かが作った家に入ってぬくぬくと冒険者をするつもりはないのよ」


 ウルリカさんが言い返すと、シルビアさんは面食らった顔をした。

 そして、すぐにクックと笑いだす。


「今時珍しいよ、本当に。真の意味でお前たちは冒険者なんだな。悪かった」


 シルビアさんは真摯に謝罪をしてきた。

 なんだか、この人は悪い人ではなさそうだ。


「――では、話を戻そう。この闘技大会で、何かが起こる。そして、そのことをお前たちは事前に察知している。そういう認識で間違いないか?」


 真剣な表情で訊いてくるシルビアさん。

 果たして、ウルリカさんは何と答えるのだろうか。


「そうね。何かが起こることは把握しているわ。ただ、具体的に何が起こるのかはまだわからない。だからこうして警戒しているのよ」


「探知魔法はそのためか。となると、魔術による罠か仕掛けが用意されているとみるべきだな」


 さすがの洞察力だ。【レギンレイヴ】所属の冒険者。やはり、ただ者ではない。


「ええ、その通りよ。といっても、アタシ達は【ウルスラグナ】に協力しているだけの身。詳しいことは彼らに聞いてちょうだい」


「そうだな。本戦のメンバーにあのミハエル・カーディスもいることだ。恐らく指揮は彼が取っていることだろう」


「あら、ミハエルって有名なの?」


 ウルリカさんが素朴な疑問を漏らすと、シルビアさんは噴き出した。

 何か面白いことをウルリカさんは言ったのだろうか。


「おいおい、ミハエル・カーディスといえば【ウルスラグナ】の中でも5本の指に入る冒険者だぞ」


「あの大クランで5本の指……。そうなの、ディーン?」


 ウルリカさんがディーンさんに尋ねる。


「いや……僕も知らなかった。最近名を上げてきた冒険者なのかもしれないね」


「……ふむ。確かに、ミハエルが台頭してきたのは最近の話だな。我々の間では有名だが、一般的にまだ名が知られていないのも無理はない、か。笑ってしまってすまなかった。認識のズレがあったらしい」


「別に気にしていないわ。それで、アンタ達も敵組織の計画の阻止に協力してくれるのかしら?」


「無論だ。【ウルスラグナ】に遅れをと取るわけにはいかないさ」


「それは助かるわ。それじゃ、詳しい話はミハエル達【ウルスラグナ】側から聞いてね」


「ああ、そうしよう。――っと、そろそろのようだな」


 シルビアさんがそう言うと――


『皆さま! 大変お待たせいたしました! ただ今の時刻を持ちまして闘神祭のメインイベント、闘技大会本戦を開始いたします!!』


 実況のアナウンスで、会場のボルテージが一気に最大まで引きあがった。

 歓声と雄叫びが入り混じるコロシアムは、今から行われる戦いを歓迎するかのようにうねりを上げる。


『それでは早速始めていきましょう! 第一試合のカードはこちら!』


 電光掲示板にでかでかと名前と顔が映し出される。

 エリスさんとその対戦相手だ。

 対戦相手の名前はライネル・セレーニ。見たところ普通の冒険者のようだ。


「試合も始まるし、私は戻るとしよう。何かあったら【レギンレイヴ】はお前達に手を貸す。それじゃあな」


 そう言って、シルビアさんは俺達の元から去っていった。

 そうしているうちに、ステージに選手2人が入場していた。

 エリスさんとライネル・セレーニさん。さすがに本戦に駒を進めただけあって大剣を抱えたライネルさんも強そうだ。


『第一試合、アルカナドールのエリスVS孤高の冒険者ライネル・セレーニ! それでは両者位置について――


 エリスさんと対戦相手のライネルさんがステージで対峙する。

 緊張の瞬間。会場の観客も一斉に息をのんだ。


「――試合開始ィ!!』


 ゴングの鐘の音と共に一気に歓声が爆発する。

 さすがはメインイベント。皆この瞬間を待ちわびていたかのようだ。


「――始まったわね」


「エリスさん、頑張って……!」


 俺は自然と握りこぶしを作っていた。



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