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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(サイドストーリ集)  作者: 一 止


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第3話  新たなる時代の始まり。その後(3)

 泉 遥一等陸尉は理不尽な命令に対して、やりきれない気持ちを押し殺していた。我々が日夜、厳しい訓練をしてきたのは、国土と人民を他国の侵略者から守る事であって、人外の怪物相手に戦う事ではない。しかし状況がそうもいって要られなかった。要救助者がいる以上、助けに行かない訳にはいけなかったのだ。


 東京駅の前の広場に前線指揮所を設けて、救助に向かった隊員の報告は、どれも目を、いや頭がおかしくなったのでは無いかと思われる様な内容ばかりだったのだ。自分の眼で確かめるまでは信じられなかったが、一メートルを超す蟻と相対した時の恐怖は並大抵のものでは無かった。


 救いがあるとしたら、自衛隊の装備品である銃火器がその蟻にも通用していることくらいだが、とにかくその駅舎の中が滅茶苦茶なのだ。駅舎の上のホテルは分かるとしても、二階のホームに三階は無いはずなのに、上の階に向かって階段とエスカレーターがあるのには驚いた。登ってみると、地下二階にあるはずの店舗街と来た。


 非常識をバケツの中に突っ込んで、そのままぶちまけた様な出来事に、白昼夢を見ているのでは無いかと、何度も自問自答して居た日も今日で三日目となる。捜索に駆り出されている隊員の体力もそろそろ限界に近い。他の部隊と変わる事も検討しているのだが、都市部を中心にその不思議な空間が増えていってはそうも言っては居られなくなった。


 「良し、第八班は帰ってきたな。要救助者と負傷者を救護班に回して待機に入れ。第二班と第四班は、20分後に捜索に入る、二班には私も同行すると伝えろ」泉一等陸尉が部下に命令する。この三日間救助出来た人数は数十人と行方不明者の数を考えると一割にも満たない。不思議な空間が現れたのが通勤通学の、時間帯で無かった事が不明者の人数がこの程度の数で済んでいる。


 「分かりました。しかし捜索隊と連絡が取れないのは痛いですね。有線を使っても切断されてしまうのではお手上げです」という部下の言葉に。


 「我々の常識など知った事では無いのだろうさ。とにかく今ある装備で対処するしかない、しかしくれぐれも無茶な事はしない様に部隊内に通達してくれ。どうも長丁場になりそうな予感がするよ」と泉一尉が疲れた様に言った。


 そのころ海慈達は、二階層を上がったところで、立ち往生していた。店舗内に隠れて、怪物をやり過ごしている事に変わりは無いが、これ迄の怪物から身を潜めている生活に精神がすり切れて居たのだった。「もう一歩も動けないから、私達をおいて行ってくれ」という老夫婦を前に海慈は思案に暮れていた。


 田中と荒川を先行させて、救助隊の人達とコンタクトを取ってもらう案も考えたが、危険が大きすぎた。取り敢えず休息をしてもらって、明日もう一度移動してもらう事にした。


 「諦めないでください。もしかしたら此の上が地上に繋がっているかも知れないですから、明日体力が回復してから考えましょう」と言って二人を落ち着かせたが、状況はあまりよくない。悪い事は重なるもので、隠れている店舗の外を警戒して居た荒川が来てくれと呼びに来た。


 「どうしました?」入り口の傍に身を寄せて外を窺っている田中に聞いた。彼は振り向きもせずに声を殺して言う。


 「見た事も無い怪物です。姿形からカマキリのようですが、大きい。天井に頭が付きそうな大きさです」海慈は田中の陣取っている扉の反対側から覗き見る。


 確かにカマキリの化け物だ。一匹の様だが、大きさは今まで見て来た昆虫の怪物の比では無い。高さが2メートルは超えて居そうだ。今まで相対して来た魔物の数々に比べても、危険度はけた違いだと、本能が告げていた。


 海慈と田中はお互いの眼を見て、やり過ごす事を確認し合った。その化け物はゆっくりと近づいて来る、まるで自分の力を誇示するかの様に、ゆっくりと足を運ぶ。海慈達とって良い材料は何かと言うと、その怪物は店舗の中には興味を示さない事だった。しかしその三角の頭と二つの大きな複眼は見る人に、畏怖を与えるに事欠かない。その数えきれないたくさんの眼に見つめられていると恐怖を感じざるを得ないのだ。


 そのカマキリが、海慈達の潜んでいる店舗前を通り過ぎようとしていたその時。通路側の窓に陣取っていた板倉が小さく悲鳴を上げた。


 「ひい!」


 どうやらそのカマキリの怪物と目が合ってしまったようだ。彼女の勘違いでは在るが、怪物に声を聞きかれたならば、もうどうしようもない。海慈は店舗の入り口から飛び出すと、すれ違いざまにカマキリの腕を一本切り落として、反対側へと駆け抜ける。海慈も田中同様に魔物と戦う中で、スキルスクロールを手に入れていた。瞬発力を底上げするスキルの様で、愛用のサバイバルナイフと相まって素早い動きからの一撃は強烈なものを持っていた。


 しかし、カマキリの怪物に奇襲をかけて、腕の一本を切り飛ばした後の返しで、次いでとばかりに、危険な鎌を排除する試みは、もう一方の鎌に防がれていた。海慈をぐるっと頭を回して見据えるカマキリ。海慈の動きに呼応する形で田中と荒川は飛び出してきて、怪物を三人で囲むことに成功する。正面でけん制しながら後ろの二人が攻撃を加えるフォーメーションが出来上がったのだった。


 戦いの中で囲まれるという事は、囲まれた側が不利になるに等しい。しかしそれはお互いの力が拮抗して居る場合の話だ。


 力も素早さも格上の相手に対して、多少有利な展開になって居るに過ぎない。しかし、その事が海慈たちの命を救う事になる。


 三方から牽制する事で、カマキリの化け物の攻撃を、まともに受ける事なく凌いでいるのだから。しかし、それは手詰まりの延長に他ならない。海慈、田中、荒川、どちらかが欠けると途端に瓦解する、薄氷を歩む様な戦いなのだ。


 荒川も海慈や田中と同じ様にスキルを手に入れていた、力を増強するスキルだった。海慈が、中華店の厨房に有った、棒たわしを束ねて即席のさす股を作ってくれた。殺傷能力こそないが、牽制と攻撃の防御位はできる。


 田中のファイヤーボールと、マップの棒の牽制で注意を引きつつ、海慈が後ろから飛び込んで、柔らかそうなお腹を切り裂く。


 カマキリが海慈に注意を向けると、すかさず荒川がさす股モドキで割って入り、海慈の退避を助ける。そして、田中のファイヤーボールに繋げていく。


 その流れでちまちまと、カマキリの怪物に手傷を与えて居たのだ。しかし、そのままでは勝機を見出す事が出来ない。カマキリの大きさでは、店舗の入り口を通る事が出来ない、一度、店舗内に退避して態勢を立て直す事にする。


 「田中さん。荒川さん。此処では広すぎる。一度店舗内に退避します」


 そう叫んだ海慈は、カマキリの注意を自分に向けさせる。怪物との戦闘は避難している店舗の外が基本では在るが、戦いにおいて絶対はない。当然店舗内に避難しての戦い方も話し合っている。


 その手順に従って、まず海慈が怪物の注意をひいて、その隙に田中と荒川が店舗内に避難する。その後に、遠距離攻撃の出来る田中の、ファイヤーボールでけん制している隙に、海慈が店舗に飛び込む。


 当然、カマキリの化け物は追撃してくるが、廊下の広い通路と高い天井とは違い、狭い店内に身動きが取れずにいる。しかも狭い入り口から上半身をのぞかせる様にして侵入して来た。


 海慈たちは、店舗内に有る椅子やテーブルを盾にして戦うが、動き回れない分肉弾戦になる。要は足を止めての殴り合いとなったのだ。


 海慈たちに有利に働いたのは、カマキリの大きさだ。太い胴体が入り口に閊えて身動きが制限された。


 しかし、その戦いの中で、海慈は致命傷を負う。左手は手首の当たりから切り飛ばされ、右足を膝の少し下で潰されたのだ。それだけならポーションで止血が出来たのだが、胸のあたりを鎌で貫かれてしまったのだ。


 背中から鎌で貫かれ、カマキリが食いつこうと頭に引き寄せられた瞬間、海慈は手放さなかったナイフを、三角の頭と繋がっている細い首の付け根に突き入れた。


 確かな手ごたえを感じて、海慈は意識を手放した。彼の放った一撃は、カマキリの細い首の付け根に食い込んだ。海慈の頭を齧ろうとしたカマキリが頭を傾けた。その拍子にうまい具合にカマキリの頭が飛んでいく。


 カマキリも自分の頭が無くなった事に、気が付かなかったのか、暫く同じ姿勢で立っていた。怪物が光に還元されていく事で海慈が放り出された。


 その光景は雫斗は見ていなかった。子供たちは危ないからと奥にかくまわれていたのだ。しかし悠美はその光景をつぶさに見る事になる。


 カマキリの怪物と刺し違えた夫が、怪物が消えると同時に倒れ込んだ時は、生きた心地がしなかった。しかし、夫が仰向けに倒れると同時に彼の胸元に、虹色の小瓶が姿を現した。


 悠美は、怪物が落す小瓶は、傷を治すポーションだと聞いていたので、すぐさま夫に駆け寄り、瓶の中身を彼に振りかけて、残りを口に含ませた。


 海慈と悠美の周りが強い光に包まれる。しばらくして光が収まると、横たわった海慈の隣に、唖然とした悠美が座っていた。田中が近付いて海慈の状態を見るが、何処にも傷の無い体に驚いた。


 「奥さん、高崎さんは大丈夫ですか? 胸を貫かれたように見えたのですが?」


 田中の問いかけに、光に包まれて唖然としていた悠美が我に返る。慌てて夫の体を調べる。潰れている筈の足が元どおりになって居る、切り飛ばされたはずの手首も元に戻っている。致命傷の胸の傷も無くなっていた。


 悠美は感極まったのか、言葉が出てこない。田中は海滋の体の状態を確かめると、店舗の奥に運び込んだ。


 「驚きました。明らかに重傷を負って。いや、致命傷に近い傷が、一瞬で癒やされるとは。・・・・・・とにかく。奥さん高崎さんが、ご無事で何より」と田中が海慈の傷が治ったことを喜ぶ。


 「あ、ありがとうございます」夕美は、夫の手を握りながら、まだ震える声で答えた。


 「お母さん、お父さんどうしたの」雫斗は、唯ならぬ声で、父の名を叫ぶ、母の声を聞いて奥から出て来た。


 「大丈夫よ。お父さんは無事よ」


 雫斗が目にしたのは、横たわる父親の姿。左手の裾はちぎれて血が滲んでおり、右足のズボンも血まみれだった。左胸の辺りは切り裂かれて、おびただしい血の跡がまだ生々しく滲んでいる。その光景にショックで固まっている雫斗を、優しく抱き締める悠美。


 「うううぅ」


 海慈が目覚める。妻と息子声を聞いて気がついた様だ。しかし、状況が掴めずぼんやりとしている。


 「あなた。大丈夫ですか? 私が分かりますか?」悠美がとっさに夫の手を取り話しかける。


 「ここは」と言いかけて、周りを見る。大勢の人に囲まれている事に戸惑いがあるようだ。しかし徐々にカマキリの怪物と対峙していたことを思い出して、起き上がりかける。しかし体に力が入らずそのまま倒れ込んだ。


 「あなた無理をしないでください、大怪我を負っていたのですよ」床に頭を打ち付ける寸前で、悠美に支えられて静かに横たわる。


 「あの怪物は?」まだ覚醒しきれていないのか、ことばも片言にしか出せない様だった。すると田中が事の顛末を話す。


 「高崎さんが仕留めました。しかし、あなたはかなりの深手を負われた、今は動かずに休んだほうが良い」怪物が倒されたと聞いて、海慈は安心したのか目を閉じる。浅い呼吸に彼が眠ったのが分かった、悠美は雫斗を抱き締めながら、深いため息を付く。


 「父さんは、大丈夫なの?」雫斗の不安げな問いに。


 「ええ。もう大丈夫」と自分に言い聞かせるように話す。すると外を警戒して居た荒川と板倉が異変を察知して田中を呼び出す。田中はこれ以上の厄介ごとは勘弁してほしいと思いながら、荒川のもとへと居そうだ。


 「どうしました。また別の怪物ですか?」壊れた入り口の陰から店舗の外を警戒して居る荒川の後ろから田中が聞いてきた。


 「何か違うようです。救助隊でしょうか?」と荒川は警戒しながら田中に聞く。救助の民に来た人間が押し黙ったまま来るとは思えなかったのだが、ここは戦場と変わりがない。声を立てれば敵が来るとも限らないのだ。


 「救助隊か?」田中は意を決して声を張り上げる。声に反応した人影は、物陰に伏せると。


 「そうだ。助けに来た」と声を掛けてきた。田中は半身を入り口から出して棒を振り上げた。


 「ここだ。女性と子供がいる、助けに来たのは貴方達だけか?」救助に来たにしては人数が少ない。近づいて来たその人たちは自衛隊の斥候の様だ。


 「いや。我々は偵察で来ています。この階層に要救助者がいるとは驚きました。何名の人がいるのですか?」この小隊の隊長らしき人が聞いてきた。


 「女性と子供が十三人。男性が私を含めて二人です」そう話した田中が、これまでに経緯を簡単に説明する。


 その後は、彼らと共にこの空間の外へと出る事が出来た。救助された人々は一時保護施設へと隔離された、剣毛期の為らしいのだが。二週間の隔離検査の後、自宅へと帰る事が出来たのだった。


 その隔離期間中に、雫斗に妹が出来た。両親は「あの時、産気付かなくてよかったね」と笑ってはいたが。雫斗にとっても嬉しくも有り、気恥ずかしさもある不思議な感情を感じていた。


 その後に起こった事といえば。各地に不思議な空間が多数出来た事だった。当然その空間に巻き込まれる人も居る訳で。その後の一年は日本のみならず、世界が混迷の時を迎える事となった。しかし人類もただその試練を黙って享受していた訳では無い。


 この空間に入り、怪物と渡り合いながら、持ち出して来た異物の、調査研究を進めて社会生活の糧としてきたのだった。


 かくして。その不思議な空間と、人類の共存の時代が始まったのだった。


 



 



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