出会い。
彼の仕事は車屋さん。
彼は、年中忙しいと言っている。
実際、休みも無く、毎日夜遅くまで働いている。睡眠も、取っているんだかいないんだか分からない。
私は、いつも心配して小言を言うのだが、彼は、一切気にせず、自分のペースを守り続けている。マイペースと自己中は紙一重だなと思う。
毎年、何回か連絡が取れなくなる。イベントがあった翌日だ。
寝ているのだそうだ。いいことなのか悪いことなのか。
何日も寝ないで仕事をし、イベントが終わってしまえば、死んだように眠る。
やっぱり、自己中なのかもしれない。
私は、毎年同じことがあるのにもかかわらず、必要以上に動揺し、慌てふためく。
夕方、18時とかになって、ようやくメールが届き、私のした行動に彼は怒りをうったえる。
連打でメールをしたり、電話をしたり。心配されることに苛立ちを感じる人なのだ。自分の中にもきっと不安な要素があることを知っているはずなのに、私が必要以上に心配する事を彼は嫌う。
私達は、出会うべくして出会ったのだと思う。初夏。といってもかなり暑く、ベタベタする風が吹く夜に出会った。
私達姉妹は、そういったところに必ず二人で出かけていた。
少し有名な姉妹だったそうだ。
彼の所有する車は180SXで、世間一般的に言う改造車だ。
私はその車に一目惚れをした。
かなりたくさんの人だかりの中、オーナーであるところの彼を見つけ出し、声をかけた。
「写真撮らせてもらってもいいですか?」男性の中でかなり浮いていたと思う。
周りには男しかいない。そういう場所だ。
「いいよ」彼は、そっけなく言った。
夢中で写真を撮り、お礼を告げた。
車がひしめき合うその場所を、妹とかなりの目線にさらされながら一周し、彼らがたむろする場所まで戻ってきた。
道路に座り込み、談笑する人の中に彼も座っていた。中心人物らしいオーラをはなっている。
相当悪い集団だと思った。だって、地べたに何人も座って、高校生じゃあるまいし。
彼は、真っ直ぐこっちを見て、言った。
「ねえちゃん車何乗ってんの?」
私は一瞬びびったが、なんとも無い顔してできるだけそっけなく答えた。
「シルビア」
彼の目が輝いたように見えた。
確かに、女で、その手の車に乗っている人はあまりいないだろう。
彼は続けた「電話番号教えて」
こんなにストレートに男の人に番号を聞かれたことが無かったので、驚いたが、悪い人ではなさそうなので、雰囲気にのまれ番号を教えた。
そこから二人の長い、不思議な日々が始まる。
私は何も知らないただの女の子だった。
彼は、普通の人と少し違う深い目をしていた。
そこに惹かれたのだと思う。
二人とも今に比べて、ずっと楽天的だったし、若かった。それだけのことだ。
また近日中に。