18.リンダ・アッカーの噂
僕等が学園に入った今でもリンダの悪い噂はなくなっている訳ではなかった。もうそろそろなくなっていると思っていたけれどそんな簡単に消えるものではないのだと思い知らされた。
僕、リオン・オールディスがリンダへの恋を自覚したのは十一歳の頃のお茶会でだ。その頃は最悪な噂がそこら中から聞こえてきていた。エヴァンやデレルのようにリンダに全く興味がなかった二人は全然気にしていなかったと思うけれど……まぁ、婚約者にしなかった理由にはなっていそうだけれど。僕の場合は少し違うから、好きではなくても興味はあった。どうすればあんなに性格が悪くなるんだろう?? と不思議でたまらなかった。そりゃあ公爵家といえば王族の次に権力をもつ……でもそれだけでそんなに横暴に、暴力的に、我儘に、なるのだろうかと。
子どもの頃に何度かお茶会で会っていたけれど本当に傲慢な人だった。おまけに王子なら誰でもいいから婚約者に、なんて……狂っているとしか思えない、失礼極まりない、何らかの罰が与えられてもおかしくない言動だ。王族に対しての侮辱だから。他の御令嬢に対してなんて本当に酷いものだった、水をかけられたり足を引っかけられたりするのなんてかわいいものだった。
でも今は……あんなに優しい……可愛くて可愛くて僕だけのリンダでいて欲しいと本気で思っている……なのに伝わらない。何故?? 昔は王族なら良かったんじゃないの?? 今では僕だけじゃなくなってしまったんだけれど……十一歳のあの日が最大のチャンスだったのに。
学園の中ではリンダの噂は半々、といった所かな。そうだな……この間聞いたのは……
『リンダ・アッカー様が同じ学年とか不安ですわよね』
『そうですわ、近付くと一体何をされるのか……』
『どうやらあの平民のミント・イェレン、酷いイジメにあっているらしいですわ』
『まあ、平民などどうでもいいですけれど義弟のエイジ様も……暴力を振るわれているとか……』
『酷いですわね』
『怖いですわ~』
『何されるか分かりませんので近付かないようにしましょうね』
『ええ、そうですわね』
なーんてね。一体どこの誰がリンダを陥れようとしているのか……それとも幼い時にやってきた事のツケがまわってきているのか……ただミント・イェレンをイジメているとかエイジに暴力とか、実際ない事なのに広まっているという事はやはり誰かが広めているんだろうと僕は考える。でも、僕が心配なのはそっちではない。リンダは公爵令嬢だ、おかしなことをする者などいないに等しいだろうから。所詮噂止まり。それよりも悪い噂ではないもの……僕にとっては悪い噂なのだ……
『リンダ・アッカー様って昔は悪い噂ばかり聞いていたけれど俺この間助けてもらったんだ』
『君もかい?? 僕もこの間魔獣に襲われて……驚いて、情けないけれど腰を抜かしてしまったんだ。だって学園で魔獣が出るなんてほぼないだろう?? その時リンダ様が闇魔法で瞬殺して助けてくれたんだよ』
『闇魔法は弱いって下に見られる事が多いけれどリンダ様のお陰で言われなくなったよな』
『僕もこの間本を落としてしまって拾うのを手伝ってもらったよ』
『リンダ・アッカー様、見た目も麗しいよな……はぁ』
『お前には無理だぞ』
『何だよ、分かってるよ。でもまだ婚約者はいないだろう』
『確かに!!』
なーんて……ね……。これは駄目だ、早くなんとかしないと……。女子生徒と男子生徒でどうしてこんなに噂の内容が違うんだ、しかも男子生徒の方は間違いなく真実!! 僕が見ていない間に危険な事ばっかりして!! それになんだ……このライバルの増え方は!! 尋常じゃないよ。まだ入学から一月ほどしか経っていないのに。
そうそう、そういえばリンダもたまにおかしいんだよね。ミント・イェレンと話していると急に離れて行ってしまうんだ……もちろんミントを避けている訳ではなく……僕やエヴァン、デレル、エイジと話していると……なんか『邪魔しちゃなんだから~』とか言いながら何処かへ行ってしまう。そういうのも見られていたりしたらイジメているように見えるのかな……。いや、それならミントに言いがかりをつけて僕等から離すんじゃないかな。分からないな……。全然、分からない。
そういえば入学して一月経ったら親睦パーティーがあるんだったな……ダンス相手に立候補しなくちゃ、早くしなくちゃめちゃくちゃになる。それはそうとこのパーティーでリンダの悪い噂、なくなるかもしれないよね……うん。いや、男子達の噂も消し去りたい気持ちもあるけれど僕が物凄く小さい男みたいじゃない?? 婚約者、決まったりしないよね!? な、なんか心臓が……倒れそう。はぁ、ダンス相手に立候補はするけれどきっとエイジになる。婚約者がいない今、家族であるエイジになる可能性が高い。当然エイジもリンダを放っとかないはずだしね。
「はぁ~、何にしろリンダが嫌な思い……しなければ、それで……いいかな」
悪い噂は僕がコソコソ火消しに回る。




