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4.義弟エイジ・アッカー


 僕がこの家に養子に来てすぐにアッカー公爵家の御令嬢、義理の姉になる人が高熱で倒れてしまった。一日で熱は下がったみたいで良かったけれど僕は倒れる前のリンダ様とその後のリンダ様が別人のように見える。初日の挨拶の時も優しくしてくれたけど……何故か寒気がした。怖くて逃げだしたかった。なのに遊びに行こうと誘ってくれたリンダ様は――リンダ義姉さんは温かい笑顔、楽しい話、あの時感じた恐怖は何だったんだろう……僕の気のせいだったのかな、緊張からくる。

 僕の行きたい所に行こうと言ってくれたリンダ義姉さんは本当に僕に付き合ってくれて一緒に花を摘んだりしていて楽しそうだ。お礼に何か……指輪なら僕でも作れるけれど、義姉さんとは言っても同い年だし少し恥ずかしいな、そういえばどうしてこんなにも綺麗で可愛い公爵家の御令嬢なのに十一歳になっても婚約者がいないんだろう?? 噂では王子様と婚約するんじゃないかって聞いた事があるけれど……。そういえば、確か、そうだ!! 性格が最悪だって噂も……僕があの日感じた恐怖、噂は本当だった?? じゃあ今目の前にいるリンダ義姉さんはもしかしたら……演技、しているのかもしれない。いつか本性をみせて僕を。でも、これを渡したら笑ってくれる気しかしない。


「リンダ義姉さん、コレ……」


 花で作った指輪を渡すとやっぱり、想像通りの笑顔で受け取ってくれた。嬉しくて嬉しくて胸がいっぱいになる。でもそんな幸せな時間を止めるような事が起こった。魔獣が出たのだ。確かリンダ義姉さんは闇魔法、僕は水魔法だから僕が――そう思った瞬間リンダ義姉さんに隠れてって言われて怖くてついその言葉に従ってしまった。


「リンダ義姉さん……強いのかな……やっぱり僕も!!」


 そう決心した時だった、リンダ義姉さんの手から虹色のとても美しい技が出たんだ。あんなの見た事ない……そして魔獣は一瞬にして灰となった。凄い、凄すぎる。思わず駆け寄ってリンダ義姉さんを見ると瞳の色が虹色に輝いていて……あまりに人間離れした美しさにぼんやりしていたけれど少し経つと元の紫色の瞳に戻っていた。何だったんだろう……もう一度、見たいなぁ。

 あの日から毎日リンダ義姉さんは僕を遊びに連れ出してくれた。ただ公爵家の庭でしか遊べなくなってしまったんだけれど。外に出た事がバレてリンダ義姉さんがこっぴどくお義母様に叱られたのだ……普段は甘い方らしいけれどやっぱり危ない事だったみたいで……僕も連れて行った事でさらに叱られてしまったみたいで申し訳ない気持ちになった。僕も行きたいって、一緒に叱られるって言ったのにリンダ義姉さんは「私が叱られている間、黙ってお部屋にいなさい」って言ったんだ。本当にリンダ義姉さんはいつでもかっこよくてこのままじゃ男として、リンダ義姉さんに見てもらえない!! え?? ええ?? 男として……僕は男として!! リンダ義姉さんに見てほしいの!?

 ――ええええええええええええええええええええええっ!!


 コンコンッ


「はっはい!!」


 驚いて声がひっくり返る。なんだか恥ずかしいままドアを開けたらリンダ義姉さんがニコニコと立っていた。


「今日はエイジのお部屋で遊びましょう。と、言ってもお茶をしながらおしゃべりしたいなって」


 ニカッと歯を見せて笑う彼女にいろいろと自覚してしまった自分はきっと赤面していたに違いない。そんな僕を見て不思議そうに首を傾げるリンダ義姉さん。可愛い……な……。

 メイドにお茶を用意してもらって二人でおしゃべりを始める。リンダ義姉さんは、このお家には慣れた?? とか嫌な人はいない?? とか僕の事を心配しているようだった。ああ、だから今日はおしゃべりしようって誘ってくれたんだ。本当に優しい人だな……演技しているかもしれないなんて思った自分が恥ずかしい。彼女の事を好きになる……好き……に、なる資格なんてないのかもしれない。


「エイジ?? どうしたの??」


 僕はすぐに顔に出るようだ……。心配させてどうするんだ。


「何でもないよ。ただ楽しいなって……その、思って」

「本当!? 嬉しいわ。私だってエイジとこうして仲良くなれて嬉しいわ」

「仲良く……」

「え?? 違うの?? エイジが『仲良くしてくれてありがとう』って言ったのよ、ふふっ」

「違わない。仲良し、だね」


 ふふっ、と二人揃って笑いあった瞬間はとても心地の良い時間だった。ずっと続けばいい、ずっと続くのかな……期待と不安の混じる瞬間だった。だってこんなに素晴らしい女性に婚約者がいないなんてやっぱりおかしい。お義父様は仕事はバリバリ凄いらしいけれど子育てに関してはのんびりしているように見える。ただ僕を養子に迎えたのは……そういう事だよね。リンダ義姉さんはいつかお嫁にいく……。


「リンダ義姉さんって婚約しないの??」


 思い切って聞いてみる。


「ええ?? あーまぁ……そんなお話もあった気がするけれどなんか断られたりしているうちにこの歳になっちゃったのよね~」

「そう、なんだ」

「早くみつけないとダメよねー。でもねーこうしてエイジと遊んでいる方が楽しいのよねー」

「え??」

「あっ!! こんな事お母様に聞かれたら……内緒ね。婚約の事一番心配しているのはお母様なの」

「うん……」


 やっぱり乗り気ではなくてもリンダ義姉さんはちゃんと考えているんだな。僕が気持ちを伝えられる日はこないのかな……。

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