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服従のアルカナドール  作者: ゆらん
第三章
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過ちは繰り返さない






「――お、俺達が知っている情報はこれだけだ……! 頼む、許してくれ……!」


「……ふ~ん、これ以上は何も知らないってことかしら」


「ああ! 俺達はただの協力者なだけなんだ! あのお方のことも全然知らないし、ましてや組織の情報なんか持ってねえ!」


「……ま、大体想定通りね。でもまあ、アンタは眠っておきなさい」


「ぁ……――」


 ウルリカ・リーズメイデンは目の前で怯える商人に、催眠魔術をかけた。

 他にいた冒険者崩れたちも、既にウルリカの手によって地面に倒れている。


 例の商人から聞きたいことは聞いた。

 ロメオという男は組織の一員であること。計画の全貌は知らされておらず、ただの取引相手だということ。商品が吐いた情報は、ウルリカの予想通りの回答だった。


「さて、すぐにイオの元へ向かわなくちゃ」


 商人への尋問を軽く終わらせていたウルリカは、すぐに仲間であるイオの元へ向かう。


 アルバンが逃げた方角的にこっちで間違いないと信じウルリカは走る。

 すると、路地裏の入り組んだ道に迷い込んでしまった。


「……面倒だし魔術でこの辺一帯ぶち抜いてやろうかしら。ああでもそんなことしたら関係のない人まで巻き込んじゃうわね」


 物騒な事を口にしながら、ウルリカはひた走った。

 イオの脚ならば、もう結構の距離を行っていてもおかしくない。ディーンも一緒に行かせたが、恐らくついてはいけないだろう。


 そうこうしているうちにウルリカは違う方の仲間を発見した。

 やはりというべきか、イオに置いて行かれたのだろう。

 ディーンは路地裏の迷宮で1人オロオロしていた。


「何やってるのディーン」


「あ、ウルリカ! 商人の方は大丈夫だったの!?」


「ええ。護衛の冒険者がいたけど全員仲良くのしてやったわ。ま、殺しはしてないから安心しなさい」


「それは一安心だね」


「――で、イオはどうしたのよ」


 ウルリカは軽いジト目でディーンに尋ねた。


「そ、それがですね……はぐれてしまいまして」


 申し訳なさそうに言うディーンに呆れるウルリカ。

 といっても、こうなることは想像していたことでではあるのだが。

 スピードという面では、パーティの中でイオに勝る者はいない。


「はぁ……。まあ、あの子がそう判断したのなら仕方ないわね。相手は逃げ足の速いアルバンだったし。それに、どうやらこれは計画されたことだったみたいだしね」


「計画された……? どういうことだい?」


「さっき、あの商人が全部ゲロったわ。連中、性懲りもなくイオをまた狙おうとしていたらしいのよ。それでここでアタシ達を撒くために準備してたんでしょう」


「ど、通りでアルバンの動きに迷いがなかったはずだよ……。初めから僕らはおびき寄せられてたってことか」


「そういうこと。となるとこれはまたイオが危ないわね」


「そ、そうだよ! 急いでイオちゃんを捜さないと!」


「そうね」


「そ、そうねってそんな悠長な……!」


 狼狽しているディーンを横目に、ウルリカは考える。

 イオならどうするか。恐らく待ち伏せにあっているだろうあの子が、どのような行動をするのか。主であるウルリカなら多少なりとも考えが読めるはずだ。


「東方の旅団の残党に出来ることなんてたかがしれてるはず。なら、アタシ達の目的のためにあの子がどうするか。きっと――」


 と、ウルリカが言いかけた瞬間。

 北の方角の上空で、何かが小さく光った。

 よく見ていないと判らないレベルの光だが、ウルリカはそれを見て、全てを把握した。


「さすがはイオね。ディーン、行くわよ!」


「わ、わかった! でも、イオちゃんがどこに行ったのかわからなくて……」


「場所はさっき分かったわ。アタシについてきなさい」


「よ、よくわからないけどウルリカがわかったっていうのなら信じてついていくよ! 僕には何が何やらだけど!」


 そうして、ウルリカはディーンを連れ再び走りだした。

 あの照明弾の位置はそう遠くない。ここからなら走って5分くらいだろう。それまでイオが持ちこたえてくれればいいが、最悪離脱していてくれて構わない。一番大事なのはイオが無事でいること。そうウルリカは考えつつ路地裏の迷宮を走った。


 約5分程走ったところで、戦闘音らしきものが聞こえてきた。

 この先は先日イオとエリスが戦った空き地だ。

 ウルリカはなるほどと思った。ここならば伏兵も準備しやすい。


「もう少しよ!」


 路地裏の細い道を抜け、例の空地へとたどり着く。

 そこにはやはりというべきか、イオとたくさんの傭兵風の男達が戦っていた。どうやらイオは逃げに徹しているらしく、ちょこまかと敵の合間を走り抜け続けている。


「ちょこまかと逃げやがって――!」


「くそ、身体が小さいせいで捉えづらい――!」


「人数で包囲しろ! 相手はたかが子供1人だぞ!」


 そこにはアルバンもいた。あのモヒカン頭、見間違うはずもない。

 ウルリカたちを罠に嵌めてイオを誘拐した東方の旅団の残党。調教師であったチックはマルティーニファミリーのヨハンが落とし前をつけたが、アルバンには逃げられたままだった。借りを返すには絶好の機会と言える。


「イオちゃん!」


 ディーンが剣を片手に敵の群れに突撃した。

 同時にウルリカも魔術を行使する。


「奔れ、電光!!」


 電光属性の魔術で、敵をまとめて攻撃する。

 傭兵崩れの数人に電撃がヒットし、痺れて動けなくなる。

 こちらのことに気づいたイオは、敵を一か所にまとめるような動きを開始した。さすがはイオだ。こちらのして欲しいことを口にして出さなくても理解している。


「さすがイオね。これで一網打尽に出来る――!」


 再び電光属性の魔術を放つ。

 イオに気を取られていた敵は、全員魔術の餌食となった。

 20人くらいだろうか。アルバン以外の敵は全員身体が痺れて地面に倒れている。


「――残るはあなた1人です」


「クソが……! こうなりゃコイツを――」


 言って、追い詰められたアルバンは懐から何かを取り出した。

 禍々しいペンダントだ。あれに、ウルリカは見覚えがあった。

 以前、ミカエラを救出した際に、チックが使った魔具。それにとても似ている。


 あのペンダント型の魔具は、チックのものと同じであれば使用者を化け物に変える効果があるはずだ。化け物になったからといえ、こちらが負けることはまずないが、ペンダントを確保し調べることが出来れば何か掴めるかもしれない。


「その魔具は使わせないわ――」


 と、ウルリカが再び魔術を放とうとした瞬間。

 イオが目にもとまらぬスピードでアルバンに肉薄し、ペンダントを弾き飛ばした。そして、鳩尾に一撃。恐らく身体能力強化ブーステッドを攻撃に回したのだろう。その一撃でアルバンは気を失い倒れた。


 イオはペンダントを拾い上げ、こちらにやってくる。


「ウルリカさんなら気づいてくれると思ってました」


 言いつつ、イオはペンダントをウルリカに渡してきた。

 気づく、とはさっきの照明弾のことだろう。恐らく、電光属性の短剣に魔力を込め、空に打ち上げたのだ。ウルリカが作った装備である。応用すればそういうことが出来ると把握はしていた。しかし、それに自分で気づき実行したのはイオだ。彼女は確実に成長している。


「もちろんよ。おかげで居場所がわかったわ」


 ウルリカは受け取ったペンダントをまじまじと見つめる。

 手に取ると尚更嫌な感じだ。いったいどういう製造方法で造ったのだろうか。

 持ち帰ってじっくりと調べてみないことにはさすがのウルリカでも成分までは判らない。


「なんなんでしょうね、それ」


「今の段階では何とも言えないわね。調べれば何か判るかもしれないけど……」


 このペンダント型の魔具も、シーグル達が絡んでいるのだろう。彼の背後に蠢く組織とやらも、今のウルリカの持つ情報だけでは全貌を掴めない。これからも相まみえることになる。そう彼女は感じていた。


「それで、彼らはどうするんだい? このままここで放置するわけにもいかないし、縛り上げるにしてもこの人数は少し骨が折れるな」


「そうね――。ミハエルに頼んで都市の治安組織に引き渡すのが丸いんじゃないかしら。あいつならウルスラグナの一員だしそういった組織とも顔も利くでしょ」

 

「ですね。――というかウルリカさん。情報はもういいんですか?」


「ええ。例の商人に洗いざらい吐いてもらったわ。魔術で脅してちょちょいのちょいよ。ま、案の定今回の計画とやらにこいつらはそこまで深入りしてなかったようだから、聞き出せた情報もたかが知れていたけどね」


「そ、そうだったんですね。にしても敵はどうやって旅団を利用したんでしょう?」


「なんか高価な魔具をたくさん貰ったそうよ。恐らくシーグルやゼルマの作でしょうけど、売ってしまえば作り手なんてどうでもいいしね。で、その見返りに資金提供とか交渉とかを旅団がしてたらしいわ。幻獣化計画ってのは名前だけ知らされていて、中身までは詳しく聞かされてなかったみたい」


「なるほど……。なら、やっぱりただの協力者ってことか」


 ディーンが顎に手を当てうーんと唸った。


「そういうこと。まあでも、そのおかげで大会関係者を買収出来たんでしょうし、無駄ではなかったようね。にしても、懲りない連中だったわね……。まあ、さすがにこれで一網打尽でしょ。東方の旅団もこれで終わりでしょうね」


「ああ。奴隷商に手を染める連中なんて崩壊してくれって感じだよ。イオちゃんに二度も手をだそうだなんて本当に腹立たしいね」


「ま、まあ、今回は前回のように油断はしてなかったので何とかなりました。私だって、同じ過ちは繰り返しません」


 そう言うイオは、頼りがいのある表情をしていた。

 ウルリカも、イオの成長には素直に喜んでいる。パートナーの成長とは、やはり嬉しい物であった。

 

「よし。それじゃあミハエルに連絡してっと――」



 それからミハエルに一報入れ、仲間をここに送ってもらうことになった。

 すぐに来てくれるとのことで、しばらく空き地で時間を潰す。

 物の数分でウルスラグナのメンバーが数人やってきて、旅団の残党を丁寧に縛っていった。


 だが、本番はこれからである。

 ウルスラグナのメンバーが残党全員を拘束するのを確認してから、ウルリカ一行は闘技大会本戦が開催されているパークスのコロシアムへと向かうのだった。


 

 

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